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108話:悪魔は女性不信

 突然僕とスヴァルトの話に入って来た悪魔は、ペオルと名乗った。

 赤毛に髭が厳ついペオルは、基本は人間のような姿をしている。

 ただ、頭からは捩じれた角が生えてるし、骨は歪んで皮膚の下から飛び出してた。見上げる巨体は邪悪ですって全力で主張している姿だ。


「不道徳の悪魔が何故ここに?」


 スヴァルトは警戒こそしていないけど、不審そうに見る。

 ペオルは僕を指差して言った。


「噂のユニコーンを見に来たら、面白い話が聞こえた。お前から魔王石を奪おうとしているのか、これは?」

「違うよ!? スヴァルトが魔王石持ち続けると死ぬって言うから」

「魔王石の誘惑は生半なことではないぞ。特にこのスヴァルトの持つジェイドは、本来は安定と幸福、徳を表す。だが呪われたことでそれらが全て悪しく増長するようになっている」


 なんかのりのりで話し出したけど、なんだろう、この悪魔。

 笑い声出したり饒舌に喋る割に、不機嫌で気難しいお爺さんみたいな表情してるんだよね。


「安定と幸福は全て他人の犠牲の上に成り立ち、悪徳を周囲に強いる力を持つ」

「スヴァルト、そんなの持ってて大丈夫、じゃないから死にそうになってるんだよね」

「どれ、わしが魔王石に抗うだけの精神を持つ者か、試してやろうではないか」


 ペオルがしかめっ面で笑うという、とても怪しげな表情を浮かべると、スヴァルトが待ったをかけた。


「君はゴーゴンたちを怒らせて石化させられていたはずではないのか? また余計なことをしようとしているならやめるべきだ」

「メディサたちを怒らせたの? なんで?」

「なぁに、ウンディーネのロミーが殺したいほど愛する男がいると言うので、少し力を貸してやろうとしたのだがな。珍しく人魚のほうからゴーゴンに報せを入れて、わしを封じにきたのよ」

「え、えー?」


 アーディまで嫌がったってことだよね?


「まぁ、妖精王の奴が戻ったことで石化は解かれたが。噂のユニコーンを見に行こうとしたら見張られていてな」

「もしかして、アルフの所にほぼメディサしかいなかったのって」

「うむ、わしらを見張るためよ」

「わしら?」

「会っているはずだが?」

「…………もしかして、アシュトル?」

「あ奴めは蛇の分身だけ抜け出すことに成功し、会いに行ったと聞くぞ」


 来たねぇ。

 決闘ごちゃごちゃになってる所に。

 そっかぁ、アシュトルの仲間かぁ。


 厄介な予感しかしない。


「アシュトルが気に入り、変わったグリフォンが名指しで本当の変わり者と言うほどの」

「ちょっと待って! グライフでしょそれ!?」


 僕の知らないところで何言ってるの!?


「なるほど、感情はある。だが悪魔の誘惑を一顧だにしない高潔さか」

「そんな大したものじゃないって」

「試せばわかることよ!」


 ペオルは黒く禍々しい霧に包まれて一度姿が消える。


「気をつけるんだ。決して頷いてはいけない」

「忠告してくれるのはありがたいんだけど、スヴァルト。これって僕に拒否権ないの?」

「悪魔に目をつけられたなら、追い返さない限り付きまとわれる」


 何そのストーカー!?


「悪魔だから昼夜を問わず、周囲の者をも巻き込んで誘惑を行い、いっそ精神を病ませて誘惑に落とすこともある」

「もうそれ試すとかじゃなくて、ただの嫌がらせでしょ?」

「悪魔の中でも良心的にして契約履行においては誠実なわしに何を言う」


 答えたペオルは黒い霧から一歩踏み出した。

 その足は白く細く、艶めかしい女性の肉体となって現れる。


 波打つ赤毛に、肉感的な唇。

 腰を捻って胸元を膨らませるポーズは、スヴァルトも直視しないよう顔を背けるほど誘惑に満ちていた。


「…………うっわぁ」


 僕?

 あからさますぎてドン引きです。


「なんだその感想は?」

「え? ないなぁって」

「まぁ、好みはそれぞれよ。これで終わりと思うな! とくと見るが良い!」


 ペオルはさらに黒い霧に包まれると、次々に姿を変えて美女から美少女、果てには艶女に幼女と誰受けかわからない姿になって行く。


「…………で?」

「本当に性欲が皆無とは!?」

「なんで嬉しそうなの? アシュトルに聞いてるんじゃないの?」

「聞いていたが、わしとアシュトルでは誘惑の仕方が違うからな」


 うん、幼女姿でお爺さんみたいな口調やめて。


「わしの本領はこれからよ」


 悪魔の姿に戻ったペオルは、手を差し出す。

 すると、そこから金銀財宝が溢れ出した。


「これ、グライフにもやったの? 変わったグリフォンってことは、グライフも誘惑できなかったってこと?」

「む、やはり駄目か。あのグリフォンも興味は持ったが、靡くほどではなかった。次だ!」


 今度は美味しそうな料理が現われる。

 人間が作るような豪華な料理から、青々とした草があるのは、ユニコーンの僕を意識してなのかな?


「食欲は確かにあるけど、飢えるような生活してないし」

「次!」


 すると今度は黒い霧が僕の顔に近づいて来た。

 黒い霧からは、わーきゃー騒ぐ声と、僕に向かって美辞麗句を並べ立てる声が押し寄せてくる。


「うわ、何これ? 落ち着かないからやめて」

「まさかの拒否とは。…………次!」


 今度は優しく甘やかす声が、何もしなくていいと誘惑した。


 もしかして、これ延々続くの?

 あ、そう言えばスヴァルトが追い返さないとストーカーになるって言ってた。


「えっとね、ペオル」

「どうした? 何か望む物でもあるか?」

「ないよ。僕が今欲しいと思う物はない。僕は今、自分が満足できる状況にあることを知ってる。これ以上もこれ以下も望んではいないんだ」


 前世の観光地にあったんだよね。『吾唯足知』って彫られた石。


 今の僕はユニコーンで、人間らしさなんて追及しても前世のような人間になれるわけでもないし。

 だからってユニコーンなら一人で生きろって言われても、それは嫌だ。


「…………ふあははは! 聞いたかスヴァルトよ! お主に足りないものはこれであろう?」

「ぐうの音も出ないな。なるほど、拙は身の丈を知らず望みすぎていたということか」


 なんか、ペオル大うけでスヴァルトは勝手に反省し始めた。


(アルフー、まだ僕のこと覗き見してるー?)

(言い方に悪意がないか、フォーレン? まぁ、ペオルが何するかわからないから見てはいたけど)

(いや、なんかペオルが出てきて急に黙ったなと思って。この悪魔にも昔何かしたとか?)

(ペオルに関しては俺はやられたほうだ! そいつ、俺がダイヤ探して一人で森出る羽目になった元凶だからな!)


 詳しく聞くと、どうもペオルは男女関係に関わる悪魔らしい。


(アシュトルとは違うの?)

(アシュトルは時に知恵を与えることもあるし、人間の悪を告発することもある)

(肉体的に誘惑してくるのは?)

(ただの趣味)


 悪魔の趣味って…………。


(逆にペオルは悪魔として人間を誘惑し、欲を満たして道を踏み外させるのがあり方だ。だいたい供物を捧げれば簡単に呼び出されてくれる)

(えー? じゃ、なんであんな乗り気で僕を試してきたの?)

(あいつな…………女性不信なんだよ)

(は?)


 アルフによると、ペオルはその悪魔の能力でどんな女性も性的な過ちを犯させることができるそうだ。

 だからペオルにとって女性は悪徳に転ぶ最たるもの。

 そして男も美女の姿で誘惑もするから、人間は信用に値しないという考えの持ち主だそうだ。


(それって、悪魔としてどうなの? 自分の力で強制しておいてそれって。あ、ランシェリスたちが奉る聖女とかは? 悪魔に屈しないんじゃない?)

(聖女は悪魔なんて近づかせもしないから、ペオルの力が効くかどうかも検証不可能なんだよ)


 難儀だなぁ。


 そしてアルフがダイヤを一人で追うことになったのは、うん、森に逃げ込んだ恋人たちの処遇についてだった。


(人間試すのは自分の役目だし、試すつもりもないのに試練だけ与えて何してんだって滅茶苦茶怒ってさ)

(案外、まともな怒り方だね。ロミーに関わろうとしたのはなんで?)

(ロミー人間じゃないけど、だからこそ永遠の愛を貫こうとする姿に感銘を受けたかなんか言ってたらしいぜ)

(うーん、あのロミーの復讐に悪魔が関わるなんて碌なことにならない予感しかしない)


 石化させて介入を阻止したゴーゴンは正しい判断をしたんだろう。


「あの妖精王もたまには良い判断をするものだ!」


 僕を見下ろして、女性不信悪魔は満足そうに笑っていた。


毎日更新

次回:飛び回るグリフォン

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