表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/474

110話:森の侵入者

 性懲りもなく襲ってくる人狼を蹴り飛ばして、僕は溜め息を禁じえなかった。


「隙ありじゃないよ、全く」


 背中を向けた途端、後ろから襲ってくるなんて。

 ユニコーンの足じゃないから軽傷だろうけど、考えなさすぎない? この人狼。


 僕が起き上がる人狼を睨んでると、ペオルが視線に合わせるために身を屈める。


「あやつはわしにも挑んできたので、目を奪った」


 どうやら悪魔の試練に敵わず、出された餌に食いついたらしい。

 誘惑に負けた代償に、片目の視力を失ったとか。


「じゃあ、あの片目はペオルがやったの?」

「傷は知らん」


 言いながら、ペオルは握り込んだ手を開く。

 すると、そこには生々しい目玉が一つ、コロンと現れた。


「うわ…………」

「俺の目玉!」

「試練を受けるなら返してやらなくもないが」

「また誘惑に負けたら代償があるんだよね? 次は何取るの?」

「さて、ユニコーンよ、何がいい?」

「僕? うーん、牙かな」


 危ないし。僕が。

 って言ったら人狼は口を押さえて寄って来なくなった。

 結果オーライだ。


「しかし、この人狼をこんなに簡単に手玉に取るとは。フォーレンくんはすごいな」


 スヴァルトは構えていた矢を矢筒に戻す。

 なんか鏃の色がおかしかったけど、もしかしてあの毒矢構えてた?


「人狼を負かしたあのグリフォンのほうが危険なのよ」

「グリフォンは知らないが、この人狼は面倒だ。体力としつこさに定評がある」


 グライフの危険性を訴えるクローテリアに、スヴァルトは弓矢程度では動き止められないと言う。


「ふふん! あのグリフォンには一度空に持ち上げられたが、暴れて落ちたからな。この目だけで済んだのは俺の強さあってこそ!」


 褒めてないのに元気になる人狼。

 うん、グライフのほうが強いのはわかった。

 ただ逃げられるだけ、この人狼もなかなかすごいのかもしれない。


「なのに、お前はどうやってあのグリフォンにあんな傷を負わせたんだ。できるはずない!」

「できるはずないって、実際グライフの顔には傷あるのに」


 ちょっと人狼の相手が面倒だ。

 と思ったら、スヴァルトが僕を見る。


「拙も興味がある。グリフォンは馬に似た生き物を好んで襲う。いうなれば馬の相手に特化した生き物だ。仔馬のフォーレンくんがどのように生き延びたか想像もつかない」


 真面目に聞いてくるスヴァルトなんだけど、言っても反応はわかってるしなぁ。


「あのグリフォンの倒し方を教えろ! やり方さえわかれば俺にだってできる!」

「倒し方…………?」


 つまり僕がグライフに勝った要因ってこと?


「慢心してるところに別の敵が現れて、下手に動けないようにして一発かますなら簡単に」

「…………どうやればそうなる?」


 ペオルまで興味持っちゃった。

 あえて曖昧に言った僕を横目に、クローテリアが呆れたような顔をする。


「あたし知ってるのよ。このユニコーンがどうやってグリフォンを倒したのか。単に、グリフォンに追われながらドラゴン倒すなんておかしいことしたからなのよ」

「「「うわ…………」」」


 クローテリアに暴露され、僕は悪魔にまでドン引きされる。

 これが嫌だったのに!

 さすがにね、会うひと会うひとこういう反応されてたら、あんまり言うことじゃないなってわかるから!


「その時は一緒にアルフいたし!」

「そう言えば、何処ぞに召喚されたアシュトルも倒したそうだな」


 ペオルがさらに余計なことを言う。


「その上、この間もアシュトルが逃げるのもやっとの一撃をその角で叩き込んだとか」

「ちょっと刺しただけだよ」

「悪魔をか?」


 あれ、そこが駄目なの? なんだかスヴァルトが呆れたっぽい。


「正しい判断だ。女はやめておけ」


 ペオルもそこ?


「別にアシュトルが男の恰好してきても追い返すからね? でもまぁ…………女の人は正直命にかかわるから、あんまり近寄りたくはないけど」

「良い心がけだ」


 満足げに頷く女性不審悪魔に、僕は気に入られたようだ。


「別に女の人や人間が嫌いなわけじゃないけど、この角あるとどうしてもね」

「わかるのよ」


 クローテリアに同意されてしまった。

 まぁ。角だけの僕と違って全身狙われてるし。

 いっそ僕より命の危険はそこら辺に落ちてるような存在かもしれない。


「ふむ、角か…………。ではこれはどうだ?」


 ペオルは大きな手をこねくって、何かを出した。

 繊細な金属の鎖が連なるこれは、首飾り?


「アルフもやってたけど、いきなりアクセサリー作り出せるってすごいね」

「こういう魔法なのだ。して、どうだ? このサークレットは囲んだものを隠す魔法道具だ」


 どうだと聞きながら、ペオルはサークレットを渡して来る。


「人狼の襲撃で窮したなら試練をと思ったが。口を挟む暇も与えなかったことへの褒賞だ」

「悪魔って油断も隙も無いんだね」


 うん、やっぱりアシュトルの同類だった。人狼に苦戦してたらまた誘惑してくるつもりだったらしい。

 けど、ちょっと興味があるのでつけてみる。

 サークレットってことは頭だよね。


 大きな輪の先に小さな輪があるので、その輪に角を通した。


「どう?」

「消えたな」

「消えてるなのよ」

「角がないなら恐るるに足らず!」


 また人狼が懲りずに跳びかかって来る。

 ので、僕は見えなくなった角で、人狼の横面を叩いた。


「触るとあるから。ペオルの話聞いてなかったの? 失くすんじゃなくて隠す道具だよ」

「ユニコーンの角を消すなど無理だな」


 ペオル曰く、象徴的な部分はどうにもできないのは人化と同じらしい。


「これあるとアルフがいなくても角の心配ないや」


 なんて言ったら怒るんだろうけど…………。


「あれ?」

「どうしたなのよ?」

「アルフが何も言わない」

「アルベリヒさまに異変があったということか?」


 スヴァルトはすぐさま動けるように構える。

 僕は片手でスヴァルトを止めて、アルフに精神の繋がりから呼びかけた。


(アルフ?)

(…………やべ)


 とたんに聞こえる不穏な呟き。


「何かやらかしてるみたい」


 みんな言わないけど、顔にまたかって書いてある。


(違ーう!)


 やらかし常習犯のアルフに抗議された。


(侵入者だ! 森に侵入者がいる!)

(どういうこと?)

(結界張ってない獣人国のほうから入って来た! …………こっちに向かってきてる?)


 僕は大凡の位置を確認するため、ここまで連れてきてくれたスヴァルトに聞く。


「ここから獣人の国は何処かな?」

「あちらの方角だな」

「森に侵入者だって。アルフの所に向かってるらしいよ」

「またダイヤを狙う不埒者か?」


 スヴァルトは流浪の民の再襲撃を警戒する。

 確かにありうる。

 アルフ、一言も助けてなんて言わなかったけど、侵入者ってよく考えたらまずいんじゃない?


「僕、アルフの所に行くよ」

「拙も同行させてもらおう」


 走る僕とスヴァルト。

 クローテリアは、残る悪魔と人狼を見て、僕に向かって飛んで来た。


「あたしを置いて行くんじゃないのよ!」


 スヴァルトは善意での同行だけど、クローテリアは保身だよね。


「呼び出されたのでもない限り関わらぬ。せいぜい奮戦せよ」

「義理はあるが本人から命じられないなら信用ならねぇ」


 ペオルと人狼はそれぞれに考えがあって残るようだ。

 僕はユニコーンの姿に戻るとスヴァルトを振り返る。


「スヴァルト、乗って!」

「え、あ、あぁ!」


 驚いたのも一瞬で、スヴァルトは跳び上がるようにして僕の背中に跨った。


毎日更新

次回:妖精王救援

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アホだけど義理人情は知ってる人狼なんですね。 あほだけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ