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128話:悪魔の友

「どうして城での滞在を断ったんですか?」


 僕たちはエルフのお城を出て、またユウェルの家に来ていた。

 宿の場所聞こうと思ったんだけど、泊まっていいと言われて言葉に甘えることにする。

 というか、グライフがもう面倒がって動かなくなったからだけど。


「だって、あの雰囲気じゃ安眠できそうにないし」

「ユニコーンでも格式を気にするんですか?」

「えーとね、そうじゃなくて」


 ユウェルは僕の言葉の解釈を間違える。


「下僕よ、世話になる気が起きないということだ。明らかにこやつを下に見ておったぞ」

「あぁ、それは…………エルフの習性と言いますか…………」


 言葉を濁すユウェルに、グライフは鼻で笑ってソファにふんぞり返る。


「人間もそうだが国を作る種は己の定規に合わぬ者を下に見る悪癖が抜けぬ」

「ご主人さま、それ国のお偉方に言ってないですよね?」


 ユウェルは普段と変わらないグライフに冷や汗を流した。


「くっくっく、もっとすごいことをこの仔馬が言ったぞ」


 なんかグライフが楽しげに僕を指す。

 うん、お城での僕の失敗談を話し始めた。


 あー聞きたくないしユウェルの反応も見たくないから、僕は台所へ退散することにする。


「コーニッシュ、何か手伝うことある?」


 ユウェルの家には今、悪魔もいる。

 店の奥が住居になっていて宿なしって訳じゃないらしいけど着いて来た。


「まだできないよ」

「それは、うん」


 どうやら手伝うこともないみたい。

 だけど、他人の家でいきなり料理ってどうなんだろう?

 創作意欲が湧いたらしいけど、自由だなぁ。


「あれ? その食材何処から持ってきたの? ユウェルが肉はないって」

「店の食糧庫と通じてる」


 そう言ってコーニッシュが顎を向ける先には、いつの間にか魔法陣が設置されていた。

 本当、他人の家で自由すぎる。


 台所使用はユウェルも快諾してはいた。

 コーニッシュはエルフの国でも有名な料理人で、店は予約も取れない人気店らしい。

 場所を提供するだけでコーニッシュの料理が食べられるならと喜んだほどだ。


「…………ほぼできてるように見えるけど。運ぶの手伝ったりするよ?」

「ひととおりコースだから、配膳まで待て」


 うわー、睨まれた。

 っていうかコース? すごいちゃんと料理だ。


「で、ちょっと気になってたんだけど、何その手?」

「包丁」


 うん、指が包丁になってる。しかも指ごとに種類別。

 それを器用に使ってどんどん料理していく。


「えー!? そそ、そ、そんなことを!?」


 ユウェルの叫びに、僕は言い訳をするため台所を離れた。


「フォーレンさん!」

「はい!?」


 途端にユウェルから飛びつくように肩を掴まれる。


「次にお城に行く時は私も行きますから! どうか同行させてください!」

「う、うん」

「ふはははは!」


 慌てふためくユウェルの様子を、グライフは大笑いで面白がる。


「それはいいけど、ユウェル、お城に行っていい人なの?」


 僕たちは門前払いされかけたんだけど。


「はい。これでも識者として許可は持ってます」

「へー。ユウェルってすごい学者さんなんだね」

「わからないことがあったら聞いてください、ぜひ!」

「そうだね。グライフは火に油注ぐことしか答えてくれないし」

「今回はあの羽虫の適当さと貴様の迂闊さだ」


 否定できないなぁ。

 と思ったらアルフから連絡が入った。


(フォーレン今いいか? ちょっと知恵貸して)

(何? ちょっと僕も恨み言語りたいんだけど?)

(うーん、それは後な。例えばさ、箱に詰める物について争ってる三人がいるんだ)


 いきなり例え話…………後でって言うし、ここは聞こう。


(一人は箱の中に整然と納めたい。もう一人は互い違いに安定させて納めたい。で、三人目は一つだけ必ず入れたいものが譲れない)

(話が見えないね。つまり、箱の中身を何を入れるかで争ってるの?)

(そういうこと。一から十まで全部決めたいのが最初の奴。ある程度譲歩はしても、効率的に詰めたいのが二人目。三人目は一つだけ譲れないって主張してる)

(三人目は相談次第だろうけど、一人目と二人目はどうなの?)

(完全に合わないな)


 つまり、一人目は全部自分で箱の中身を決めたいから折り合わない。

 二人目は箱の中身より並びに効率を求めるから、一人目と折り合わない。

 三人目は一つ譲れないだけだから話次第では他二人と折り合える。


(それって一人目除いて箱の中身決めたら?)

(それが箱を用意しようって言い出したの一人目なんだ)


 つまり一人目を抜くのはなし。だからこそ折り合いがつかずに争いになってる、と。


(箱を全部入るよう大きいのにするのは?)

(箱自体を大きく…………実用的じゃないなぁ)


 それが無理っぽいとなると、三者を並び立たせるには一つしかない。


(箱二つに増やせば?)

(それだ! ありがとな!)


 あ、切れた。僕の恨み言は?


「…………結局なんだったの?」

「どうした仔馬、羽虫からか?」

「あ、うん。なんか箱の中身が決まらずに争ってるから知恵を貸してくれって」

「遣いに出しておいて何をしているんだ?」


 僕はグライフにアルフの相談を説明した。

 ユウェルもなんの話かわからないと言うけど、グライフだけはわかったようだ。


「なるほどな。本当に仔馬を遠ざけて何をしているのやら」

「今のでわかったの? アルフが何をしてるか教えて」

「自分で考えろ。羽虫が言わないのなら言う必要はない。森に戻って確かめれば良かろう」


 帰ればわかるの? 何してるんだろう?

 周りに迷惑にならないことだといいんだけど。


「できたよ」


 コーニッシュはそう言うと、テーブルセッティングから初めてグラスを持ってきた。


「食前酒は子供もいるから軽いものを」

「家でコーニッシュのコース料理なんて贅沢ですぅ…………」


 ユウェルは食べる前から満腹そうな満ち足りた顔をしてる。


 そして運ばれる前菜は茹で野菜。

 その後にコーンスープっぽいもの。…………色が紫だった。

 で、エビのソースがけっぽいのの後に、肉は三角牛とか言ってたけど、角三本なの?

 サラダパスタみたいなのが出てきた辺りで、なんか結婚式のコース料理って前世の知識が出てくる。

 最後は果物を添えたケーキで締めだった。


「美味しかったよ、コーニッシュ」

「妖精よりも悪魔のほうが料理の腕は良いな」

「はぁん、しあわせ…………」


 グライフも素直に褒めるくらいの腕前だ。

 ユウェルはなんだかメロメロになってた。

 なのにコーニッシュは全く表情が動かない。


「ここで問題」


 え、いきなりクイズ番組?


「一つだけ不味いものがあった。どれだ?」

「やはり悪魔か。面倒な…………」

「コーニッシュの店では定番です。ただ間違えても何もないですよ」

「当たる者がいないし、店ではお代が決まってるからね」


 とは言え、グライフは負けず嫌いを発揮して真剣に考え始める。

 まぁ、不味いものなかったしね。あえて味が落ちてると言えば…………。


「エビだよね」


 僕の答えにコーニッシュは目を見開く。

 グライフは反対に目を眇めた。


「何故だ仔馬?」

「味はもちろん、鮮度も良かったですよ。それに臭みもなくて重厚なソースとよく合って、はぁ…………」

「え、だってエビの旨味が抜けてたよ」


 確かにソースは美味しかったけど、身は出汁取った後みたいだった。

 言ってみてもグライフとユウェルには実感がわかないみたい。


 間違えたかなと思った瞬間、僕はコーニッシュにがしっと肩を掴まれる。


「…………わが友よ! この出会いに神に感謝を!」


 感極まった悪魔に抱きつかれた。


「ねぇ、今、悪魔が神に感謝したよ?」

「したな」

「しましたね」


 妖精とかみたいに自己矛盾で存在できなくなったりしないの?

 え、何ごと?


毎日更新

次回:エルフ式柔術

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