111話:妖精王救援
僕はユニコーン姿でスヴァルトを乗せて森を走る。
(アルフそっちは守り固められる?)
(今ちょうどメディサも出払っててさ。俺しかいないんだ)
どうやら魔法を展開した状態で動けないアルフ以外、誰もいないらしい。
シルフを使って報せは送ったらしいけど。
「フォーレンくん、アルベリヒさまはご無事か?」
「結界作るのにほぼ力使ってて自衛も難しいって」
「守りも考えないなんてなのよ!」
言いたい気持ちはわかる。
けど保身で僕の尻尾にしがみついてるクローテリアが言ってもね。
「アルフが言うには、侵入者は妖精の目を掻い潜ったらしいんだ」
「魔王軍には以前この森に侵攻する計画があった。相手がダイヤを狙う流浪の民であるなら、その遺産を使ったのかもしれない」
そう言えばメディサも、魔王が冥府を狙ったせいでケルベロスが置いて行かれたって言っていた。
「森には妖精が多い。見つかれば風の早さで妖精王に届く。そのため作られたのが妖精の目を掻い潜る魔法のマントだ。ただ、数はそう多くはないはず」
「それ、僕たちの目には見えるの?」
「アルベリヒさまが気づいたように、万能ではない。妖精の移り気さを増幅する魔法、だったか? 必ずしも見つからないわけではないんだ」
妖精は多様で、目で見る以外の方法で知覚する者も少なくないとか。
息の音、足の震動、体臭。時間があれば色々気づかれる。
だから魔王軍も開発したものの、実用まではいかなかったらしい。
(アルフ! まだ平気?)
(まだ来てないけど、ほんと、目印でもあるみたいに真っ直ぐ来てるぜ)
(目印? でもそこは魔王が倒された後にできたんだよね?)
(ダイヤを盗まれた時に流浪の民はいなかったから、前に忍び込んだなんてないだろうし)
僕は背中にしがみつくようにして身を屈めたスヴァルトに聞いてみる。
「ね、流浪の民だったとして、アルフに気づかれずに下調べしてたってことはありえる?」
「ありえるだろう。アルベリヒさまはダイヤを追って一年森を留守にされた」
「あ、そうか。取りまとめるアルフがいないと、妖精に気づかれても害は少ないってことか」
「そう考えられはする。が、少々無謀すぎるな」
いま暗踞の森に以前の恋人騒ぎのようなことは起こってないし、アルフも戻ってきてる。
動けない今を狙ったとも考えられるけど、ダイヤを奪った以前の手回しの良さを見るに、なんか雑な気がする。
「別の目的も考えたほうがいいかもしれない」
「妖精王やられたら理由も何もないなのよ」
「嫌なこと言わないで!」
クローテリアは他人ごとで言う。
僕がスピードを上げると、背中でスヴァルトが呻いて、クローテリアは尻尾に噛みついて振り落とされないようにした。
「み、右方向、二時の方角と言ってわかるか?」
「えーと、これくらい?」
「そうだ」
スヴァルトに行く先の指示を貰いながら森を走ると、知った声が騒がしく叫んでいた。
「ニーナ! ネーナ!」
「フォーレン! 嫌な臭いがするの!」
「誰かが妖精避けを振りまいているのよ」
アルフが報せにやったと言うシルフたちが嫌そうに鼻を覆っていた。
ニーナとネーナは風の妖精だから、騒ぎながら僕と並走する。
「それって人間?」
「そう! こんなに臭いを振りまくのは外から来た人間!」
「マントで身を包んだ人たちよ」
「シルフ! 何処からどう進んでいた?」
スヴァルトの問いに、ニーナとネーナは揃って同じ方向を指差した。
「やはり侵入者はアルベリヒさまの下へ?」
「ニーナ、ネーナ、その人間はどれくらい先にいるの?」
「フォーレンの足なら妖精王さまの所に着く前に姿が見えるはずだよ!」
「このまま進めばきっと後ろ姿が見えるはずね」
それじゃ遅い。
アルフの所に着く前に追いつかなきゃ。
「スヴァルト、捕まって!」
「まだ速度が上がるのか!?」
僕が魔法で加速すると、ニーナとネーナは楽しげに声を上げた。
「すごーい! 手伝うよ!」
「急ぐのなら私たちも追い風になるわ」
シルフの力でさらに加速すると、もうスヴァルトは呻く余裕もなくしがみつく。
「あ、見えたよ! あれあれ!」
「フォーレン、速度を緩めないと妖精王さまの所に突っ込むわ」
ネーナの助言に、僕は足を止めずに風だけ止める。
するとスヴァルトは身を起こして動き出した。
「ドラゴン、後ろから拙を支えろ! フォーレンくんは頭を下げて!」
弓を引き絞る音に走りながら従うと、スヴァルトは迷いなく行く手の侵入者を射た。
途中に枝があったけど、矢にかかった魔法で枝のほうが避ける。
一人に命中したことで、侵入者も追っ手に気づいた。
「ダークエルフだ!」
「白馬に乗ってるぞ!」
慌てる侵入者の目は節穴かな?
まぁ、後ろを振り向いてる間に追いついたけど。
ざっと見ると、動ける敵は全部で六人だ。
「散開!」
「あ…………! どうしよう!?」
「フォーレンくん! 迷わずアルベリヒさまの下へ!」
「うん!」
スヴァルトの指示で僕は真っ直ぐ走る。
その間に左手に走った敵を二人、スヴァルトは射抜いた。
けれど残り四人はバラバラに妖精王の住処に侵入を果たす。
僕は正面から走り込んだ。
「着地は頑張って!」
そう言って、僕は人化する。
スヴァルトは床を一回転して階段の前で弓を構える。
クローテリアは羽根でなんとか落ちずに済んだ。
僕は人化した勢いのまま階段を駆け上がる。
「アルフ、無事!?」
「フォーレン! 奴ら下だ!」
「え?」
「下の捕まえた奴らの所だ!」
「あ、あの捕虜!?」
僕はすぐさま階段を駆け下りてスヴァルトに敵の目的を教えた。
「スヴァルト! 狙いは捕虜だ!」
「なるほど!」
スヴァルトは弓を構えたまま左の廊下へ駆け込む。
僕も後を追うと、ちょうど廊下を走る敵と出くわした。
相手は紙一重でスヴァルトの矢避けると、そのままナイフ持って駆け寄って来る。
「動かないで!」
僕はスヴァルトの後ろから、低く構えて侵入者に蹴りを見舞った。
「ぐ、岩石炸裂!」
諦め悪く呪文を唱えて岩の塊を生成する。
アルフの知識によれば、内側から破裂して散弾風になる足止め技だ。
「させないよ!」
僕は破裂する前に角で岩の塊を破壊して無力化した。
角で突いた感触、天然の石より柔いかも。
「な、が!?」
予想外の反撃だったらしく、侵入者は僕が割った岩に当たって失神した。
そこにまた新手が現われる。
もう、マント着たこの人たち、流浪の民決定でいいのかな?
「ダークエルフとエルフ!?」
「残念」
僕は目の前まで走り込んで、横に避ける。
後ろからスヴァルトが矢を放って、侵入者の肩を貫いた。
「ぐぅ!?」
怯んだところを押し倒し、僕はエルボーを入れて教える。
「ユニコーンなんだ、僕」
「例の奴か!」
「うわっと!」
さらに別の侵入者が、廊下に面した一室から出て着た途端、短剣を振りかざす。
侵入者四人のうち三人の姿は確認できた。
三人目が出てきたのは、捕虜を入れた地下への入り口がある部屋だ。
そこから血の臭いがしてる。
すでに手負い? 誰かスヴァルトの矢でも当たったのかな?
「戦うな! 目的は達した!」
「逃がすものか」
四人目が部屋から出てきて走り出すと、スヴァルトが駆けだした四人目の侵入者を射抜く。
すると僕に短剣を振りかざした侵入者が、なんの躊躇もなく倒れた仲間を殺した。
「え…………?」
「後ろなのよ!」
クローテリアの警告に後ろを振り返ると、スヴァルトの矢を最初に受けた二人が駆けつけていた。
吹き矢を口に当てるのを見て避けようとしたんだけど、飛ばされた毒針は、僕の足元で失神した二人の侵入者に突き立てられる。
「な、んで…………?」
あまりのことに動けず、僕は泡を吹いて死ぬ侵入者を見下ろすしかない。
その間に、仲間を殺した三人の敵は逃げて行った。
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