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133話:喧嘩腰の訳

他視点入り

「妖精王さま、よろしいでしょうか」

「どうした、メディサ?」


 今日は夕暮れになっても話が終わらない中、私は柱の陰から声をかけた。


「どうしてそう実用性を無視するのですか!」

「美しさを損なってまで実用に重きを置く必要などない!」

「ぶふぉ! ふぉご、ふぉぼす!」

「お前さん、それはいっそ無駄というもんだ! と言っています」


 ルイユがティーナを問い質し、アングロスをフレーゲルが通訳するというここしばらく見慣れた光景。

 他の者もいたけれど、つき合いきれずにすでに帰っている。

 悪魔まで呆れて帰る状況というのはどうなのだろう。


「妖精王さま、獣人の迎えが来ております」

「あぁ、ルイユ夜目は効かないからな。ここまで連れてこないのはどうしてだ?」

「いらっしゃってるのがベルント将軍なのです」


 わざわざ将軍職がやって来たので、応接室に通した旨をお伝えした。

 すると妖精王さまはすぐに腰を上げる。


「わかった行く」


 妖精王さまはそう言って一階へと降りて行く。

 階段脇にある入り口を奥に進むと、かつての応接室があった。

 南向きの大きな開口部を持ち、昔は家具や飾りがあったけれど今は広いだけの部屋と化している。

 待っていたのは熊の獣人であり、獣人の国の軍人だった。


「どうも妖精王。お邪魔してますよ」


 優しげな声だけれど、実力重視の獣人の中で将軍と呼ばれる力は本物だ。

 熊の獣人というだけでも上位種であるのに、ベルントは獣人の国の三将軍の一人を務める。

 軍の一翼を担う、本来なら重鎮と言える存在だった。


「いやぁ、うちのルイユがすみません。こんな時間までお邪魔して」

「知恵を借りたいと声をかけたのは俺だからな。そっちはいいのか?」


 獣人たちの間で妖精王さまとの接触はいい顔をされない。

 それなのに来たのには理由があると、妖精王さまも察していた。


「えぇ、まぁ…………。ここはずいぶんと賑やかにやってるようですね」


 すぐには答えないベルントは天井を見上げる。

 上は玉座の間で、窓からは今も喧々諤々の声が聞こえていた。


「昔はこんなもんだだったんだぜ。他種族が集まると擦り合わせが難しくてな」

「他種族と言えば、例のユニコーンを見ましたよ。あれは優しげに見えて引くことを知らないようだ」

「わかるか? 実は魔王石取り戻す時、逃げる暇もないとわかったら突っ込んでいったんだよ」


 何処か得意げに言う妖精王さまに対して、ベルントは呆れぎみに目を瞬かせた。


「ただ普段は楽しいこと好きで争いを嫌う。逃げることも恥じないような奴なんだけどな」

「…………我が同輩もそうであってくれたら。おっと愚痴でしたね」


 ベルントは戦争状態である自国の状況を憂慮していた。

 元からこの将軍は穏健で、他の将軍の好戦的な主張とは噛み合わないところがある。


「妖精王が戻って少しは考えが変わるかと思ったんですが、どうも」

「えー? 俺に関わるなって言ったんだろ?」


 確かに獣人側からの反応は捗々しくないものだったはず。

 ベルントは妖精王さまの指摘に、太い指で頬を掻く。


「いえね、ユニコーンとグリフォン連れ帰ったなんて、人狼のこともあるのでこちらも警戒してまして」


 どうやら、フォーレンたちの処遇をまた投げられると思っての牽制だったらしい。

 かつて妖精王さまが保護した人狼は獣人国に託された。

 けれど獣人ではないため価値観の違いから諍いになり、妖精王さまが厄介の種送り込んだ形で遺恨を残したできごとだった。


「ま、本題はそこじゃないんですよ」


 何も言えなくなった妖精王さまに、ベルントはわざわざ足を運んだ目的を告げた。


「ルイユから流浪の民が暗躍していることは聞きました。それでエフェンデルラントでの動きを探らせたんです」


 獣に紛れられる獣人もいるため、ベルントは手の者を動かして人間の国で流浪の民の動向を調べた。


「もしかしたら、この戦争は奴らに仕組まれたかもしれない」

「やっぱり面倒な奴らだな」

「確定となれば、共通の敵ということにはなりませんか?」

「…………お前としては俺に介入してほしいのか?」


 ベルントは明言は避けるけれど、雰囲気が肯定していた。


「何、戦いに参加してほしいなどとは言いません。ゴーゴンはいるだけで抑止になる」


 今の獣人は力を貴ぶため褒めてるつもりだろうけれど、正直嬉しくない。

 実際、力があっても数に負けることがあるのは獣人も今人間たちとの戦いで身に染みているはずだ。


「人魚も結局介入したし、それはいいけどさ。そっちは大丈夫なのか?」

「えぇ、そのお言葉があれば後は国内の問題です。私が手はずを整えますよ」


 ベルントは笑って見せるけれど、難しいのではないだろうか。

 穏健故に舐められるところのある将軍だ。

 私は妖精王さまに従うけれど、獣人の国でどれだけベルントの意向が反映されるかは未知数。

 もし妖精王さまの入国を拒否し、私だけ虚仮脅しに貸せなどと言われた時には、はっきりお断りさせてもらおう。






 エルフの城に泊まることになった僕とグライフの部屋に、今ユウェルとスヴァルトがいる。


「なるほど、実際はエルフなのですね。ダークエルフは純血種だけですから、不思議だったんです」

「まさかここまでダークエルフに見識深い方がいたとはな。なるほど賢者だ」


 ユウェルの質問攻めにスヴァルトは白旗を上げて、本当のことを伝えた。


「ダークエルフってもっと色黒なんだね」

「残された記録は黒松のような肌、燃え尽きた灰のような銀髪、血のような赤い瞳ですから」

「そう言われると全然違うね」


 スヴァルトは肌の色を変えているとは言え、褐色程度だ。


「こやつも七千年前の都市の遺構を見つけて知ったことだがな」

「私、伝説を元にその都市を探している途中でご主人さまに出会って。ダークエルフの実物は見たことがないんです」

「つまり、その都市にはダークエルフの詳細な記述が残っていたのか?」


 スヴァルトもユウェルの話に興味を持ったようだ。


「残っていたと言うより、残されていたんです。地下に都市ごと封じられるという形で」

「地上にあっては滅ぶのみと、神を恐れてな」

「どういうこと?」


 グライフとユウェルが見つけた都市は七千年前に造られ、五千年前に焼却されていたそうだ。

 生き残りが断絶を予見して、残った都市を朽ちないよう地下に封じたらしい。


「神は天から見下ろす存在。だから神の目を逃れるため地下にと」

「そう言えば、下僕。妖精が神の遣わした人間の補助装置であることは言質が取れたぞ」

「本当ですか、ご主人さま!?」

「グライフ? あ、もしかして前アルフと話してた、神の人形とかって話?」


 頷くグライフは皮肉な笑みを浮かべた。


「妖精王にそれとなくかまをかけた。これが全く否定せん」

「もしかして最初の頃アルフに喧嘩腰だったのってそれが理由なの?」

「ふん、貴様の体たらくへの不満は本物だ」


 グライフに睨まれ、僕を見ないふりをする。


「妖精は人間のみを導く、怪物は神の威を示すための人形、悪魔は人間が弱れば動きを止める。なんと人間本位な神の意向か」

「確かにそんなこと言ってたね」

「全て、神の作った人間のため、ですか…………」

「話の腰を折って済まない。どういうことだろう?」


 スヴァルトだけわからず、説明を求めて来た。


「地下都市には、ある日人間が天より現れたと記述されていました」

「天より? 神が作ったという伝承は聞いたことはあったが、それが七千年前の都市に?」

「推定一万年以上前の出来事であるかと思います」

「あれ? 人間って妖精女王より前からいたんだ?」


 アルフから聞きかじった話だと、妖精女王を神が作ったのが一万年くらい前。

 人間が現われたのはそれ以上前だというユウェルは、僕の疑問に真面目に頷いた。


「一万年よりも昔、幻象種は何かしらの理由で混乱期にありました。その時代に現れた人間は、短命だけれど急速に数を増やして他種族を駆逐していたようです」

「都市の記述では、エルフの中でダークエルフが現われてエルフ自体が同族同士で争っていた。人間を脆弱と侮り対処をしていなかったが、時と共にダークエルフはエルフよりも人間を敵視し始めたそうだ」


 グライフはダークエルフを名乗るスヴァルトをからかうように見る。

 そんな本物のダークエルフが人間を滅ぼそうとしたところで妖精が現れたらしい。


「妖精が人間に魔法を与えて形勢は逆転。ダークエルフはいずこかへ去ったそうです。残ったエルフは五千年前の神の炎で危機を感じ、人間と交わる道を選んだと」

「地下都市はそうして人間に浸食されることを察したエルフが残すために封じていたのだ」

「えー? なんか人間が病原菌みたいな言い方だなぁ」


 そう書いてあったんだろうけど、なんかひどい。

 僕の感想に、グライフは肩を竦めた。


「当時としてはそのような認識であったろうな」

「神は人間のみを偏愛していると地下都市にはありました」

「あれはあれで神に対してずいぶんな憎悪を募らせた記述だったがな」


 そうなんだ。まぁ、滅ぼされたならそうか。


「ここにはそういう記述ってないの?」

「このニーオストは魔王時代にできた国だからな。千年も経っていないんだ」

「私が東に向かったのは、魔王時代の記述とその五千年前から変化したエルフの暮らしを調べるためでもあるんです」


 へー、ユウェルってちゃんと学者してるんだ。

 グライフに下僕扱いされて、悪魔の料理に舌鼓打ってる姿しか見てないけど。


「ところで客を招かんのか?」


 待ちきれなくなったグライフに、スヴァルトは苦笑して立ち上がった。

 うん、僕も気づいてたけど僕たち以外の人の気配がしてるんだよね。

 壁から。


「ではお呼びしましょう」


 スヴァルトが何もなかった壁を開くと、隠し通路が現われる。

 そこには一人のエルフが実はずっと立って待っていた。


毎日更新

次回:深夜のエルフ王

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