指名手配な二人
「や、やっと解放された……」
ようやくフルテガント王国に辿りついた俺は、抑圧からの解放に思わず深呼吸をしていた。
夕日が眩しい。空気が馬臭い。道端に馬糞が落ちている。時折路地裏の二階から汚物が降っている。
ここ、本当に王都か?
先に来ていた皆と合流すると、疲れた顔のイチゴが右手を腰に当ててマジックポーションを一気飲みしていた。
けぷっと可愛らしく喉を鳴らすと、こちらに気付き、恥かしそうに俯いてしまった。
「さて。フルテガントに着いた訳だが、田中、他のメンバーは?」
「ああ、それは……」
「お、おい、アレ、奴だ。奴がいたぞ――――ッ!!」
ヌェルが何かを言おうとした瞬間だった。
一人の男の言葉に反応し、周囲の住人がこちらへとやってくる。
しかもその手には鍬やら包丁やら大根が握られていた。
「あ、しまった。儂、今指名手配されとるんだった」
そういえば、子供を殺した罪で追われたとか言ってたな。
「不味いな。下手に攻撃出来んぞ。全員で逃げ切れるか?」
「数匹殺せば十分可能だが、それはそれで不味いしな。」
これは困った。と龍華と増渕が顔を見合わせる。
どうしたものかと思案しているが、どうにも俺たちには打つ手はないようだ。
かくなる上は……俺に絡みついているヌェルを町の外に捨ててくるしかあるまい。
「仕方ないわね。薬藻。悪いけどちょっと外にでてってくれない。私達まで仲間と思われると不味いし。こちらで手塚さんたちは探しておくわ。あなたはそこの痴女とロリを引き連れてきゃっきゃうふふでもしてなさい」
ネリウは少し俺に厳しいと思う。
しかし、今回ばかりは皆同意見らしい。
ヌェルが俺から離れそうにないということも一因だろう。
はぁ、仕方ない。今回は大人しく町から撤退しておくか。
俺が歩いて出て行こうとすると、町人が退路を塞ぐように動く。
これでは外へはいけそうにない。
「仕方あるまい。イチゴショートケーキ、私と来い。こいつらを連れて一つ前の町にムーブだ」
「え? う、うん……」
イチゴが慌てて魔法を唱える。
その間に龍華と俺たちはイチゴの側に向った。
「増渕、こちらは任せるぞ」
「いいだろう。連絡方法は飛び交う焔鳥を頭上に飛ばす。その地点に来てくれればいい」
「心得た。では、行ってくる」
「ムーブ!」
イチゴの魔法により俺たちはルトルトレッテへと飛ぶのだった。
しかし、俺たちは気付いていなかった。
ルトルトレッテでは、もう一人の指名手配犯が存在しているという事実に。
ルトルトレッテに着いた俺たちだったが、それを見た住民は驚いた顔で悲鳴を上げて逃げ出した。
そして、冒険者と衛兵が大挙して押し寄せる。
まさかヌェルの手配書がここにも? と怪しんだ俺たちだったが、彼らが剣を向けたのは、ヌェルと逆隣りにいる少女、とつめだった。
ああ、そういえばとつめの手配書が出されてるんだったここ。
どの道指名手配は免れないのか。と、龍華に視線を送ると、うんざりした顔でため息を吐かれた。
もう、力押しでいいんじゃないか? と眼が語っている。
「あ、あの、冒険者ギルドで解放して貰えばいいんじゃ……?」
イチゴはとつめの手配は知らないはずだが……ああ、ヌェルのと勘違いしてるのか。
でも、確かにギルドに向えば何とか出来そうだな。
「えーっと、とりあえずここ突破しないと意味ないか」
「構わん。私が大喝してみよう」
目標が決まれば龍華の行動は早かった。
俺たちを代表するように前に出ると、波いる男たち相手に、手にした鎌を振り上げる。
頭上で数回転させ、柄を大地に思い切り落とした。
「我らは冒険者ギルドに用がある。邪魔するならばその身三つ裂きになると心得よッ! 命が惜しくば即刻に去ねッ!」
それは、周囲にビリビリと響く音の攻撃だった。
冒険者の幾人かが思わず尻もちを着き、兵士の殆どが戦意を喪失していた。
スキルでもないのに、これは驚きだ。
「全員、着いて来い」
龍華は硬直してしまった兵士たちの元へと歩き出す。
俺たちはそんな龍華の後を追うように歩く。
龍華が近づくと、無事だった冒険者や兵士も思わず道を開ける。
それはそうだろう。
身の丈三倍はある巨大な鎌を軽々頭上で振りまわし、自在に操って見せたのだ。
しかも鎌は双刃で、全体が血のように赤い。
そんな鎌を持った少女が堂々とした振舞いで寄らば斬ると近づいてくるのだ。
俺だって思わず横に避ける。
「う、うわあああああああっ」
しかし、よっぽど命の要らない奴はいるようで、兵士の一人が真横から槍を突きだす。
刹那。赤い閃光が光った。
気が付けば、龍華の手にした鎌の刃先が兵士の眼前で止まっていた。
彼の槍は穂先が見事に切断され、まっ平らな棒となっていた。
しばらく、何が起こったか理解できなかった兵士だったが。刃に視線が定まると、へなへなと尻から地面に落ちて行った。
龍華は一度も彼を見ることなく、冷徹に一言呟く。
「次は、止めんぞ」
その一言で、もう誰も俺たちに近づいてこなかった。




