シフト・異世界
「もう一度言う。インセクトワールド社の生き残り、【地獄の細胞】がいるはずだ。さっさと名乗れ。そして我がアンデッドスネイクに来るのだ。ともに正義の機関どもを破壊するのだ」
拳を硬く握り、叫ぶ蛇男。
なるほど、こいつらが来たのはその【地獄の細胞】と呼ばれる改造人間を探しているわけか。
……え? なんで改造人間ってわかるかって?
別のものじゃないかって?
そりゃわかるさ。だって……俺だから。
冷や汗が止まらない。
背中がどんどん濡れていくのが手に取るように分かる。
やばい。やばいよ。なんで居場所がバレた?
インセクトワールドの首領が行方不明となり、本社が正義の味方によって破壊されて数週間。
体内爆弾こそ残っているものの、洗脳が解け、ようやく日常に戻る事ができるようになったのだ。なのに……
なんだって他の秘密結社が来るんだ?
どうする? 素直にでていったとして俺の素姓を知ったクラスメイトは絶対に助からない。
かといってこのまま留まれば一人づつ……
困った。非常に困っ……?
ふと、隣を見れば、山田さんが何やらぶつぶつと小声で何かを呟いている。
机の下では両手をしきりに動かしている。
恐怖のあまり壊れたか?
「さて、そろそろ最初の一分か」
!? もう一分たったのか?
このままじゃ無関係のクラスメイトが……
思わず立ち上がろうとした瞬間だった。
隣の山田さんが右手を上げる。
「ほう、貴様がインセクトワールド社の……」
「シフト・セットッ」
蛇男が歓喜の声を発しかけた瞬間だった。
山田さんが言葉を被せる。
山田さんの掌が光を発し、それが俺ばかりか教室中へと拡散していく。
「境界・クラリシア、座標Ⅹ5273座標Y8229。シフトチェンジ」
「貴様、何を……」
光が全てを包み込む。そのうち、周囲の音すら消え去った。




