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天からの声前編

「おお。帰ったか薬藻」


 俺が宿へと戻ると、先に帰っていたらしい龍華が出迎えた。

 宿屋の人口密度が初めて来た時の倍に増えている。

 魔王パーティーである増渕たちが全員ここに集結したからだろう。


 加えて、田中……じゃなくヌェルティスだっけか。

 まぁ、後々五月蝿いだろうから呼び名はヌェルでいいか。

 ネリーだとネリウのヤツと被ってるしな。


 あと普通に人間の町に連れてきてしまった一つ目小娘。

 人間の町が物珍しいのかしきりに周囲に視線を走らせている。

 微妙に街道を歩いていた時より俺にくっついて来ているのは、恐いからだろうか?


「お、おい薬藻……その状況は……なんだ?」


 いち早く、俺の状況に気付いて声を掛けてきたのは、信之だ。

 震える手で指さしてくるのは、アレか? 驚きようを表しているのか?

 信之の言葉で気付いたネリウが俺に絡みついている二人を見て眼を見開く。


 しばし、間があった。

 どうしたものかと困っていたが、俺がどうにかしないといろいろとややこしい事態になることは確実のようなので、仕方なく説明をすることにした。

 ただ、少し考える時間も欲しかったので、


「とりあえず、全員席に座ってくれ。俺の現状も話すが、まずはこの世界の原因を作ったらしい奴の話を聞いてほしい」


 と告げて、ネリウから一番距離の離れた場所に座る。

 彼女の近くだと確実にヌェルとのことで遊ばれる。

 俺が座ったのは龍華と伊吹の間の席。

 丸テーブルに四つの椅子があったので、対面には空き椅子があった。


 ヌェルがそれに気付き、一度俺から離れて椅子を手にすると、俺の横へと戻ってきて椅子を設置。

 再び左腕に絡みついて座った。

 それを見た一つ目小娘も近くの空き椅子を持ってきて俺の右隣に座る。

 そしてその一部始終を見ていたネリウから表情が消えた。

 伊吹も微妙に不機嫌な顔でお茶を啜っている。

 なんだろう。空気が重い……


「少し見ない間に随分とコマしたな薬藻」


「いやいや、龍華、これは違……いや、違わないのか? いやでも……ああもう、見てんだろ桃栗ッ、さっさとこっち来やがれ!」


 言い訳を開始しようとしたが、よくよく思えばモンスターテイムでテイムした以上龍華の言葉に言い訳が出来ない気がする。

 そうやって戸惑っていると、さらに空気が凍て付いて来た。

 さすがに我慢できなくなった俺は、天の声様に助けを求めるのだった。


 ちなみに、奥まった場所、カウンター前の四人席にはネリウ、増渕、信之が座っており、その隣の席にはアルテインとその仲間たちが座っている。

 彼らはなし崩し的に俺たちのパーティーに加わる事になったようだ。


 人間世界の道案内だけのはずだったのだが、まぁ、彼らも逃げるそぶりも見せずに普通に座っているので嫌々一緒に居る訳ではないらしい。

 イチゴがちらちらこっちを見ている気もするが、なにか理由があるのだろうか?

 桃栗に声を投げかけ少しすると、ようやく奴がやってきた。


『やっふー。天の声ことこの世界の女神様でぇーす』


 どうやら宿屋のおかみさん以外全員に聞こえる声で喋ったようで、俺以外の全員が驚いた顔をしていた。特に龍華や増渕の驚き顔は滅多に見れそうにないのでレアシーンだ。

 何気にアルテインたちまで聞こえているようだ。

 アルテインたちは慌てて周囲を見回すが、声の主を見つけられないでいる。


 しかし、なんであいつはこっちに来ない。

 声だけで参加か? まぁ、声だけでも十分参加しているといえるか。


『さてさて、あんまり下位世界に介入するのは良くないんだがにゃぁ。名前バレちゃったし、あたしの過失でもある訳だしにゃ。色々説明しちゃうよん』


「なんだこの声? おい、薬藻、こいつは誰だ?」


「……伊藤、少し黙っててくれ。どうやら、貴様は昔、勇者を選定したという女神だな」


『にゃはは。そのとーりだぜ菜七っち。あやつを菜七っちにぶつけたのはあたしだぜ。強かったっしょ』


 声だけだけど、楽しそうにしているのは、余程増渕と昔の勇者との戦いがお気に入りらしいということが理解できる。

 つまり、その時期は好んでこの世界に介入していたようだ。


「チッ。貴様のせいで私は殺されたのだがな……」


『でも、そのせいでアセンションできたんだから悦んでほしいにゃあ』


 アセンション? なんだそれ?


「あせん……しょん?」


 増渕も分からなかったようで、天から降ってくる謎の声に疑問を投げかける。


『まぁ、簡単に説明すると、あたしは皆が生活していた現代世界のさらに幾つか次元を上がった、高次元生命体っつー奴だにゃあ』


 高次元、生命体? また変な奴がでてきたな。

 うちのクラスメイト、ほんとに変な奴ばっかだ。俺も他人のこと言えないけど。


『んでぇ、今皆がいるその世界は、あたしが創造した箱庭世界。現代世界でいうところのVRMMOって奴さ。実際にはまだ現実にはでてないけど。まぁ、もっと複雑なプログラムで動いてるけどね。つまり、あたしたちの世界から考えれば、ゲームの中でゲームに吸い込まれたクラスメイトを助けだすイベントが起きてる状態なわけ、あたしはプレイヤーが見たゲームの主人公で、ゲーム画面見ながら皆に指示出してるって感じかにゃ?』


 なんかややこしい例えだな。

 つまり、桃栗の存在していた世界>俺たちの居た学校のある世界>今俺たちがいる異世界といった具合で次元が高くなっていくといった感じか?


『次元が高い存在は下位次元に干渉することができるんだけど、上位次元に干渉することは稀だにゃぁ。その稀な状況って言うのが、上位次元への転生。つまりアセンションなのですよ!』


 ああ、これって、アセンションって何? に対する説明だったのか。

 俺にはややこしくて良くわからなかった。

 一部クラスメイト達は理解しているのか真剣な表情で聞き入っている。

 とくに龍華とかネリウとか。


 伊吹は興味ないようでお茶を啜ってほっこりしていた。

 ヌェルに関しては全く聞いていないようだ。

 俺にすり寄るのに夢中である。

 そんなクラスメイトたちを放置して、桃栗はさらに説明を続けていく。

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