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対決、蛇男2

 二階の壁が爆散する。

 粉塵が舞い散る中、手塚は自分が死んでいない事に気付いた。

 そればかりか、傷を負った様子もない。


 蛇男の拳がこちらに向ってくるのは手塚自身も見ていた。

 だから、自分は死んだと思い目を瞑っていた。

 しかし、自分にダメージらしきものがない。

 まさか武藤が身代わりに? と、慌てて眼を開く。


「……ッ……え?」


 自分が何者かに抱かれ、危機を脱した事を知る。

 そしてそれは、助けた相手は一人しかいないという事実でもあった。

 間一髪難を逃れた手塚は、粉塵に咳き込みながら目を開ける。


「む、武藤ありが……」


 そして、驚愕の事実に眼を見開いた。

 それは、自分を庇った武藤が酷い怪我を負っていたとか、致命傷だったという理由ではない。


 目の前に、化け物がいた。

 予想外過ぎる出現に思わず固まる。

 現れたのは気色の悪いなどまだマシだと思える、例えようのない醜悪な顔を持つ怪人。

 怪人、フィエステリア男がそこにいた。


「あ……ば、ばけ……」


 驚愕に見開かれた目は一瞬で恐怖に飲まれ、身体は未知の怪異に怯え震える。助けられたという事実すらどこかに飛んで行ったようだ。

 予想された反応に、大丈夫か? という言葉すら、俺はかけられなかった。


 これで、俺はもう現代世界に戻るわけにいかなかくなった。

 怪人とバレたのだから仕方ない。

 ネリウの提案に従いここで暮らす案を飲むしかないだろう。

 でも、今は先にやる事がある。


 硬直する手塚をその場に丁寧に置いて、空いた穴を見る。

 どうやら、粉塵が邪魔をして向こうからはこちらが見えないらしい。

 追撃が飛んでこない。

 でも、手塚がまた狙われないとも限らない。


「手塚、さがってろ」


 声を掛けるとびくりと体を震わせた。

 ひッと声も洩らしてしまう。

 そして、呻いてから気づいたのだろう。


「……む……とう……?」


 俺は答えず、空いた穴から身を乗り出した。

 手塚の口から「あ……」と声が漏れた。

 こちらに手を伸ばしてくるが、既に俺は外へ飛び出した後。

 結局、手塚の手が俺に触れる事はなかった。




「こ、これはこれは、ようやくお出ましか、地獄の細胞。見ただけで分かったぞ」


 地面に着地すると、蛇男が嫌味な声を掛けてくる。


「インセクトワールドの生き残り、地獄の細胞と恐れられた厄災の暗殺者。それが、それ程に醜悪な容姿とは。なるほど、これでは姿を見せたくないハズだ」


 何が面白いのか、蛇男が笑いだす。


「だが、それがまた素晴らしい。歪な容姿である程に、貴様の名はさらに恐怖と畏怖を呼ぶ」


 蛇男は俺に近寄り手を差し伸べてくる。


「さぁ、共に世界を征服しようではないか。我がアンデッドスネイクに、来るのだ」


 しかし、俺は手を取らない。

 しばらく、対峙する。


「どうした? さぁ、我が手を取り共にアンデッドスネイクのために……」


「俺はさ、日常を平和に過ごすのが好きなんだ。洗脳されてたからいろいろやってたけどな。だから、一度だけ言う」


 蛇男に歩み寄り手を差し出す。

 二人の手が重なる瞬間、拳を握り込む。


「誰がテメェなんぞと手を組むかッ」


 顔面目掛け、思い切り拳を叩きこんだ。


「ぐおぁっ!?」


 仰け反る蛇男を蹴り飛ばす。

 地面を滑るように転がる蛇男。

 慌てて立ち上がる。


「き、貴様、何をするッ」


「インセクトワールド社の社訓でな。目的を邪魔する奴はぶっ殺すって決まってんだ。俺の日常を過ごすって目的を邪魔するテメェは今ここで消えてもらう」


「き、貴様ァッ、我が下手出ておれば付け上がりよってッ。いいだろう、勧誘は止めだ、貴様など食い殺してくれるわッ」


 蛇男の拳が唸る。


「死ねェッ」


 渾身の一撃は高速で、避ける間もなく俺に襲いかかる。でも……

 拳が俺が居た場所を突き抜ける。


「ぬぅ?」


 余りの手応えの無さに蛇男が唸る。

 腕を戻すが、そこに俺の姿はない。


「バカな? どこに消えた?」


「ここだよバカが」


 拳の下から現れ、蛇男を蹴り飛ばす。

 またも蛇男は地面を滑空する。


「な、なんだと!? 今、何をした?」


 驚きながらも起き上がり、拳を振う。

 また俺の居た場所を的確に突き抜ける。

 拳を戻すと、俺が真近に現れ、また蹴られる。


 蛇男は混乱し始めていた。

 今まで正義のヒーローも、魔法少女も自分の敵になりえなかったというのに。同じ怪人に引けを取る。

 それも理解不能の攻撃で手玉に取られる。


 しかも相手は暗殺専門のひ弱な改造人間のはずだった。

 暗殺専門というのは正面から戦うには他の改造人間に引けを取るという意味もある。

 一部例外はあるが、蛇男は俺も近接戦闘は不得意と思っていたようだ。

 まさに好都合である。


「ありえん、何をした? なぜ攻撃が当らない? なぜそれ程早く距離を詰められる?」


「俺の事、調べたんじゃねぇのかよ。俺は、地獄の細胞だぜ?」


 焦って攻撃をすれば、近寄られて反撃される。

 それが分かっていても蛇男には攻撃を止められない。

 止めてしまえば相手からの攻撃が来る。

 俺の攻撃が未知であるからこそ、攻撃されるわけにはいかなかった。


 だが、焦れば焦るほど、大振りに、単調になっていく拳に、ひっつくのは訳はない。

 アメーバのように体を変化させ、拳を回避し、引き戻し際にそれにひっついて蛇男の近くに出現、後は只蹴りを見舞うだけ。

 種を明かせば実に簡単だ。変異能力を持つからこそ成せる技である。


「くたばれ蛇男ッ」


 一瞬、攻撃が止まった。

 その瞬間を見逃さず、俺は蛇男に掌を付ける。

 鞭毛を伸ばし皮膚の隙間に神経毒を打ち込んでやった。


「がぁぁッ」


 仰け反る蛇男から距離を取る。

 これで死んでくれればいいのだが……


「ぐぅ、まだだ……まだ……」


 拳を握り、蛇男が俺に向け拳を飛ばす。

 速度がなかったので今度は避けたのだが、失敗だった。

 蛇男は俺を狙っていなかった。

 未だ動く気配のない大井手を掴み、自らの元へ引き戻す。


「お、お前……」


「動くなッ」


 足を踏み出しかけ、蛇男の大声に立ち止まる。


「くく、くははははッ、形勢……逆転だなぁ地獄の細胞ォ。我が体には毒があるのだぞ、毒同士、打ち消しあったわッ!」


 戦闘員程度にはなんとかなったが、毒持ちの怪人には少々効きづらかったらしい。

 少なくともあと二度程は同じように打ち込む必要があるか?

 蛇男は大井手の頭を掴み、俺に見せつけるように高く掲げる。


「いいか、近づけば毒液でこいつは死ぬぞ。ハブの毒を強化したものだ。貴様の毒も混じっているかもなぁ。結果は……わかるよなぁ?」


「テメェ……」


「卑怯だとは言うなよ同僚。貴様とて似たような事をやってきたクチだろうが」


 どうする? このままじゃ大井手が……つか、あいつ生きてるよな? 死んだりしてないよな?

 クソ、ここからじゃ分からないぞ。

 いや、でも生きてると仮定して動かない方がいい。


 さて、どうする?

 大井手を無視して攻撃するのは無しだ。クラスメイトは全員無事に返す約束だしな。

 なんとか……大井手を引き離さないと……

 しかし、今の所、俺に打つ手はなさそうだった。

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