その頃の勇者たち6
「もー嫌だ。やってらンねぇ……」
あたしの目の前で、手塚が体育座りで顔を伏せた。
どうやら精神的ストレスが限界値を超えたらしい。
まぁ、さっきの死亡シーンはショッキング通り越して死んだ方がマシだったから、その、仕方ないっちゃ仕方ないわけだけど。
東にある村へ移動しようと向う事既に13回。
どうしても魔物を倒せない。エア○マン並みに強すぎる。
強い魔物が多すぎるのだ。
例えばバイトバイパーという毒蛇。
巨大な体躯は人を丸飲みにできるほどの大きさで、毒の牙で噛みついてくる。
手塚はあたしたちの中で一番ステータスが低いので、逃げ遅れて絞殺されること5回。
全身の骨が砕かれるさまは筆舌に尽くしがたい状況だった。
ヘドロンガーという沼に住む魔物には沼に引きずり込まれること3回。
俗にいう窒息死だが、これがまた精神的ストレスに拍車を掛ける。
ハーピーという人面鳥には空に掴みあげられ落とされること4回。
油断すると速攻持って行かれるので、手塚を護るのに苦労した。
まぁ、あたしは終始傍観してたけど。
そして、最後にフラッシングドッグの群れに噛みつかれて死亡が1回。
体中に光速で飛んでくる魔獣が噛みつく姿は、無残としか言いようがなかった。
さすがに手塚もトラウマになったようで、御覧の通りやる気をなくして蹲ってしまった。
他の面々も、さすがに余裕はない。
何せ自分自身を護ることに手いっぱいで手塚のフォローまで手が回らない状況が多々あったのだ。
大井手も魔法少女に変身して魔法連発していたが、それでも襲いかかってくる魔物が異様に多かった。
バイトバイパー戦ではかなり活躍したものの、素早い動きをするフラッシングドッグには防戦一方。
日本などはヘドロンガーに引きずり込まれそうになっていたが、手塚の方が先に死亡したらしく、運良く死に戻りで命を救っていた。
その頃からだろうか、日本が難しい顔で考え始めたのは。
どうやら彼も思う所があったらしく、今のままではいけないと気付いたようだ。
今までよりも戦士な顔をしていた。
赤城は最初の三回目くらいから既にやる気をなくしていて、後方支援に回ってしまっていた。
ヌェルりんが抜けて以降、このパーティーはどうにもバランスが悪い。
トラブルメーカーではあれど、彼女の存在が緩衝材になっていたのかもしれない。
ヌェルりんがいなくなったために、足を引っ張る手塚が目立ち始め、赤城の機嫌がどんどん悪くなり、日本が難しい顔で無言になり始めた事でさらに険悪な空気が漂い始めていた。
このままでは、きっとこのパーティーは近いうちに瓦解する。
魔王の侵攻までは持たないだろう。
もしそこまで続いたとしても、彼らでは魔王軍に勝てるはずもない。
確実に手塚以外の死人が出るだろう。
うーん。さすがに今の手塚たちではあの先にある村には向えそうにないか……
仕方ない。あたしだけでも飛んでくか。
あたしは、早々にこのパーティーを諦める事にした。
最初の召喚の間からあたしは一人抜け出す。
去り際、手塚に大井手が近寄って慰めていたが、多分、手塚はもうダメだと思う。
これ以上頑張った所で明日に来るらしい魔王の軍勢には成す術はないだろう。
ならばあたしがやれることは、戦力の増強以外にありえない。
新たな風を呼び込むことでパーティーを一新させるのだ。
薄暗い城内を歩きながら、あたしは適当な部屋へと入る。
誰も居ないことを確認し、バルコニーにでると、周囲に人が居ないか念入りに確認する。
万一があってもマズいので、しっかりと確認を終えると、一度深呼吸。
ぐっと力を溜めて、背中に意識を集中させる。
「我、主より賜りし力を顕現せん」
祝詞を唱え力を解放すると、人間界に降る時に封印していた翼が広がった。
背中から生える眩しい程に輝く翼。
勢い良く出現したせいで輝く羽が周囲に舞い落ちる。
「あぁ、疲れる。空飛ぶのも体力使うんだよね……」
独り言を呟きながら軽く床を蹴って空へと舞い上がる。
ここ数年飛んでいなかったが、飛び方を忘れたりはしていないようだ。
多少重い気がするが、運動不足なだけだろう。断じて太ってしまったわけじゃない。
これならすぐに村へ向える。
空にも数匹の魔物が存在するものの、速度的にあたしに追いつける奴がいないので、襲ってくる前に引き離して回避していく。
しばらく飛行していると、ようやく村が見えてきた。
彼女の反応もしっかりと存在している。
あたしは周囲を確認しながら、村の手前で降り立つと、目立つ翼を再封印しておいた。
さってと。ようやく会えるね麁羅。
会ったら即座に任命して、それから……
ああもう。いろいろ面倒だけど一つ一つこなしていかなきゃ。
さって。どうやって出会いを作ろうかね。
……まぁ、いいか。面倒臭くなったし、フレンドリーに行こう。




