その世界はゲーム知識でできていた1
「それで。俺たちは何をすればいい? まさかいきなり魔王とやらに戦いを挑めというわけではあるまいな? 仮にもこちらはド素人の学生。いや、一般人だぞ」
手塚から視線を集めるように、赤城が声を出す。
なぜかメガネに手をやっているのはインテリぶって格好付けようとしておるのか?
いや、どうやらただのクセのようだな。
おおかた格好つけようと小学生の頃に面白がってやっていたらそのままクセに昇華したクチのようだ。可哀想に。
「その点は、皆様のステータスを見ていただければ納得いただけるかと」
「ステータス?」
代表して赤城が鸚鵡返しに尋ねるが、その質問は儂らも同意だった。
ステータス。ステータスな。もしかしてアレか、最近のゲームでよくある能力値を表示するアレか?
「イモニカイ、勇者殿達はステータスを知らぬようだぞ?」
少し不安げに魔術師を見る国王。
「では、ステータス・展開表示」
魔術師がそう言った瞬間だった。
魔術師の眼前になにやら四角い枠が現れる。
白い線で区切られた枠には、文字が書かれていた。
せっかくだ。この枠はボックスとでも呼んでおこう。
NAME:イモニカイ・アトルテスタ【♂】
RACE:ヒューマン 【32】
CLASS:宮廷魔術師 【Lv10】
HP 3000/3000
MP 300/4220
TP 1000/1000
AT 320
DF 130
MA 520
MD 440
SPD 250
LC 640
特技:非公開
魔法:非公開
PASSIVE:非公開
情報:非公開
なんとまぁ、本当にステータス表示がある世界とは驚きだ。
異世界の次はゲーム世界にでも迷い込んだのだろうか?
「これがステータスでございます。この表示方法は見る方により言語が違います。といっても良く分からないでしょうし、まず順に説明致しましょう」
ステータスを表示するやり方は、「ステータス・表示」と言えばいいらしい。
これで自分のステータスを確認する事が出来る。
ついでに、「ステータス・展開表示」と言えば、近くの相手にステータスを見せられるらしい。
その時、見られたくないステータスがあれば、そこは見せたくないと思うだけで非公開の文字に置き換わるのだとか。
本来、このステータスはこの世界の言語で表示されるそうなのだが、これも見る者によって表示方法が変わる。相手の知っている言語に合わせ、ステータスの見え方が変わるのだとか。
だから、儂らが見ると、全部日本語やら英語が混じったゲームでよく見るステータス画面となってしまうらしい。
NAMEはまぁ、見たままだな、名前の事だ。その後ろの【】は性別だそうだ。
RACEは種族。その後ろは年齢が書かれている。
CLASSは役職だそうだ。その後ろの【】は役職のレベルらしい。
この世界ではこの役職のレベルによって能力値が上昇するそうだ。
幾つもの役職を転々とする者も居れば一つの役職のまま生涯を終える者もいる。
役職はさまざまあり、未だに全ての役職を見つける事は出来ていないそうだ。
その下のHP・MP・TPは簡単だな。ヒットポイント、マジックポイント、テクニカルポイントだ。
すなわち体力、魔力……技術力か?
体力は当然、攻撃を受ければ失って行き、0になると死亡する。
この世界では生まれた時から年を経るごとに体力が付いていくので、一般人でも1000はあるらしい。他の値もゲームに比べるとかなり高い位置が平均になっている。
つまり、この魔術師はそこまで強い訳ではなく、本当に役職として魔術が使えたために宮廷魔術師になれただけの存在だそうだ。それでも魔力が4000まで上がるのはなかなか珍しいそうではあるが。
AT以下は攻撃力・防御力・魔法攻撃力・魔法防御力・速度・幸運値の順になっている。
特技や魔法はそのまま、そいつが使える能力という奴だな。
PASSIVEは常時発動型のスキルだそうだ。
情報についてはそいつのプロフィールといったところだな。
人生がつづられているといっても過言ではなく、盗賊行為などをしていれば、ここに表示されてしまうのだとか。
一部公開はできないので、相手に見せる場合は全てのプロフィールを見せるか、非公開にして隠すしかない。つまり、悪行を一度でも行っていれば、ここは確実に隠れているといっていい。
といっても一般人だって隠したい説明はあるだろうから殆どのヤツが非公開になっているだろう。
審問官などは非公開部分を強制的に開示させる魔法を持っているとも聞かされた。
ちなみに、ゲームをやったことがないらしい日本のヤツは、NAMEなどの表示が名前、体力、魔力等といった表示になっているそうだ。
ふむ。試してみるか。
NAME:ヌェルティス・フォン・フォルクスワーエン【♀】
RACE:不死族 【12917】
CLASS:吸血鬼・真祖 【Lv80】
DEGREE:厨二病患者 【Lv32】
HP 6300/6300
MP 9000/9000
TP 4300/4300
AT 473
DF 329
MA 991
MD 730
SPD 630
LC 510
特技:
吸血:10
眷族化:990
厨二言語:0
儂の考えた暗黒武術:200
魔法:
蝙蝠化:320
使い魔召喚:100
幻術:200
狼化:500
儂の考えた暗黒魔術:700
PASSIVE:
聖属性弱点
自己再生・小
情報:異世界から召喚されし者
おお出た出た。これが儂のステー……ぶふぉっ!?
歳が、儂の歳が正確に表示されておるっ!? 儂ですら把握しておらんのにっ。
12917年か。もうそんなに生きておったのだな儂は。
くっくっく。さすがは宵闇の覇者。これ程の年げ……ごはぁっ!?
なんだ!? なんだこのDEGREE:厨二病患者は!? しかもレベルが32だと!?
この、なんだ、でぐりー? でぃぐ……!? 称号か!!
なぜ儂の称号が厨二病なのだ。普通は宵闇の覇者であろうが! しかも患者だと!? レベルが高いということはアレか、完全にこじらせておるといいたいのか!?
おのれこの世界、儂をナメ腐りおってからにっ。今に見ておれ、必ず後悔させてやる。
儂の考えた暗黒魔術でぇ……ってなんだこのスキルは!?
しかも魔法だけでなく特技欄にまで暗黒武術なる厨二病っぽい記述が!
「ふむ。よし、全員、ステータスを見せあおう」
なんとっ!?
お、おい赤城よ、そ、それはアレか?
儂に対する公開処刑でも行う腹積もりなのか? そうなのか?
儂のあせりを素知らぬ顔で、他のクラスメイト共も同意してしまう。
ぐぅっ。退路が塞がれた!?
どうすれば、どうすればよい?
絶対バカにされてしまうぞコレ。
人知れず、儂は人生のピンチを迎えるのだった。




