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161話:ばれなければ大丈夫

「なるほどですね」


 ちょっと強引に攫ったせいで疲れてるルイユに経緯を説明した。

 まぁどうせ金羊毛の話もしなきゃいけなかったし、別にいいよね?

 ただ問題はこの金羊毛、河岸変えしたばかりだから持ってるエフェンデルラントの情報が少ないこと。


「おらおら、知ってることは全部話したほうが身のためだぜ?」

「本当に俺ら全部話しましたって! 新参者が知れることなんてないんですよ!」


 アルフがふざけて脅すけど、本気かもしれないと勘ぐったエックハルトが慌てる。


「何もしてないのは見てましたから、そこまで身の危険を感じる必要はありませんよ」


 どうやらルイユは金羊毛に対しては怒ってはいないらしい。


「ただ僕はそうでも、あなたたちは明確な八つ当たり先なので他の獣人に遭遇した場合はお気をつけて」

「そう、よね。不本意だけど忠告ありがとう」

「感謝する…………」

「ふぇー、獣人って頭良かったんっすね」


 思ったことを口にするエルマーは、ウラとジモンの両方から頭を叩かれる。

 謝り倒す金羊毛の低姿勢に微笑みながら、ルイユの目が光るのを僕は見た。


 なんだかロックオンって感じの目だ。

 たぶん情報収集相手に口の滑るエルマーに狙いをつけたんじゃないかな?


「そう言えばオイセンから見たエフェンデルラントってどんな印象なの? 仲悪い理由ってある?」

「国境線と水ですね。同じもん取り合ってるんで仲が良くなることはないんじゃないかと」

「単純にして昔からある争いの理由だな。言い換えれば生存のための争いだ」


 エックハルトに頷きながら、アルフが含蓄ありそうなことを言う。


「姫騎士はエフェンデルラントに関して何か情報ある?」

「お恥ずかしい話、南東は神殿への信仰が及んでおらず。聖騎士が常駐している国もないので詳しくは」

「団長たちなら何か知っているかも知れないけど。私なんか隣国同士で仲が悪いと初めて知ったくらいで」


 真面目に答えるシアナスも全く何も知らないブランカ。

 騎士なら教養として他国についても見識があるけど、従者上がりの二人は知識が少ないんだって。


「あとは副団長からエフェンデルラントは傭兵の国だと聞いただけですね」

「そうなの、アルフ?」

「だから俺に振るなって」


 今この場にいる僕らの中で一番この辺りに住んで長いはずなのになぁ。

 そんな僕の視線から逃れるアルフに、見かねたウラが答えてくれた。


「エフェンデルラントは外貨を稼ぐために傭兵が出稼ぎに行くのよ。それと南隣のアイベルクス共和国に国内で採れる鉱石を売って武器を買うんで、買ったら使う、使ったら買うの繰り返し」

「鉱石はあるんだよね? エフェンデルラントは自国で作らないの?」

「鍛冶には燃料が必要…………」


 ジモンが答えるけど、短くてわかんない。

 エフェンデルラントには燃料がない?


「確かに使える木が少ないってのあるっすけど、やっぱり少なくて困るのは水っすね」

「あ、それは聞いたことあるよ。水不足なんだよね?」

「いや、あるんだが飲んだり農耕したりには向いてない毒性のある水なんだよ」


 エックハルトの目が遠くを見るような感じになる。

 どうやら金羊毛も河岸変えしてすぐお腹を壊したらしい。


「エフェンデルラントの人はどうしてるの?」

「金があるなら他国から買うんですよ」

「そうじゃなけりゃ酒を造るってもんだ」


 毒性のある水と言っても、お酒にすると飲めるようになるらしい。

 毒を無効化して別の物を作るとか錬金術みたいだなぁ。


 と思ったら錬金術は台所からって、またいらない前世の知識が出て来た。

 本当に僕はどんな人間だったんだか。


「オイセンが妖精王さまにやられて、エフェンデルラントとしての出方はどのようになっていますか?」


 話を聞くだけだったルイユが質問を投げかける。

 戦争関係に踏み込んだ質問に、金羊毛は白を切るつもりはないらしく素直に答えた。


「オイセンのことは妖精王に呪われたって、エフェンデルラントの奴には言ってる。ただ、俺たちも詳しくは知らないんだよ」

「あ、でもちゃんと負けたことは伝えたわよ。こっちに来てまで妖精とことを構えたくはなかったもの」

「情報を欲する貴族に声かけられた…………」

「ってもあの貴族も下っ端っすから。何処まで俺らの話通ってるかわかったもんじゃないっすよ」


 エルマーの言葉になんだか恨み言のような雰囲気を感じる。

 よっぽど獣人の国に忍び込む作戦嫌だったんだなぁ。


「オイセンの弱体にエフェンデルラントが攻め入る様子はありませんか?」

「ないな。お前さんら獣人のほうが重要なようだぜ」

「正直ここまでエフェンデルラントが獣人との戦争にご執心だとは思わなかったわ」

「いっそ執着のようだ…………」

「あ、そう言えば蛇作戦って成功っすか? 失敗っすか?」


 空気を読まないエルマーに、みんな答えるのが嫌で黙る。

 なんて言っても角が立つよね。雰囲気悪くなるのも嫌だし獣人の肩をもって答えておこう。


「失敗じゃないの? 門は無事だし、攻めきれなかったんでしょ」

「…………そうとも言えません」


 ルイユは眼鏡を直しながらあまり深刻そうではない声を作って、金羊毛を窺っていた。


「そう言えば獣人の国って、まだ兵士が守ってたよね。つまりエフェンデルラント軍は失敗と思ってないから退いてないってこと?」

「そのとおりです」


 ルイユの肯定にエックハルトは考えて口を開く。


「正直俺たちはエフェンデルラントにそこまで執着はない。離れる前提の場所だ。義理立てもない。だからって今住んでる場所が戦火に巻かれるのはごめんだ」

「じゃ、エフェンデルラントで何かあったら森に入っていいからきりきり話せ」


 なんかアルフが雑に言って笑う。

 それって獣人の領域からは自力で脱出しろってことじゃないの?

 まぁ、いいか。しぶとそうな人たちだし、自力でここまで逃げて来れそうな気がする。


「すみません、妖精王さま。その前にお聞きしたいことが。戦争状態の今、冒険者は何をしているんですか? いつもならエフェンデルラントからは軍しか出てこないはずでは?」


 どうやらルイユは細かく知りたい内情があるようだ。


「普通に魔物相手だな。エフェンデルラントでは冒険者って森には入らないらしいって住んでから知ったぜ」

「まぁ、考えてみれば獣人に見つかるからね。あたしらが今回ここにいるのは後援の貴族がねじ込んだからだよ」

「だが忍んで森に入る者もいると聞く…………」

「けど獣人に嗅ぎつけられるからやるもんじゃねぇって、エフェンデルラントの冒険者は言ってたっす」


 あれ、もしかしてノームの住処に人間が来なくなったのって…………まぁいいか。


 探り探りの会話が続き、姫騎士と一緒に僕たちも聞きに回る。

 というかエノメナがそわそわしてるけど、村人には刺激が強い話なのかな?


「エフェンデルラントでは魔物被害が頻発していると聞いていますが」

「げ、なんで知ってるんだよ。…………ま、戦争してんだ内情は探るよな。そのとおりだ。東のほうから流れてくるらしい」

「オイセンではそんなことなかったけど、エフェンデルラントではよくあることらしいわ」

「東に長い国土のせいだろう…………」

「あと化け物揃いの南に近いのも理由じゃないかって聞いたことあるっす」


 エルマーがなんだかエルフに失礼なこと言い出したなぁ。


「ふむ、エフェンデルラントの魔物は南から流れてきているのですか?」

「それはない」


 実はずっと机のある執務用の部屋で書き物をしていたブラウウェルは、僕たちの声が聞こえる距離にいた。


「森の東で南の山脈を越える道はディルヴェティカのみ。あとは台地を回るしかない」

「だったら無理そうだね」

「南からなら行くまでに他の国に被害が出ているはずだ。エフェンデルラントだけはおかしいだろう」

「ってブラウウェルは言ってるけど、これってやっぱり魔王石かな?」

「わかんねぇなぁ。運のおかしな流れもないし。エフェンデルラント軍見てないから断定はできないけど」


 金羊毛もわからないし、姫騎士も知らない。もちろんエノメナも語れることはない。

 ブラウウェルは言いたいことだけ言って仕事に戻ると、ルイユだけが魔王石って単語に驚いていた。


「あ、言ってなかったっけ。そうだエフェンデルラント調べてる時に魔王石見なかった?」

「あったらすぐにお知らせしています。ある可能性が?」

「オイセンに三十年前あって、エフェンデルラントに持ち込まれた可能性があるんだって」


 ルイユは渋い顔で眼鏡を直すと、ふと動き止める。

 その目はアルフに向けられていた。


「妖精王さま、その魔王石についていつからご存じで?」

「うん? オイセンの森の近くの村にあった時からだな」

「…………教えてくださいよ」


 悪気のないアルフにルイユは項垂れる。

 人間たちは気の毒そうにルイユを見ていた。


「ルイユ、獣人のほうで魔王石の有無調べられる?」

「いえ、魔王石が大きな宝石であるので目立ちはしますが、妖精王さまのように見てわかる能力がある者もいませんし」


 そんなルイユの答えにアルフは手を打つ。


「ここで集まっていてもらちが明かないな。だったらせっかく金羊毛もいるんだし」

「え?」

「エフェンデルラント行こうぜ!」


 そんな野球誘うみたいな気軽さで…………。


「なーに、ばれなければ大丈夫だろ」


 アルフの楽観に金羊毛はもちろん、ルイユも聞き間違いを疑って動きを止めてしまっていた。


毎日更新

次回:若返りの秘薬

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