136話:食糧調達クエスト発生
「さぁ行こう、友よ!」
元気にコーニッシュが拳を振り上げた。
実は昨日の夜、エルフ王と僕が話してる時からコーニッシュはいる。
グライフとユウェルがいた寝室に侵入して来たそうだ。
悪魔対策をしてたエルフの城だったけど、連日コーニッシュの食事を食べていた僕たちが侵入の足掛かりにされたとかなんとか。
「ユウェル、つき合わせてごめんね」
「いえ、いつもご相伴にあずかってますから。食材調達くらいお手伝いします」
エルフの城に堂々と侵入したコーニッシュは、僕とグライフがいると敵は動かないのではないかという推測を聞いて提案した。
だったら不自然じゃない目的を喧伝して、一度王都を離れようと。
その不自然じゃない目的が今回の食材調達だ。
「この時期にしか生じない野菜などどうでもいい。猪を狩るぞ、仔馬」
「グライフは邪魔しないでね。僕草食だから」
どうも行く先には山の主がいるらしくて、グライフもやる気だ。
山の主の猪って…………祟り神じゃないといいな。
「いざ行かん! 美食を求めて!」
コーニッシュはのりのりで一番前を歩く。
最初から食材のためにエルフの国に来たと言っていたんだけど、今日は二十年に一度手に入る食材とは別の物を取りに向かってる。
ついでで向かう食材調達にこれだけテンション高くなるなら、その二十年に一度しか手に入らない食材を取りに行くとなればどんなテンションになるんだろう?
「ま、待て! 勝手に進むな!」
後ろからそんな声がかけられた。
振り返ればエルフの国の街の門が見え、グリフォンの牽く馬車が三台並んでいる。
御者と同乗者のエルフが二人ずついて、グリフォンはすぐさま僕たちを追って来た。
「グリフォンってやっぱり力強いんだね」
「上空に掴み上げてやろうか仔馬」
やだよ。いきなり何、グライフ?
彼らは僕たちのお目付け役らしい。
国の生態系壊されたら困るからって言われたけど、僕とグライフがいると動物問答無用で逃げるから、うん。生態系は少し乱れると思う。
「そう言えばなんでエルフのお城にグリフォンがいるの?」
僕は人化したまま歩いて…………僕だけ子供だからちょっと小走りぎみだ。
ともかく、やる気に満ちたコーニッシュを先頭に列を作って進む間、気になっていたことをグライフに聞いた。
「大グリフォンの所から出た者たちの就職場所だからな」
「あ、グライフの兄弟なの?」
「フォーレンさん、たぶん異母兄弟ですよ」
「まず兄弟という考えが則さん。同じ時に卵から生まれたならまだしも。あれは同種というだけのほぼ他人だ」
別の時期の卵でしかも母親が違うから?
グリフォンの家族関係って謎だね。
「で、グライフが襲ってたのはどうして?」
「以前負かした時に負け惜しみがうるさかったからな。少しは腕を上げているかと遊んでやったのだ」
「暇潰しで煽りにいかないでよ」
「大して潰れもしなかったがな」
なんて話してると一人先を行くコーニッシュが急かしてきた。
「こんなゆっくりしてたら時間がなくなってしまうよ。走れ! 走るのだ!」
「今までに見たことないくらいやる気だね。じゃ、僕に乗る?」
「これは面白い。乙女以外を乗せるのか、我が友は」
勇んで僕に跨るコーニッシュを見て、グライフはユウェルに声をかけた。
「…………下僕、主人からのありがたい助言だ。やめておけ」
「え? は、はい」
僕がコーニッシュ乗せて走ると、ユウェルはグライフの鉤爪に掴まれて飛ぶ。
突然スピードを上げた僕たちに、エルフたちも慌てて追いかけて来た。
「我が友は地形も考えずに走るものだね」
「うん、前グライフ乗せた時は不評だったよ。コーニッシュ平気なんだね」
「精神体だからかな」
物理的な揺れあんまり関係ないらしい。
精神体は興奮してると強くなるらしくって、以前ダウンしたアルフとの違いはテンションみたいだ。
「ユウェルも平気? すごい捕食されそうな運び方されてたけど」
「はい、あの乱暴さもなんだか懐かしかったです」
「俺が運んでやったというのに。ありがたがれ、下僕」
それはそれでどうなの? いや、うん。こっちは元気だからいいか。
で、問題はあっちだね。
お目付け役のエルフたちは、腰を押さえてダウンしていた。
「置いてくよ?」
「ま、待て…………勝手は、許さん…………」
グリフォンはまだ体力あるみたいだけど、エルフって体力なさすぎない?
「だらしないなぁ。ちょっと走っただけなのに」
「なんだと…………! 我らは高尚な種なのだ! 獣と同じだと思うな!」
「僕たちと比べたんじゃないよ。人間より弱いってどうなの?」
「そんなわけあるか!」
えー? すっごい否定された。
「僕、馬に乗った人間に国を越えて追いかけられたことあるよ。その後、馬を脅して山を一周させたけど立ち上がったのに?」
「あ奴らか。馬が潰れても剣を取って貴様に挑みかかって来たな」
グライフは僕が言う相手がシェーリエ姫騎士団だとわかって頷く。
吐いてる人もいたけど、ランシェリスなんかは体力なくなっても気力で挑みかかって来ていた。
「え、そんな人間いるんですか? エルフは人間よりも身体能力は高いはずなんですが?」
「いたよ。三十人くらい?」
「あれは軍の一部にすぎんがな。確かにそこのエルフどもより気骨はあったと言えよう」
「人間って…………」
グライフが認めたことでユウェルが引く。
「さ、山脈の向こうはどうなってるんだ?」
「魔王に荒らされてまだ混乱が続いているのか?」
「戦いすぎて化け物染みた体力を獲得したと言うのか?」
喋る元気のないエルフに代わって、グリフォンがそんなことを言っていた。
「ま、動けないならそのまま待っててよ。出入り口ここだけなんでしょ?」
「大勢で行く必要はないよ。早く進むべきだ」
コーニッシュはすでに中へ足を踏み入れた状態でそんなことを言った。
僕たちはコーニッシュを追う形でお目付け役とグリフォンを洞窟の外に置いて行く。
「ここで採れる野菜ってどんなの? ここ危ないんでしょ?」
「精神体の自分にはあまり危険はないね」
コーニッシュが気軽に答えると、ユウェルが首を横に振った。
「ここは色々な危険生物が住んでいて、対策を万全にしても無傷では帰れないと言われる場所ですよ。その上、生息する生物は多種に渡るため対応が難しいんです。そんな所で野菜が育つとは初耳なんですが」
「ここに住む小動物が種を運んで発芽する。見た目は悪いが栄養価が高く煎じれば薬にもなる」
コーニッシュは食に対しては博識な部類のようだ。
「と言ってる間に面倒なのが出たぞ。仔馬、あれはスライムだ」
「スライム?」
定番のモンスターだなぁと思ったら、なんかはぐれメタルみたいなのだった。
もちろん顔はないし、一ターンで逃げることもない。
「地面を這ってるだけだけど、どう厄介なの?」
「生物について来て溶かすんだ、我が友よ。しつこい上に一度捕まるとその部位を切り離す以外は逃げられない」
「それに切っても分裂するだけなんです。死の概念がないとも言われる凶悪な存在で、種類によって持ってる毒も違うから見極めが大事なんですよ」
「そう言えば、いきなり跳んでくると聞いたことがあるな。スライムの上を飛ぶと時は注意しろと」
グライフがそう言った途端、スライムが何を思ったのか僕に向かって跳んで来た。
反射的に角で切り払って、直撃は避ける。
「うわ、切れた…………。動かなくなったよ? あ、溶けてる? どんどん小さくなってるけど?」
角で真っ二つになったスライムは、塩をかけたナメクジのようになってる。
角の触れたところから水が漏れるように消えて言っていた。
「…………ユニコーンの角を阿呆のように欲しがる人間の気持ちが少しわかったぞ」
「良く考えれば我が友はスライムの天敵か」
「ユニコーンの角はスライムさえ解毒するんですね」
というわけで、洞窟の中で僕が先頭に立つことになった。
なんかこの洞窟スライムが多いんだもん。
もうスライムに溶かされ尽して他の生き物はいないんじゃないの? と思ったらトロール出て来た。また定番のモンスターだなぁ。
「ぐへへ…………」
「えい」
「ぎゃー! 何か刺さった、ぎゃー!」
邪魔だしなんか嫌な笑い方したからお腹突いたら、大袈裟に騒ぎ出した。
そうか、人化してサークレットつけてるから角が見えてないんだ。
…………後この騒がしさ、僕知ってる。
「君、妖精? これ見て。何かわかる?」
「へ? あ、あー! 妖精王さまの気配! ははー!」
アルフの通信機を見せると、トロールは煙を出して小さくなる。
見上げる巨体が幼児くらいの大きさになった。
大きな鼻に突き立つ耳、前身は毛で覆われた二足歩行の…………。
これムー○ンじゃん。
「わたくしトロール、妖精王さまの加護厚き方の進路を妨害するような真似はいたしませぬ!」
角で刺したトロールが声を上げると、他にもムー○ン出てきて敬礼した。
「聞いた話では次々に襲ってくる面倒な存在だったはずなんですけど」
「便利だな、仔馬」
「自分が以前来た時も妖精が厄介だったのに。これはいい。さすが我が友」
うーん、危険地帯らしいけどいまいち緊張感がないなぁ。
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