気付いたらハーレムパーティー
「え? どゆこと?」
船着き場、というよりはどこかの海岸に着いた俺たちは、トルーアの言葉に首を捻っていた。
目の前には船が一艘。他に異物の無い海岸である。
どうにも、彼女の言う事には、借りた船はこれ一艘しかないらしい。
つまり、後続として増渕達が来た時、この船が使えないということになる。
どんよりとした曇り空からは相も変わらず雷鳴が轟き、押し寄せる波間も波の音しかないせいでなんだか不気味な感じがする。
空では相変わらず飛行中の魔物が雷に打たれて墜落する姿が見える。
あ、海に落下した鳥型魔獣が巨大ザメに喰われた。
こんな所で立ち話などせずさっさと人の居る町に向いたいところだが、残念なことにここで一時休息しなければならないようだ。
「ふむ。つまり、この船に四人が乗り込みこの大陸に来た訳か」
「ええ。好きこのんで来るような船頭はいなかったわ。私達は船を買い取ったのでこれ一艘しかないの」
つまり、俺たちがこの船を使うと増渕たちが向えない訳で、俺たちが使わずにフリューグリスに向える方法はない訳で、さらにいうと、ここでいつ起きてくるかわからない増渕パーティーを待っているという選択肢は却下したい訳で……
あ。いいこと思いついた。
「丁度いいんじゃないか? イチゴのムーブで移動して貰おうぜ」
「ふむ? そういえばムーブどうこうで城門前で何かしていたな」
「ああ。ムーブの魔法を覚えたらしいんだけど、この魔法なら大人数を記憶した地点に移動させる事が出来るらしいんだ。だから一度フリューグリスに向って、イチゴは魔王城にムーブで移動する。それで増渕パーティーを連れてフリューグリスに魔法で移動する。ってのはどうだ?」
ちなみに、六人で1890ものMPを消費する。七人だと3710。
イチゴに確認取ってみたが、さっきのビッグフットもどきを倒したことでなんとかぎりぎり行って帰ってくる魔力はあるらしい。ただし、ぎりぎりである。
魔術師へのクラスアップとレベルアップで3810に増えたMP。つまり、行きに30使って彼女だけが移動。その後五人連れた計六人で帰れば1890+30で1920の消費となり十分余る計算ではあるものの、もしも増渕たちが出立していた場合、高位の魔物が闊歩するフィールドを一人きりで歩かなければならなくなる。
これは余りに手酷い所業。なので、保険として龍華が一緒に行くことになる。
となれば、初めの移動で90。さらに帰りに七人になるので3710。合計すると3800。
残るMPはわずか10である。魔法一つ唱えれば0となり気絶するそうだ。
といった感じで、俺たちの今後の方針が決まった。
フリューグリスに着いたら俺達三人は二人が帰ってくるまで街中散策で待機。
それでも、ここで増渕たちを待つよりはマシだと言える。
ちなみに、MPの回復のため、ビッグフットもどきの肉を無理矢理食べさせられたイチゴ。涙目で龍華に訴えたが理解されていなかった。
「では、遠慮なく船を使わせて……薬藻、右に半歩避けてくれ」
ん? 半歩避ければいいのか?
良く分からないが取り合えす言われた通り身体を避ける。その刹那、
「シザーブーメラン!」
龍華がノーモーションで鎌を投げつけてきた。
鎌がブーメランのように縦回転しながら俺の半歩横を綺麗に通過する。
そして、背後でギィと断末魔が上がった。
声に驚き振り向いてみれば、三枚下ろしになった二メートル大のカニが一匹。
どうやら魔物の一種らしい。
伊吹が無造作に歩み寄って手で触れる。
どうやらドロップアイテムを手に入れたようで、遺体が消え去った。
俺は何が手に入ったか伊吹に聞いてみようと踵を返しかけ……
「動くな、死ぬぞ」
龍華の声に身体が止まった。そして、同じく半歩横というか、丁度斜め横を向いたので目の前を龍華の鎌が回転しながら舞い戻ってきた。
そんな回転中の凶器を龍華は難なく掴み取る。
どうやらそこまでがスキル補助の動作になっているようだ。
……なんだろう。今日、というか昨日のアレ辺りからついてない気がする。
何で俺だけと思えるグリーンスキンなお方との邂逅が二度、さらには龍華に殺されかけた訳だ。
偶然といえば偶然だがこう重なるとちょっと俺の幸運値低いんじゃとついつい考えてしまう。
いや、きっと大丈夫だよな。うん、これで船が嵐にあって俺だけ海にとかないよな。
あ、これ、もしかしてフラグ立てたか?
いやいや、気のせい、うん、気のせいだよ。大丈夫、偶然だ。
「ふむ。このスキルは意外と使えそうだな」
放物射線に入れば問答無用で切り裂くスキルは味方の脅威です龍華師匠。
「そういえば、冬子、何が手に入った?」
「かにみそ」
だそうだ。
魔物の名前は分からないが、カニの魔物からはダッシュクラブの甲羅とかにみそが手に入るらしい。
……このダッシュクラブっていうのがこいつの名前じゃないのか?
ドロップアイテムの確認を終えた俺たちは、ようやく船に乗り込み大海原へと旅立つ。
この船は一パーティー用、つまり六人乗りの小型の船だった。
オールが二つあるので、これを使って漕いで行くタイプの船らしい。
龍華が何度か経験があるということで、来る時に漕いだらしいトルーアと龍華に漕ぐのを任せて俺たちは船でゆっくりすることにした。
うん、船旅な上にこのハーレムパーティ、最高じゃないか?
俺以外全員女性だから、密着し合う船の上だと不思議と甘い香りがどこからともなく漂ってくる気がする。
しかも俺の隣には伊吹。話す事は殆ど無いが、彼女も彼女で結構可愛い。
大人しい印象と落ちついた感じがなんとも今の状況に合っているというか、のんびりとした気持ちにさせてくれる。
船最高。俺、この世界に来て良かった。ネリウに感謝しよう。
ただ一つ、この世界には船酔いもあるらしい。
数十分後の俺たちは、それはもう悲惨だった。




