対決ジャスティスセイバー
翌日。
全ての用意を終えた俺はクラリシア城の後方にいた。
ここは怪人である俺とジャスティスセイバーが初めて出会い戦った……というか、一方的に攻撃された場所だ。
今、この場には蛇男を倒したメンバーが集っていた。
俺の対面には河上。
少し離れた場所にネリウ、手塚、大井手、伊吹が立っている。
事前に話した結果、彼女たちは正義の味方を応援するそうだ。
したり顔でネリウに言われた。
見た目怪人なせいで、随分と手酷い扱いだ。
「な、なぁ……蛇男倒すのに協力したわけだし、良いヤツだろ? 武藤を倒す意味ないンじゃ……」
「手塚さん、こいつはどう転ぼうと悪側の人間だ。見つけた以上ここで倒しておかないと後で絶対に後悔する事になる」
随分と身勝手な言い分だ。
でも、まぁ、蛇男がもし改心したとか言ってきても、俺も殺しておくと思う。
「御託はいい。さっさとやろうぜジャスティスセイバー」
急かせるように告げながら、俺は力ある言葉を口にする。
「flexiоn!」
変身を終えると、フィエステリア男。いや、フィエステリア・ピシシーダの方がカッコイイ気がするからこれからはそっちで名乗ろう。へと変化していた。
「チッ、相変わらずえげつねェ顔してやがるな。正義、執行。ジャスティスセイバーッ」
河上がジャスティスセイバーへと変身を遂げる。
真っ赤なスーツに身を包んだ正義の味方。その姿はやはり正義の味方ド素人の河上といえどもそれなりの貫禄を醸し出していた。
俺とジャスティスセイバーとの戦いが始まる。
「ロード、セイバー」
攻撃力はないが必殺技だけは気を付けないと。
直撃を受ければ蛇男の二の舞いだ。
無言のままセイバーを構え、ジャスティスセイバーが腰を沈める。
「消えてもらうぞ、フィエステリア」
「貴様にできるか? アンデッドスネイクの戦闘員にのされた分際で」
ジャスティスセイバーが地を蹴る。
セイバーを振り上げ、上空からの一撃。
大振りな剣撃に俺は軽く腕を上げて防御。
これが普通の剣だったならば、腕に食い込んでいたかもしれないが、彼のセイバーは余りに脆い。
実質的なダメージは殆どない、ならば攻撃に気を向ける必要はない。
必殺のモーションに気をつけて反撃だ。
腕でセイバーを受け止め、焼ける感覚に顔を顰めつつ拳を突き出す。
赤いスーツに打ち込んだ拳は、微妙な弾力を伝えてくる。
しかし、それだけ。
ジャスティスセイバーはものともせずにセイバーを振う。
「クソッ、俺の武器で傷付かないってのぁどういうこった」
「改造人間舐めんなッ。つかテメェこそなんだそのスーツ」
「邪悪な攻撃を通さない素材で造った服だ。貴様の攻撃など喰らうか」
ご都合主義も程度があるだろ。戦闘員の一撃で吹っ飛んでたくせに。
回し蹴りでセイバーを跳ねあげ、逆の足で顎を打ち抜く。
しかし衝撃がイマイチ伝わらない。
さらに腕を掴んで支えにし、空中に舞い上がると顔面目掛け踵を打ち下ろす。
さすがに攻撃を受け続ける気はないようで、一端飛び退くジャスティスセイバー。
が、即座に地を蹴り再び突撃してくる。
今度は真横からの剣閃。
速度は申し分ないが、甘いッ。
俺は右手でビーム状の刃を掴み取る。
「何ッ!?」
「何? じゃねぇよ。テメェ、確かこの剣は自分の正義力だかで強さが変わるんだったな」
「それがどうした!」
俺はセイバーを掴んだ手に力を加えて行く。
微々たる熱だが、掌が焼ける感覚が痛い。
それでも握力を加え続けると、ビーム状の刃が折れ曲がり、つられて峰まで曲がってしまった。 出力機能が壊れたのか、ビームが消える。
「これが、貴様の正義か。片腹痛い」
「だ、黙れッ、これは……」
実際に曲げて見せたのだからジャスティスセイバーも二の句が継げないでいる。
俺はさらに言葉を被せて挑発していく。
「お前は正義の味方失格だな」
「何だとッ」
「だってそうだろう。貴様の正義力とやらを表す剣はほれ、この通り。お前が認める悪に屈しているではないか。この程度の意思で俺を倒すとは笑わせる」
「黙れッ、俺は悪を倒す。絶対に屈したりはしねぇッ。皆を、平和を護るんだよッ」
「ならば見せてみろ。周囲への見栄えなど捨て、本気で俺を潰しに来い」
曲がったセイバーを奪い取った俺は、そのまま遠くに投げ捨てる。
すると、ジャスティスセイバーはそれを眼で追う。
放物線を描き飛んで行ったセイバーは、ネリウ達の足元へと落ちた。
「さぁ、どうする正義の味方? もし、俺が蛇男と同じ思考をしていたら、お前一人で勝てたのか? 人質に取られた大井手を助けられたのか? それで正義の味方を名乗れるのか、ジャスティスセイバーッ」
「……ロード、セイバ――――ッ」
曲がったセイバーが幻のように掻き消える。
そして、ジャスティスセイバーの手に収まる、新たに出現したセイバー。
そのセイバーを見た瞬間、俺の背中に怖気が走った。
さっきまでのセイバーとは違う。
見た目は全く変わってないが、明らかにナニかが変質している。
「フィエステリア、本気でお前を仕留めさせてもらうッ!」
セイバーを上段に構えるジャスティスセイバー。
寒気がするほどの悪寒がビシビシと俺を襲う。
来るッ。
「行くぜ、ジャスティス。砕け、セイバー!」
俺はじりじりと距離を取るように位置を変える。
もう少し、あと少し。
「必殺! ギルティーバスタ――――ッ」
「くッ」
セイバーを振り下ろし、光の柱が飛び出す。
俺は後ろに跳んだ。
しかし、光が思ったよりも早い。
まさに光の速さで俺に追い付き……
俺は崖から足を踏み外す。
光が通過する。
何の抵抗もなく堀の中へと落ちていく。
一瞬の静寂。
そして……爆破音と共に水柱が上がった。




