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ようこそ魔王の間

「オルトロスだな」


 敵を確認した増渕が呟く。

 オルトロスなら知っている。確か双首の犬だ。

 ケルベロスの兄弟だっけか? あれ、違うか。

 どっかの庭園護ってたけど力自慢のヤツに絞殺されたんだっけ。

 にしても、大きすぎないかこいつ?


 見上げる程の巨体が通路一杯に存在している。

 残念ながら逃げるコマンドで前側に逃走できそうな場所もない。

 そんなコマンドが存在してないけどな。


「咆哮に気をつけろ。スタンを喰らうとしばらく動けなくなる」


 スタンって……本当に体感ゲームみたいだな。

 吠え声に驚いて軽い金縛りになるらしい。


「要は早く倒せばよいのだろう?」


 言うが早いか、いつの間にか血のように赤い鎌を持った聖が駆ける。

 そういえば、教室の時は白い布に包まれた何かを持っていたはずだが、今まで気付かなかったな。

 たぶんあの布を取るとこれが出てくるようだ。


 つまり……普段教室に凶器持ち込んでるじゃねぇかこいつっ!?

 何ソレ、恐い。

 下手すりゃ捕まるぞ国家権力に。


 聖は空中へと身を躍らせ、思い切り鎌を引き絞る。

 その速度はあまりに早く、一瞬残像が見えた程である。

 近づいて来た聖に気付いたオルトロスが息を溜めこむような行動をした瞬間だった。


「真空波斬!」


 かなり離れた場所から聖が鎌を振り上げる。

 袈裟掛けを逆から再生したような振り上げに遅れるように発生する真空波。

 微妙に薄緑色が混じった衝撃波がオルトロスへと叩き込まれる。


 一撃だった。

 オルトロスは一つの行動すら起こすことなく、真っ二つになっていた。

 さすがの元魔王も、これには唖然としていた。


「露払いは任せろ。しかし、このスキルとやらは扱いにくいな。動きにくくて敵わん」


 こいつもそうとう化け物だった。たぶん、敵に回れば俺もオルトロスの二の舞いになるだろう。

 絶対に、敵対しないようにしよう。敵になったら即投降だ。


 それから、何度か魔物に遭遇した。

 さすがは魔王の城なのか、出てくる魔物はかなり大きい。

 パープルドラゴンやらデミウルゴス、ダゴンなどなど、さまざまな魔物が現れる。

 そして聖が一撃の元葬り去っていく。


 たぶん、ゲームでいうなら中ボスクラスの魔物だと思うんだ。

 なのに一撃死とか、どこの無双だよ。

 しかもほぼ確実に死体が二つ以上に分かれるし。


 増渕のヤツはそんな死体がでると、歩み寄って手をかざす。

 何をしているのかは後で説明するそうで、しばらくすると死体が音もなく消え去る。

 どうやらあの手をかざす行為で死体を消すことができるらしい。


 しばらくして、ようやく魔王の間に辿りつく。

 荘厳で巨大な扉に遮られた通路で一息入れ、扉を開く。

 実質、聖しか戦っていないので俺たちは何もしていないに等しい。というか、実際何もしていない。

 それなのにパーティー登録してあるので、経験値とやらがどんどん溜まる。


 経験値については、ステータスには表示されないようだ。

 増渕曰く、隠しパラメーターのようなもの、らしい。

 なんか気が付けば自分にしか聞こえない音が鳴るので、それでレベルが上がったと初めて分かるらしい。俺もさっきから立て続けに鳴りまくっている。

 よっぽどここにでる魔物は経験値が豊富らしい。さすが魔王城。


 にしても、聖のヤツ、強すぎだろ。

 なんだよあの鎌。不気味な血色だし、刃なんか二連だし、身の丈三倍はあるバカでかい柄だし、死神の鎌みたいに湾曲してるし、あの立ち姿見るだけで本当に死神じゃないかと思うぞ。


 しかもである。パープルドラゴンとの戦闘時、一度ブレス攻撃が直撃し、聖が猛毒状態になった。

 ステータス異常にかかると身体の色が変化するらしく、一瞬だけだが紫色に肌が変化した。

 しかし、一瞬である。

 すぐに元の姿に戻った聖はダメージなど喰らってないかのように真空波斬でぶった切っていた。


 アレはばけもんだ。正真正銘人外だ。元魔王すら震えてたし。

 まぁ、とにかく、聖についてはもうすぐステータス確認するわけだし、放置でいいだろう。

 今は、扉の先に意識を向けよう。


 ゆっくりと開き始めた扉から、内部が見え始める。

 ゆっくりと開いているのは不意打ちに対応するためだ。

 一気に開くと、タイミングを合わされかねないし、ゆっくり開けば扉が防壁の役目をしてくれるからだ。タイミングをずらすだけでも十分効果があるけどな。


 しかし、不意打ちは一度もなかった。

 扉が開ききる。

 現れたのは魔王の間。荘厳にして煌びやかな装飾が施され、天井近くの壁に貼りつけられたステンドグラスが、教会を思わせる。


 魔王の部屋であるはずなのに、どこか神聖な雰囲気がある。

 魔王城の辺りは天気が常に悪いのでステンドグラスから入る光は微々たるものだが、天井に吊るされたシャンデリアのようなものが優しい光を降り注がせているせいだ。


 玉座の真後ろには、パイプオルガンが存在し、パイプが部屋全体を走っている。

 この空間、どう見ても大聖堂だ。魔王の間といわれても全くしっくりこない。

 パイプオルガンには座席があり、増渕曰く、これを引く専門の職業も存在していたらしい。


 その右隣には奥の間へと続くドアが存在している。

 こちらには作戦会議室や魔王の寝床などが存在しているらしい。


 そして、俺たちの視線の先には、主不在の玉座が、ひっそりと、しかし威厳に満ちて存在していた。

 増渕が無警戒に部屋に入る。

 周囲に視線を走らせながら玉座へ。


 しばらく玉座と対面し立ち止まっていたが、少しして玉座に近づき、どかりと座る。

 左足を上げて右足に乗せ、肘かけに肘を突き顔を支える。

 その姿は、まさに勇者を待つ魔王のそれであった。

 不敵な笑みを湛え、俺たちを見つめる。


「ふふ。よく来たな異世界の勇者ども。我がこの城の主にして魔族を統率する者。魔王ナルテア・ナルティウス・ナーフェンデである。許す。その場より進み出るがいい」


 厳かに告げる。

 底冷えする冷たい声でありながら、歓迎の暖かさがある声だった。

 俺はネリウたちと顔を見合わせ、戸惑いながら謁見の間へと進む。

 少し段差のある場所まで来ると、増渕はふふっと笑みを洩らした。


「いや、すまない。つい懐かしくてな。先程の台詞は前世でよく使っていた言葉だ」


 と、玉座から立ち上がる。


「どうやら現魔王はここを拠点にはしてないらしいな。あわよくば縊ってやろうと思ったが、仕方あるまい」


 段差を降り、俺達の対面に来ると、薄く微笑んだ。


「この先に会議室がある。案内しよう」

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