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大団円、しかし正義は悪を許さず

「無事そうで安心したわ」


 蛇男の爆発を見て、俺はようやく肩の荷が降りた気分で緊張を解いた。

 意識を取り戻した大井手を立たせていると、ネリウがやってきた。


「他のクラスメイトは?」


「先に元の世界に戻したわ。魔力を使い果たしたので私達が戻るのは明日。先程の大魔法で完全に底を尽きたわね」


 素直に助かったと礼を述べていると、今度は空からワイヤーが垂れ、御影が降下してくる。

 その背にはスナイパーライフル。

 どうやら蛇男を狙い撃ちしていたのは彼らしい。


 粘膜ともいえる目を打ち抜く彼の腕はかなりのものだ。

 皮膚に当っていたら手塚の矢と同じく弾かれていただろう。

 さすがは軍のスペシャリストというところか。


「俺が言うのもなんだが、随分奇抜な格好だな武藤」


「ほっとけ」


「しかし、お前が奴らの探し者か。よく相手に乗らなかったな」


「同意です」


 と、伊吹も近寄ってきた。

 こんな時にまで湯のみ持参である。大したタマだと思う。

 しかも湯気の立つお茶を少しずつ啜っている。


「戦闘を行ってたのは洗脳のせいだ。俺自身は一応平和第一だ。まぁ、この容姿じゃ説得力無いけどな」


 ため息を吐きつつ周囲を見渡す。


 安全を確認したからか、手塚もジャスティスセイバーも近づいてきた。


「な、なぁ、武藤……なんだよな?」


 若干の怯えを孕みながら、手塚が俺に聞いてくる。


「……ああ」


 答えにくかったが、それでも答える。

 どうせ事実は変わらないし、今さら嘘をついても意味がない。

 姿を見せてしまった以上、怯えられるのは覚悟の上だ。


「その、凄い容姿だよな……」


 さすがに近づきたくはないのか、若干距離を開けている手塚。

 ちなみに、大井手も俺の姿は恐ろしいようで、慌てるように距離を取ると、ネリウの後ろに隠れるようにして俺と手塚のやりとりを覗いていた。


「まぁ、とにかくこれで大団円といったところね。後は残りの皆で戻るだけよ」


「いや待て、今俺ら敵地のど真ん中だぞ? どうやって脱出するんだ? っつかパラステアはなんで俺らに何もしてこないんだ?」


 ふと、疑問に思った事をネリウに聞いてみる。

 友好関係があるとも思えないし、城内でこれ程派手に暴れたのだ、素直に逃げ切れるとも思えない。


「良く考えて薬藻。素手で城壁を破壊するような化け物相手に打ち勝つ連中を、相手にしたいと思う?」


 ネリウの言葉は的を得ていた。

 騒ぎが一段落したからか、中庭が見える位置に多くのパラステア兵が顔を出しているのだが、皆、俺の顔が向けられると慌てたように顔を引っ込めたり、逸らしたりしている。


 なるほど、危険人物にはさっさと国から去ってもらった方がいいということか。

 これ以上暴れられるのも困るらしい。

 中庭半壊だもんな。


「パラステアの城を半壊してくれたおかげで、再建が優先されるだろうし、しばらく開戦はなさそう」


 中庭だけの被害ではなかったらしい。

 じゃあ、間接的にパラステアとクラリシアの問題は解決か。

 ということは、このまま城門通ってクラリシアに帰ればいいわけか。


 俺は変身を解くと、少しは恐怖が薄れたのか、若干手塚が近寄ってくる。

 先程の戦闘を話題にしながら、帰ろうかと皆が歩き出そうとした瞬間、セイバーが俺に向けられる。


「……河上?」


「インセクトワールドの生き残り、地獄の細胞。正義の名において、貴様を討つ」


 いや、お前空気読めよ。なんて言いたかったけど、通じそうにない。


「お前、もう立ってるのもやっとだろ?」


「黙れ! 貴様が敵だと知ってれば……」


「河上君、薬藻は……」


「うるさいっ、お前らわかってるのかっ。こいつは怪人だぞ。今まで多くの悪行を行っていた怪人だ。今さら意趣返ししたと言われて納得できるかッ」


 こいつ、本気で俺を倒す気か?

 いや、でも、俺を倒さないと何度でも挑んできそうだな。どうすれば……

 ……仕方ない、やるしかないか。


「……わかった」


「ならば……」


「でも、今はダメだな」


「何だとッ!?」


 いきなり否定されて憤るジャスティスセイバー。

 そんな彼に、俺は不敵に微笑んで見せる。


「貴様のような雑魚を倒すに時期など関係ないが、傷を理由に負けたと言い訳をされても困るからなっ。一度クラリシアに戻り、傷を治してから戦ってやろう。このフィエステリアに勝てるというのならなっ」


 言葉に詰まり悔しがるジャスティスセイバーに背を向けて、俺は独り、先行して中庭から去る事にした。

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