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青春の暴走

 手塚に連れられてやってきたのは、何故か武器庫だった。


「なんだ? 新しい武器でも選ぶのか?」


 河上から逃がしてくれたのだ、それくらいは喜んで付き合おう。

 と、思ったのだが。

 武器庫に先頭切って入った手塚は、こちらに背を向けたまま俺に返答する。


「いや……その、人が来ないからってだけで、他に良さそうな場所あたし知らねーし」


 なるほど、秘密の話か。

 確かに、この城、内緒話するには人が居過ぎなんだよな。

 地下はともかく一階は兵士が見回りを行っているので廊下は常に人が行きかう。


 部屋の中でと思っても、何処が空き部屋なのかわからない。

 下手な部屋に入って話しているとメイドの部屋で、部屋主が戻ってきたりとかありそうだ。


「それで、何?」


「えっと……ああ、と。その、お前ってさ、マッキーのこと好きだったり、すんのか?」


 もしかして、さっき大井手に会ってたのを変に勘ぐられたか。

 ちょっともじもじとした様子で、手塚が聞いて来た。

 あれか、俺みたいな奴が大井手に手を出すんじゃねェとか威す気か?


「笑顔は可愛いよな。でも、安心しろって、手塚から彼女奪って殴られるとかしたくねーし。恋愛に発展するとかはないんじゃねーかな」


 魔法少女と怪人は幾らなんでもないだろう。


「そ、そういうンじゃなくて……えーっと、あ、そ、そうだ」


 ぽんと手を叩き、こちらを振り向く。


「あ、あたしらだけになっちまったよな」


 いきなり話題が変わった。


「ん?」


 一瞬何の事か分からずに首を捻る。


「ほ、ほら、マッキーも魔法少女だろ。ネリウは魔法使い。河上は変身ヒーロー。生身の生徒はあたしらだけ……って、あんたも、なんかあるか」


 あれ? 手塚も気付いてる?


「そりゃ、あの化け物戦闘員相手に無傷で何度も勝つんだ、ただの人間な訳ないよな。あたしなんて殺されるって思っただけで腰抜かすし……」


 少し、寂しそうに笑う。


「あたし一人ただの人でさ、他の奴は皆凄いヤツらじゃん。なんか……置いてかれた感じがするっつーか……」


 確かに、自分が何も出来ないのに他のヤツが凄いって気づいてしまったら、居たたまれないだろう。

 俺だって彼女の立場ならそう思ってたかもしれない。


 河上の事も大井手の事も、ネリウの事だって、素直に受け入れられたかわからないし、戦闘員や魔物との戦いだって震えて殺されていたかもしれない。

 でも、俺はすでに改造人間なのだ。

 仮定の話をしたところで同情にすらならない。


「あたしも、何かあればよかった。これじゃただの口悪いだけの役立たずじゃん……」


 人と違うってのは憧れる程いいものじゃないのだが。

 改造人間である俺は常に正義の味方に殺される心配が付き纏うし、任務失敗は自爆が待っている。


 正義の味方や魔法少女だって、悪と戦う運命が待っている。

 ネリウだって意に添わない結婚が決まってたらしいし、パラステアとの戦争が始まるかどうかの瀬戸際らしいし。

 普通であることは十分に特権だと思うのは俺だけだろうか?

 

「いいじゃん、普通の学生で」


「な、何でだよッ」


「だってさ、何もない、が普通なんだぜ? 良く考えてみろよ、なんで大井手がお前に正体を隠してたか。普通の生活壊したくなかったってことは、普通の人間として生活したかった。でも魔法少女になってしまったからできなかったってことなんじゃないか?」


「そりゃ、そうかもしンねーけど」


「たとえ、力を手に入れても、そいつが望んだものかどうかは分かんねぇだろ。何の力も無い方が本当は一番いいんだよ」


「そうかな? そう……なのか、な?」


 力なく近づいてくる手塚。倒れるように持たれてくる。

 肩に手をやって受け止めるが、手塚はそのまま重力に身を任せる。

 胸に顔をうずめられると、なんかすごく恥ずかしくなってくる。


「でも、やっぱさ、力があれば、皆を助けられるだろ、あんたみたいに」


「俺、みたいに?」


「あたし、助けてくれただろ。殆ど話したこともねーのに。こんな言葉づかいだから不良と勘違いされたりしてるのに、そんなこと気にせずによ」


「そりゃ、まぁ……女の子助けるのは、当たり前だろ。俺だって男だし」


 あ、あれ? 俺、何か今、恥かしい台詞を吐いている気が……

 手塚の髪が鼻先にかすめ、不思議な甘い匂いを残す。

 それが鼻に入ってくると、なんだか恥ずかしい台詞が口からどんどん吐き出されるというか、何だこれ? 何だこれ!?


「なんだよテメー、あたしを惚れさせたいのか」


「いや、じゃなくて、可愛い女の子が危険な目に合うの黙って見てられないんだよ」


 待ってくれ、今の言葉は俺の言葉じゃない。

 この雰囲気が、俺の口を勝手に操って……


「か、可愛いって、あたし……が?」


 ま、待って、言わせるな。

 そんなこと聞くな。

 俺の口がヤバい事を口走るッ!


「可愛いよ、手塚は」


 手塚の耳が真っ赤に染まるのが見える。

 そして、俺の心臓が速度を増していく。

 なんか、初めてだぞこんな感情。


 どうしよう。これ、どうしたらいい?

 手塚が顔を見上げる。

 揺れる瞳が俺を見つめる。

 あれ、本当に可愛い。

 手塚って本当にこんな可愛かったっけ?


「あ、あのさ武藤、その……」


 ゴクリと喉が鳴る。

 思った以上に大きな音で驚いた。

 俺の顔を見つめていた手塚は、言葉を途中で止めたまま、俺を見続ける。


 なんか、凄く可愛い。

 勝気な瞳が濡れていて、小さな口が半開きのまま何かを言いたそうに口ごもる。


 破裂しそうなほど脈打つ鼓動に、手塚の鼓動が重なってきた気さえする。

 押し付けられた胸が……ヤバい。何も考えられなくなる。

 手塚の瞳が閉じられる。

 そして、俺の顔がだんだんと近づいて……


 何コレ、何コレっ!?

 身体が勝手に……いや、でも、いいんだよな?

 手塚のヤツと、このままキスしちゃっても、問題ないよな。

 目閉じてるし、唇突き出して来てるような気がするし……


 いいのか? 本当にいいのか? 後悔するかもしれないぞ手塚。

 急げ、逃げろ。俺の野獣が放たれるっ。

 ええい、行くぞ。行っちまうぞ。このまま最後まで行……


「ここ、誰かいる?」


「ふぉあっ!?」


 突然聞こえた声に、俺と手塚は即座に離れた。


「あら、薬藻? あ、手塚さんもいたの?」


 ネリウが無遠慮に入ってきた。


「あ、ね、ネリウ……どうしたンだ」


「件の二人が到着したから、皆を探していたの。作戦会議室に集合」


 あー、危なかった。

 後少し遅かったらまず間違いなくキスしてた。

 むしろそのまま襲ってた。


 手塚は普通の女の子だ。俺が普通の生活を送りたいからといって、化け物の彼女にするわけにはいかない、いたいけな少女。

 口付けしなくてよかった。


 どうせ正体がばれたら恐れられる存在だ。

 それに、いつかは追い詰められて、正義の味方に殺される……

 そんな男と結ばれるべきじゃない。

 大井手さんにも申し訳たたないじゃないか。


「ふふ。お邪魔だった?」


「なっ、ンなわけねーだろっ」


 ネリウの軽口に赤面しながら、手塚は武器庫を飛び出し作戦会議室へと走って行ってしまった。


「……残念だった?」


 ネリウは手塚を見送って、視線はそのままに声だけをこちらに向ける。


「かもな。でも、良いタイミングだ」


「……あの姿、見せにくくなったわね」


 全てを見透かしたように言うネリウ。

 おそらく、もっと前から俺たちの事覗き見てやがったな。

 絶妙のタイミングで声かけやがったんだちくしょう。


「構うか。どうせ反応は決まってるんだ」


「それもそうね。ねぇ……」


 納得しながら、ネリウが視線を向けてくる。

 その顔は優しさと切なさが同時に存在していた。


「もし、苦痛なら、あなただけここに残るのも、ありよ」


「はは、選択肢の一つにしとく」


 軽口叩いてネリウの傍へ。

 本音を言えばぜひともそうしてほしかった。

 でも、できるなら、俺は自分のいた世界で青春を謳歌したい。

 たとえ、正義の味方や他の秘密結社に襲われるとしても。


「キス、してあげようか?」


「アホか」


 ネリウがニタリと笑って言って来たのでデコピンをお返ししておいた。


「そう言や、ネリウは俺のアレ見ても気にせず接してくるよな」


「やだもぅ、アレを見てもなんて……それはもう醜いほど大きくて、凄かった」


 なぜか両手を頬に当て腰をくねらせるネリウ。


「何の話?」


「やだ、もぅ、あんなに激しかった・ク・セ・に♪」


「アホか」


 こいつはどんなキャラ付けなのか、時々わからなくなる。


「……それでも、期待してるわ薬藻」


 だから、急に真面目に戻るなよ。反応に困るから。

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[一言] 自覚なしタイプか…サキュバスあたりかな?|ूᐕ)
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