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作戦、失敗

 一日かけ、俺たちは王都パラステアへと移動した。

 移動組はネリウの作戦通り俺と河上、御影、山根。

 ようするに男性陣全てがこっちにきている。

 そして、最後の一人として、手塚が俺の横を歩いていた。


 他の女生徒は全て大井手とともに見えない壁の向こう側だ。

 御影はスポーツバッグを背負っているが、武具はそこに詰め込んだままだった。

 一応、腰にコンバットナイフとポケットの一つに手榴弾とかいうものを詰め込んでいるそうだが、それ以外の攻撃手段は取り出すのに時間がかかる。


 ああ、あとなんとか糸とかいう攻撃用の糸があるらしい。

 指にワッカ状のモノを填めて、そこに取り付けた糸を相手に巻きつけたりして切り刻むんだとか。

 普通に巻きつけただけでは切れないが、コツさえ掴めば見えない凶器として使い勝手はいいとか言われた。

 ま、それでも準備で多少時間がかかるらしい。


 すぐに戦えるのは変身ができる河上だけだろう。

 俺や手塚、山根に関しては武装すらしていない。武具は全て大井手たちに持ってもらってる。

 武装してパラステアに行けばややこしくなりそうだからだ。


 そろそろパラステア城門といった場所まで辿りつくと、俺たちは互いに確認するように頷き合う。

 城門の城兵が俺たちを見つけて駆け寄ってくるのが見えた。


「君たち、学生という奴か?」


「あ、はい。風の噂でここに仲間が集まってるって聞いて来たんですけど」


「ああ。話は聞いている。すぐ使いを呼ぶから城門を入ったところで待っていてくれ」


 門兵に促され、俺たちはパラステアへと足を踏み入れた。

 そこは、クラリシアなど及びもしない程に強大な城と、広大な城下町。

 レンガで造られた町並みは壮麗というに相応しい。


 様々な人が通りを行き交い、ちらほらと兵士の姿が見える。

 活気のある町で、時折子供たちが棒を持って走り回っているのが見える。

 ここから見えるのは大通りであり、城まで直通しているらしい。かなり遠くに城門が見える。

 ただし、行きかう人が多すぎて時折城門すら人の波に隠されていた。


 通りの左右には様々な店が軒を連ねており、一番近い店は宿屋だろう。

 入口の上にベットが描かれた木製のプレートが見える。

 さらにパン屋、道具屋、換金屋と続いている。

 向い側には服屋、防具屋、武器屋、鍛冶屋などなど。


 遠くの方は露天市場になっているらしく、果物などがちらほらと見えた。

 日本のお金が使えるなら、待ち時間に食べ物でも買わせて貰う所だが、さすがにこの世界の金がないので俺たちはただただ、手持ちぶたさで待っているしかできなかった。


 そして、悪夢がやってくる。

 使いとして人の波からやってきたのは、あの蛇男だった。


「げっ、いきなり怪人と鉢合わせか……」


 河上の言葉ももっともだ。

 身をすくめる俺たちの元へやってきた蛇男は、黄色い目玉をギョロ付かせ、覗く舌をちろちろと出しては引っ込める。


「やあ、よく来たな貴様ら」


「な、なんであんたが……」


「逸れた貴様らを集めてやっているのだ。感謝されこそ、憎まれる理由はないがな」


 と、ニヤついた笑みで笑う。


「我が望みは地獄の細胞を見つけ、我らが軍門に迎え入れる事のみ。それが叶うならば貴様たちは無傷で戻すと約束しよう」


「正気か?」


 御影が確認するように聞く。

 蛇男は頷き、俺たちに背を向ける。

 なるほど。アンデッドスネイクのことを知らない奴が聞けば、自分たちが無傷なら他人事になる。

 もし人外的な力を持つ奴が居たとしても、疑念を持ちつつもこいつに従って大人しくしているはずだ。


「付いてくるがいい、他の奴らに会わせよう」


 俺たちは顔を見合わせつつも、蛇男に付いて行く事にした。

 大丈夫、俺たちの作戦はつつがなく進行中だ。

 きっと大丈夫。そう、信じていたんだ。この時は。




 蛇男に案内され、やってきたのは大人数が収容できる部屋だった。

 ドアを開くと見覚えのあるクラスメイト達が一斉に振り向く。

 無事だったのかと月並みな台詞を吐こうとして、彼らを囲むように存在する戦闘員たちを見て戦慄する。


「こ、こいつらは……」


「せっかく集まったのに脱走されても困るのでな。部下に見張らせているのだ」


 意地悪そうに笑う蛇男。


「そら、さっさと入れ」


 蛇男に促され、舌打ちしながら部屋に入る。その瞬間だった。

 突然、目の前に大井手たちが姿を表す。

 全員、唖然とする中、大井手が慌てた顔で周りを見渡す。

 何が……起こった!?


「き、貴様ら、どうやってここにッ!?」


「クソッ、作戦変更かよッ。正義、執行ッ」


「待て河上、今は……」


 まだ人質を取られる危険があるのに変身なんか行う必要はない。

 慌てて止めに入るが、河上を止めるにはいかなかった。


「ジャスティスセイバーッ」


 そして、正義の使者が舞い降りる。

 俺は手塚の手を引いてクラスメイト達の元へ、山根と御影も危険を感じたのか、女性陣と共にクラスメイト達の中へと紛れ込んだ。


「大井手さん、私は異世界移動のため大魔法は使えないわ。援護よろ」


「は、はい。皆の前で変身するのは恥ずかしいけど……トランスイグニッションッ」


 淡い光に包まれて大井手の服が弾け飛ぶ。

 そして光に包まれ変質し、新たな衣装となって彼女を包み込む。

 それは、まさに、魔法少女と呼ぶに相応しい服装だった。

 ミニスカートから伸びる透明なスカートが……そそる。


 一瞬のうちに起きた現象ではあるが、俺の改造された眼はしっかりと彼女の裸体を焼きつけていた。

 ええもん見せてもらった。

 サムズアップしたい気分を押し込めて、心の中だけでお礼を言うにとどめた。


「愛と光の使者、グラビィマッキー! 重力魔法で、お仕置きよっ」


 決めポーズを恥ずかしそうに決める大井手。

 恥ずかしいならやらなきゃいいのに。


「……と、いうか大井手、お前なんで……」


「この部屋に入ったら、突然グラビティ・テリトリーが切れて……」


「もしかして……強制沈黙?」


 絶望にも似た声でネリウが呟くその瞬間、背後から悲鳴が上がった。

 六体の戦闘員がクラスメイト達に襲いかかっている。


「ちょっと、なんであいつら……」


「ふんっ、こういう時の人質だろうが」


 一瞬慌てていた蛇男も、落ち着きを取り戻してしまったらしい。


「正義の味方が二人。だからなんだ? と言ったところだな。こちらは人質の一人や二人殺しても構わんのだぞ」


 ……最悪だ。


「薬藻、この部屋じゃ私も大井手さんも魔法使えないっ」


 さらに最悪だ。想定外どころじゃなさすぎる。


「無謀です」


 なんて伊吹の声が耳に届く。

 見ればそうそうに武器を放棄して両手を上に上げていた。

 ここじゃ強制転移も無駄、正義の味方も行動できない。

 せっかく変身した河上も大井手も、クラスメイトを人質に取られ手が出せずにいた。


「クソッ、冗談じゃねェぞ。何で正義の味方がこンなに揃っててあっさり負けンだよ……」


 手塚が愚痴る。

 しかし、それで状況が良くなるはずもない。

 抵抗がなくなったと知った蛇男が、クラスメイトの人数を数えだす。


「……三十、三十一、三十二。くく、くははははっ。揃ったぞ。これで全員。つまり、地獄の細胞はここにいる」


 クソッ。

 このままじゃ俺は……俺たちは……

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