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自称勇者の実力は……

 突然現れた自称勇者アルテインは、会議室の面々を見回す。

 何とも言えない空気が漂う。

 魔王退治にやってきた四人と、会議中だった俺たちの空気が混じり切れず、白けた雰囲気が漂う。


 さすがにアルテイン以外の三人は空気に気付いたようで、戸惑った視線をアルテインに向ける。

 なんか違うとこ来ちゃったんじゃない? みたいな視線を受けながら、アルテインは脂汗を浮かべつつ、さらに言葉を告げる。


「ぼ、僕は勇者アルテイン、ま、魔王、正々堂々僕と勝負を……」


 結局俺たちの視線に自信がなくなったアルテイン。言葉が尻すぼみになっていく。


「すまないが、今大事な会議中だ」


「え? いや、その……」


 戸惑うアルテインに、増渕が立ち上がり近づいていく。

 やってきた増渕の得体の知れなさに戸惑いながら、一歩さがるアルテイン。

 手にしたロングソードに力が込められる。


「小僧。勇者というのならばステータスのクラスを見せてみろ。本当にお前が勇者だというのなら、いいだろう。引退した身ではあるが私が相手をしてやる」


 それは……と戸惑うアルテイン。手塚が勇者として呼ばれたというのだから、こいつは偽物だろう。

 勇者がいるのなら手塚が呼ばれるはずもない。

 にしても……凄いな。ハーレムパーティー、実際に見る事になるとは思わなかった。


 無謀な熱血少年風の容貌を持つアルテインに付き従うのは、赤い髪のお姉さん。

 背中に差した大剣と、赤いライトメイルを見るに、傭兵か何かだろう。

 死線を潜っているのか肩や腕に古傷が見える。


 黒いローブを着た女の子は少しおどおどとした様子で俺たちを見ている。

 青い髪の彼女は赤い水晶が付いた錫杖のような杖を両手で持ち、いつでも魔法が使えるように構えている。ただ、足が震えているのはどうにかしてほしい。

 生まれたての小鹿を見ているようでついつい声援を送りたくなってくる。


 最後に、まさかこの種族を目にする事が出来る日が来るとは思わなかった。

 銀色の綺麗な髪に尖った耳。浅黒い肌はどうみても、ダークエルフという種族。

 ゲームで良く見ていただけに、彼女と仲良くなりたいという欲望が生まれてしまう。


 さすがに今は敵対関係のようになっているので近づく事はしないが、ちょっと本気で狙ってみようかな。背丈的にも余り変わらないし。綺麗な顔してるし、年齢は……下手すりゃ2、300歳くらいいってるかもしれないけど、そこはファンタジーとして大目に見るべきだろう。


 ふと、視線に気づく。

 目線だけそちらに向けると、ネリウがじと目を送っていた。

 な、なんだよ? いいだろ別に、夢に見るくらいいいじゃないか。


「どうした小僧。お前が勇者だと分かればいいだけだ。別に全てのステータスを見せろとは言っていないぞ?」


「ぼ、僕はまだ勇者じゃない。でも、でも勇者になるんだ。だから……」


 自分で勇者じゃないと認めたよこいつ。

 増渕もどうしたものかと頭を掻く。


「と、とにかく、僕は魔王を倒しに来たんだ。あんたが誰か知らないが、邪魔をするなら……行くぞッ!」


 問答無用とばかりに斬りかかるアルテイン。

 どれ程の実力かは知らないが、さすがにチートステータスの増渕を倒せる力はないようだ。

 増渕は避ける事すらせずにロングソードを顔面に受ける。


 俺たちの世界なら、まず間違いなく額にめり込んでいてもおかしくない一撃だった。

 しかし、増渕の額には傷一つなく、当った所で止まってしまっていた。


 ――アルテインの攻撃! クリティカルヒット! ナルテアに0のダメージ!――


「ば、バカな!?」


「ATが足ら無さ過ぎるな。こちらが攻撃するまでもない」


「く、くそぉっ」


 アルテインが必死になって増渕を攻撃する。

 しかし、やはりダメージは入らない。

 単純に攻撃力が足らないのだ。どれほど攻撃が入っても、ダメージは0だ。


「シェ・ズ!」


 ――???はシェ・ズを唱えた! ナルテアに0のダメージ!――


「アル、弓で援護する。反撃に気をつけろ!」


 ――???は三連の矢を放った! ナルテアに0のダメージ! ナルテアに0のダメージ! ナルテアに0のダメージ!――


「隣は任せな」


 ――???は十字斬りを放った! ナルテアに0のダメージ! ナルテアに0のダメージ!――


 他の三人も相手が強敵だと理解したようで、一緒になって攻撃を始めるが、力の差がありすぎて全て0ダメージ。

 さすがは元魔王とでもいうべきか。

 これ、自分がやられたら絶対に心が折れると思う。

 今回の魔王が増渕じゃなくてよかった。いや、増渕並みのヤツかもしれないけどさ。


 ―― ナルテアに0のダメージ!――

 ―― ナルテアに0のダメージ!――

 ―― ナルテアに0のダメージ!――

 ―― ナルテアに0のダメージ!――

 ―― ナルテアに0のダメージ!――

 ―― ナルテアに……――


 どんだけ攻撃しても相手を倒せないというのは絶望しかないだろう。

 さすがにちょっと可哀想。

 魔法使いの子なんて涙目になってるし。


「つまらん。これならばあの時の勇者の方がまだマシだったぞ。ムカつく奴ではあったがな」 


 そういえば魔王を倒した勇者が魔王になるんだよな。

 というと、魔王を倒せるだけの力を持った上に魔王になっている訳だから、増渕より強い魔王になる。その魔王を倒した勇者はまた強くなっている……で繰り返していれば今の魔王って強すぎないか?


 あ、でも勇者の近くから魔王が生まれるんだっけ、だから前の魔王より強い魔王になるという訳でもないのか。

 ただ、増渕を倒した勇者はチートの上を行くチートステータスだったんだろうな。

 そいつが魔王になった時に呼ばれなくて良かったと思おう。

 にしても、どうするこの状況?


 このままじゃ作戦会議も進まないし、これから活動する準備も出来ない。

 寝るくらいは廊下の先にある部屋を使えるそうだからいいが、食事はどうするんだろうか?

 そろそろ腹が減ってきた気がする。


 俺は視線で増渕に訴える。

 しかし、増渕は気付かない。

 結局、30分の戦闘の末、自称勇者パーティーのスタミナ切れで幕を終えた。

 増渕が攻撃に移ると手加減出来ずに即殺してしまうので、彼女が攻撃に移る事は一度もなかった。

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