正義の味方が戦う理由
ネリウに騙されて婚約されたことをなんとか証明できた俺は、細い綱渡りを無事に終えられた嬉しさと疲労感から、瞼が重くて仕方がなかった。
俺がただの人ではないかどうかの議論はうやむやになり、さらに落ち着いた後は作戦会議。
パラステアへの対応と蛇男に関してだが、ある意味戦力が増えたので多少は楽になるようだ。
大井手は重力魔法を扱う魔法少女らしい。
重力で相手の動きを止め、ダムドという衝撃波を放つ魔法でトドメを刺すのだとか。
とりあえずは戦闘員と普通に戦える力があるとわかっただけでも凄いと思う。
間違っても、敵対はしたくない相手だ。
ダムド強力だし、ボーガンと併用すれば俺の身体に風穴が空きかねない。
問題といえば、一般人の手塚や、これから来るクラスメイトを巻き込むかどうかだが……さて、ネリウはどうするんだろうか?
件の二人や他のクラスメイトがここに来るのはまだしばらくかかるらしい。
自由行動になったので城を見回っていると、テラスに佇む大井手を見かけた。
見慣れないロッドを振りまわして所在無げに立っている。
「何してんだ大井手?」
「あ、薬藻君?」
俺に気付いた大井手は、顔を上げるとともに、手にしていたロッドを慌てて隠す。
「もう、魔法少女っつーのはバレてんだろ。隠す必要ないんじゃないか?」
「だ、だって恥ずかしいし」
お前、そればっかだな……
「それ、お前の武器?」
「あ、うん。グラビィロッドっていうらしいよ」
恥ずかしそうにロッドを前に出す大井手、近づいて見てみると、ピンク色の柄に先端の六芒星……あ、いや、ソレっぽいけど太陽をかたどったらしい突起物が付いたロッド。
先端の付根には羽がついていた。しかも時々ピクリと動く。
「な、なんかすごく可愛らしいな」
「小学生の女の子とかが持ってると可愛らしいけどね。あはは。私にはちょっと、似合わないよね?」
「そうか?」
「そうだよ。私なんてそばかす塗れだし、可愛くないし、しーちゃんみたいにちっちゃくないし、胸もないし、中途半端だし、恥かしいし」
な、なんかすごく自分を卑下してるな。
見ているこっちが気が滅入ってくる。
「あ、でもね、私ね、今、凄く嬉しいの」
「嬉しい?」
「良く分からない状況になったけど、私にはしーちゃんを守れる力があるから。皆も、守れるから。絶対に、全員無事に帰ろうね」
「ああ。そうだな。パラステアの奴らも全員、元の日常に戻ろうな」
「うん」
微笑み浮かべる大井手。
その笑顔は、なぜだろう、とても可愛らしく見えた。
ただ、大井手は気付いていなかった。
彼女の背後に俺たちに駆け寄ろうとして何故か隠れる手塚の存在を……何してんだあいつ?
あまり一緒にいると手塚が出てこられなそうだったので、そうそうに大井手と別れて自室へ戻る。
そして、自室に戻ってから気付いた。
あまり逢いたくないヤツがそこにいる事を。
河上は暇そうにベットに寝転がっていた。
俺が部屋に戻ってくると、待ってましたと起き上がる。
「よぉ、戻ったか武藤」
「河上?」
「答えてもらおうか、質問の答えを」
「質問?」
疑問に思って、すぐに気付いた。
こいつは俺が探され者の地獄の細胞かヒーローか、それを問い詰めようとしていたのだった。戦闘員や大井手関連でうやむやにしたつもりだったが、普通に覚えていやがった。
しかも、よくよく思えばこいつとは同室だ、いやでも顔を合わせるので逃げ切るのは無謀。
どうにか回避する方法を考えないと……
「そ、そういえば河上、お前の戦隊って五人組だろ? 他にどういうヤツがいるんだ?」
「他に? えーっと、青色はジャスティスガンナーだろ? 黄色がスピアー、緑のアーチャー、黒のバッシャー」
ふーん……ん? バッシャー? バッシャーって何?
銃と槍と弓は分かるよ、バッシャーって何? 斧か? 鎚か? それとも他の何かか?
「んで俺が赤のセイバーな。新興勢力のパステルクラッシャーとかいう秘密結社からこの地域を守るために結成されたんだ」
パステルクラッシャー? 聞いた事無い秘密結社だな。
つかバッシャーってなんだよ? 物凄く気になるんですけどっ。
「絶対に許さねェあいつら、俺の姉さんに……」
「ま、まさか殺されたのか!?」
「え? いや、パンツめくりされたんだ」
理由しょぼっ。それ、本当に秘密結社か?
ウチの組織の方が余程りっぱな活動してるぞ。
首領や本部なくなったけど今でも表の会社は普通に営業してるし。
「ガンナーは弟の仇、スピアーとアーチャーは正義感からで、バッシャーは息子が組織の一員で彼を助け出すためで。皆、いろんな理由で集まって来たんだ……まぁ、ガンナー以外はアルバイトだけど」
やっぱり、バッシャーが一番気になる。しかも子持ちって、仕事はどうしてるんだろうか? ああ、正義の味方のアルバイトがそれか……金出るのか?
「それで、武藤。お前は何者だ?」
会話、振り出しに戻る。
「もう、後回しにすんなよ」
引き延ばすのは無理か。
「えーっと、ほら。世を忍ぶ系のヒーローで……」
「この非常時だ、大井手さんだって魔法少女だってバラしたぞ。正体見せて見ろ」
…………
「実はただの幸運が重なっただけのラッキーボーイだったり」
「そういえば、お前風呂覗きに行った時、俺みたいに簀巻きにされなかったよな、まさか幸運が働いて逃げおおせたとでも? あの状況で?」
「あ、あはは……」
「で、どうやって助かったんだ? その奇跡的な脱出劇を御高説してくれよ」
逃げ切れそうにない。
誰か、助けて……
「武藤、ちょっといいか?」
本当に俺はラッキーボーイになったのだろうか?
タイミング良く手塚が部屋の外から呼びかけてきた。
「わ、悪いな河上、ちょっと行ってくる」
「あ、おいっ」
慌てて引き留めようと立ち上がる河上。
しかしベットからドア近くの俺に手を伸ばすには距離がありすぎた。
ありがとう手塚。今のうちに対策を考えねばっ。
俺は嬉々として部屋から飛び出し、手塚に付いて行くことにした。
結局、バッシャーが何者なのかは謎のままだった。




