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俺のクラスメイトが全員一般人じゃなかった件  作者: 龍華ぷろじぇくと
第七話 勇者は嫌でも復活する
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龍華の昔話2

 鎧の隙間から斜め上への致命の一突き。

 青銅剣が引き抜かれると、支えを失くした兵士が血を吐きながら崩れ折れる。


「な、何だ貴様ッ!?」


「お、俺たちは袁紹様直属の……」


 驚き慌てる兵士の喉元に、新たな青銅剣が一閃。

 鎧を着ていた男が喉から血飛沫を派手に散らした。

 二人の男の乱入により、三人の兵士たちは一人残して骸と化した。


 最初に剣を突き入れた方が青い髪の青年。碧眼の眼が印象的だった。

 もう一人は民間人だろうか? 私服を着た男だ。いや、何度か見たことのある顔だ。

 確か董卓の軍で将軍をしている奴だったように思う。

 唖然と見守る私の元へ恐慌状態の兵士が尻もち付きながら逃げてくる。


「ひ、ひぃぃっ」


 退がるように逃げてきた兵士は、私に気付くと、迷うことなく私を引き寄せ剣を抜く。


「そ、それ以上近づくとこいつを……」


 震える声で叫ぶ兵士。しかし、彼の剣が私に突きつけられることはなかった。

 立ったまま、冷徹に兵士を見下ろす男たちのうち、青い髪の男が剣を振る。

 兵士たちを突き殺した剣は飛沫を兵士の顔に飛ばしながら彼の剣を払い落す。


「ひっ!?」


 驚く兵士。拘束が弱まったので私は即座に振りほどき、助けてくれた男たちの後ろに回る。

 董卓軍の男がいるのだから、一応、助けてくれたのだろう。

 癪ではあるが、あの父の差し金だろうか?

 いくら万夫不当とか言われようと、家庭を顧みない愚か者でしかなかったはずなのに。

 母に迎えを寄越したのだろうか? めずらしい。


 青い青年が落ちた剣を足で蹴り、兵士の手が届かない場所へと弾き飛ばす。

 入れ替わるように董卓軍の男が兵士に剣を突きつけた。

 倒れたままの兵士は喉元に突きつけられたせいで動きを封じられる。


 青い髪の男が私を見た。

 なぜだろう。凄く、憐みを感じる瞳だった。

 ただ、一瞬、私の瞳を覗きこんでいた彼が驚いた顔をする。


 後から聞けば、私の目に、青龍が映っていたらしい。

 この女を死なすには惜しいと思われたそうだ。

 青年は、無言で私に剣を差し出す。

 一瞬、何か分からなかった。


「決めろ小娘。平穏な死か、地獄の生か。殺されるのか、殺すのか……もし殺すなら、俺がお前を育ててやる」


 私は……迷う事などなかった。

 そんなこと、決まりきっていたのだ。

 なぜなら私は、この三人の兵士に思い知らされたのだから。

 平穏な死など望むはずも無し。地獄であろうとも、生きていけるなら。強くなれるなら。

 いつか、母を捨てた父に復讐できるなら。


 私は、彼から剣を受け取った。

 護身用の大人の剣は私にはちょっと大きかったけれど、両手で持って頭上に掲げ、振り下ろすだけでいいのだ。


「お、おい? 何をする気だ!?」


 驚きながらも逃げられない兵士の前に向う。

 両手で剣を振り上げた。

 見下ろす……いや、背丈のせいで見つめ合うようになった兵士。


 恐怖で歪む瞳が私に助けを求めていた。

 でも、私は迷わなかった。

 思い切り、力の限り振り被る。


「や、止めろっ、自分が何しようとしてるかわかってるのかっ!? 頼む見逃し……」


「う、うああああぁぁぁっっ」


 咆哮とも悲鳴とも付かない声と共に一気に振り下ろした。

 ……飛沫が飛んだ。

 返り血を浴びた私は青年に振り返る。

 彼は先程までとは違った、優しさと悲しさを湛えた笑みで血塗れの手を私の頭に乗せる。

 何をするのかと思っていると、軽く撫でた。不快感は全くなかった。


「お前、名前は?」


「ろんふぁ。龍に華と書く……」


「そうか……」


 呟き、私から手を離すと、母様の元へ。

 しゃがみ込み、状態を確認する。


「もしかして、苓麗?」


「苓麗さんに間違いないですな。見覚えがあります」


 董卓軍の男が頷く。

 やっぱり、この二人は私たちを迎えに来たようだ。

 あの時逃げずに待っていれば、もしかしたら母も死ぬことはなかったのかもしれない。

 でも……


「カカ様……助けて」


「……俺が出来るのは上に乗った木を退けるだけ……死者を生きかえす事はできない」


 何を言われたか、一瞬理解できなかった。

 「え?」とよく分かってない顔で私は彼を見る。

 でも、それで納得できた。母様を見ると、確かに、既に生気が感じられない。


「死ん……じゃったの?」


「症状から一酸化炭素中毒だな。煙を吸い込みすぎたんだ。幸いなのは……寝ていた間に死んだから、安楽死だったってことぐらいか」


 私は力なく母様の亡骸に歩み寄る。

 足の力が抜けたようにトサリと膝を折った。

 この時の私は、一酸化炭素中毒。なんて言葉、全く分かっていなかった。

 ただ、母が死んだ。もう助からない。

 それだけは、確かに理解した……


 その後、私は母の墓を郊外に作り、彼らと共に旅をすることになった。

 そして、私は青い髪の青年を慕う。

 私は、彼を育ての親。トト様と呼ぶことにした。

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