救出部隊結成
数学の授業は結局始まることなく自習となった。
突然生徒が六人も消え去ったのである。さすがに呑気に授業など出来る雰囲気ではなかった。
戸惑い慌てる可哀想な先生を放置して、前回の騒動に携わっていたらしいメンバーが立ち上がる。
手塚の机に集まったのは、山田八鹿、河上誠、御影祐一、ついでになぜか聖龍華。
彼らは机の周りを一通り捜索すると、互いの顔を見合って首を横に振る。
どうやら成果は芳しくないらしい。
「魔法の構成が違うから、何処へ向ったかは分からないけど、おそらく転移……いえ、召喚魔法ね」
山田の言葉に聞き耳を立てていたクラスメイトたちが首を傾げる。
一応、超常現象を起こしたことは公然の事実である山田だが、厨二病ノリの言動には付いていけない生徒が多いらしい。全く、あれほどの体験をしておいて悲しい限りだ。
「すると、前回のクラリシアとかいう世界とは別の異世界にでも飛ばされたということでいいのか?」
山田の言葉を理解したらしい聖の言葉に、山田が頷く。
「ええ。確証はできないけど、何らかの方法で転移したとみていいわ」
「そうか。まぁ真希巴とナナシがいるから多少は安全ではあろうが、救いに行く道を探すしかあるまいな」
「消えたのは手塚の前後左右のクラスメイト、そして大井手か」
御影が消えた生徒の机を見回す。
消えた生徒は大井手、手塚に加え、手塚の右隣りの田中ナナシ、左隣の八神百乃、後ろの赤城哲也、前の日本毅の計六人である。
巻き込まれた奴らはなんとも悲惨なことではある。
しかし、なんだったのだろうか、あの光。凄く懐かしい力を感じた。
あれはまるで……いや、まさかな?
だが……ふむ。確かめてみるのも悪くはないか。
「解析できるかわからないけど、まずはこの魔法の痕跡から跳んだ異世界を探すわ。それで飛べるようなら助けに行こうと思うの」
山田は前回活躍したせいか、まるでリーダー風を吹かせたように話を纏め始める。
ついでに助けに行く時に一緒に行くメンバーを誘っているようだった。
しかし……
「そうしたいのはやまやまだが、パステルクラッシャーが本格的に行動を始めたらしくてな。昨日から集合の電話がかかり始めたんだ。リーダーの俺が行かない訳にはいかないだろ? こっちは任せる」
「俺もこちらの世界では軍規を無視するわけにはいかなくてな。すまないが協力できそうにない」
彼らにとってはメインの戦力となりうるだろう、河上と御影は不参加を決めた。
双方、この世界で外せない用事があるらしい。
魔法を使える山田がいるのだからこちらは任せるということだった。
「ふむ。では八鹿と私だけか?」
「龍華さんも来るの? 正直お勧めできないわ。向こうは戦場かもしれないし」
「構わん。八鹿の護衛役を買って出ると言っているのだ。そのくらいの事は了承済みだ」
「なるほど。使えると見ていいわけね。じゃあ、私と伊吹さんと龍華さんの三人か……」
「私、行くとは言ってない」
さすがに不安なのか山田は顎に手を当て考える。
伊吹が反論するが、無視されていた。
「うん、やっぱりもう一人くらいは居た方がいいわね……あいつに頼もうかしら」
どうやらすでに行く気になっているようだが、異世界を探せるかどうかすらわからないのにどうする気だ? 全く、仕方の無いクラスメイトだな。
「私も行こう」
「え?」
私が声を掛けて立ち上がると、皆に目を丸くされた。
まぁ、いきなり素知らぬ顔をしていたクラスメイトの一人が参加すると言ってくるのだから驚きか。
だが、私は気にすることなく彼らの輪に加わる。
「増渕さん? 珍しいわね」
確かに、私がクラスメイトたちの会話に参加するのはこれが初めてだろう。
一応、それなりの優等生を演じてはいたが、休憩時間はもっぱら魔法の研究に使っていたのでクラスメイトと話す事は殆どなかった。
宿題見せて。いいぞ。とか、先生が呼んでたよ。そうか。といった会話くらいだ。
それ以外はまさに無口で通していたように思う。
だいぶ前だが、休憩時間に魔法公式を作っていると、それを遠目に見ていた山根が、「増渕さんってクールビューティだよな。あの勉強姿萌える」とか赤城に言っていた。
赤城も赤城で、「あまり喋らんせいもあるのだろうが、彼女は妙に達観した顔をする時があるな」などと噂していた。
そういう理由があってか、話しかけてくるクラスメイトが居なかったことも無口化する原因だったのかもしれない。
「私が参加してはマズいのか?」
「いえ。でも危険が付きまとうことは了承してもらうわよ?」
「構わん。あの魔法に少々見覚えがあるのでな。もしかすると転移の件もなんとかできるかもしれんぞ」
山田がさらに目を丸くした。
「本当なの!?」
「可能性の話だが、おそらく大丈夫だろう。山田の転移魔法に私の考えた魔術公式を当てはめれば可能だろう」
さっそく取り掛かろう。ということで、山田と共に作業を開始する。
ちなみに、その横では、聖に連れて来られた伊吹が凄く不満そうにお茶を啜っていた。




