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死の定義

「……とぉ…………武藤ぉッ」


 揺すられる感覚に、ようやく思考が廻り出す。

 え……と、なんだっけ?

 今どうなって……


 意識が急速に戻る。

 そうだ、戦闘員と戦いを……

 そこまで気づいた瞬間、慌てて起き上がる。


 頭が揺れるような痛みを発した。

 気絶していたのか?

 だが大した時間じゃないらしい。

 

 目の前に居るのは心配そうに俺を揺すっていた手塚。

 ここは森の中だ。

 意識が薄れる直前と全く変わらない景色。


 戦闘員はどうなった?

 即座に立ち上がり警戒を始める。

 その勢いの良さに心配したらしい。手塚が不安げに声を掛けてきた。


「ちょ、大丈夫か!?」


「……戦闘員は?」


「倒したよ。山……ネリウのヤツが」


 そういえば、意識を失う直前、ネリウの声が聞こえた気がする。

 あの魔法が直撃してくれたらしい。

 なら、警戒は必要無いか。とようやく安堵の息を吐く。


 まさか戦闘員と遭遇して戦闘になるとは思わなかった。

 しかも、生身で戦うと物凄く強いし。

 よく倒せたもんだ。


「そっか……ネリウのおかげで助かったみたいだ。お礼言わなきゃな」


 まだ、何か言いたそうな手塚。

 なぜか顔を赤らめ、「その、あ……あ……」と意味不明の言葉を繰り返している。

 両手は胸元で人差し指同士をくっつけたり離したりして落ち着かない様子だった。

 何が言いたいのか尋ねようかと思った俺に声がかかる。


「側頭部を蹴られた時には死んだかと思ったわ。後遺症はない?」


「ネリウ? ああ。大丈夫みたいだ」


「戦闘員……こんなのがまだ十数体……皆大丈夫かしら?」


 近づいてきたネリウは傍に倒れた戦闘員を見る。

 ……倒れた?

 確かに戦闘員が倒れていた。


 茂みに隠れるように倒れていたので気付かなかったが、ぴくりとも動く気配はない。

 しかし、俺は咄嗟に叫んでいた。


「近寄るなネリウッ!」


 俺は手塚の襟首をひっ捕まえ飛び退くように戦闘員から距離を取る。

 頭が速度に耐えきれず痛みを発するが、今は無視だ。

 逃げないとさらに危険な事になりかねない。


 言われたネリウも即座に逃げると、案の定。

 戦闘員がゆっくりと立ち上がる。

 死に真似をしていたのか、それとも気絶していたのか、頭を振り振り完全復活である。


「うそッ。まだ生きてるの!?」


「当然だろ。倒された戦闘員は消えるんだぞ。泡になったり爆発したりはあるけどな」


 当然ながら、改造人間も同様だ。

 倒された怪人や戦闘員が正義の機関で研究され、対応策や元の人間に戻すという技術を開発されないため、各組織が独自の証拠隠滅技術を使うのだ。

 致死量の攻撃を受けたり、心臓が止まった瞬間などに、爆破して骨も残さず証拠隠滅を図るのである。


「それ何処情報!? マジヤベェじゃん」


 向ってくるかと全員が警戒した時だった。


「……ド……」


 声の様なものが聞こえた気がした。

 強烈な風圧と共に、ヒュンと風を斬る一つの音。

 戦闘員が丁度顔を上げた瞬間、彼の額に矢が突き立つ。

 矢の先端だけでなく、根元までがしっかりと刺さっていた。

 そして、戦闘員がさらさらと消えていく。


「え? ちょ、何アレ?」


 手塚もネリウも戦闘員を見ながら唖然と口を開く。

 でも、俺はそちらに感心なんて示さなかった。

 だってもう消滅を始めてるんだ。危険はなくなったと見ていい。


 にしても、アンデッドスネイクは砂のように消えて行くのか。あの技術は賞賛に値するな。首領が欲しがりそうだ。

 おっと、それよりも矢が何処から来たかを……

 と、思ったのだが、矢を扱う人物なんて一人しかいないじゃないか。


「大井手さんか……」


 俺の呟きに、名前を呼ばれた大井手がびくりと肩を震わせる。

 力尽きたようにその場に座り込んでしまった。

 俺は思わず彼女に駆け寄る。


「大丈夫か大井手さん」


「あ……う、うん。皆は?」


「大丈夫みたいだ。大井手さんのおかげでね」


 手を貸して彼女を起き上がらせる。

 少し恥ずかしそうにしつつも、俺の手を取った。

 腰が抜けたわけではないようで、弱々しくも立ち上がる。


 でも、よく矢が刺さったな。

 銃弾でも殆ど傷つかないはずなのに。


「マッキーッ」


 遅れてネリウに肩を借りてやってきた手塚が叫ぶ。

 俺の手から離れた大井手が手塚に歩み寄り、二人ががしりと抱きしめ合う。

 涙を流して互いの生存を確かめる姿は、なぜだろう、凄く感動的だった。

 やっぱり、もう悪の手先なんて、やりたくないな。

 そんな感情が湧き起こる程の感動だった。


 しかし。と思う。

 消え去った戦闘員。負ければ俺も、証拠も残さず消えるはずだ。

 インセクトワールドの証拠隠滅は、自爆装置による周囲を巻き込んだ自爆である。


 もし、自分が死ぬ時があったとしても、ネリウや手塚たちを巻き添えにはしないようにしたい。

 そして、戦闘員の蹴りを喰らって死ななかったことに本気で感謝した。


 だって、アレで死んだら笑い話にもならないしな。

 一般人庇って戦闘員にやられました。自爆装置作動で庇った一般人ごと砕け散りましたとか、本気で笑えない。

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