天水ヘ向カエ
北門の残骸を踏み越え、巨大獣が数十数百と王国内へと侵入する。
それだけではない。南側からも破砕音が響き始めた。
よく見れば上空から飛行部隊だろう、防衛戦を突破した者たちが上空から王城など主要部へと舞い降りている。
まさに王国の終わりを見せられているようだった。
破砕されていく町並み、城が崩れ行く姿は、王国兵にとっては見たくもなかった絶望だろう。
それが自分たちの防衛戦を突破してしまった魔物たちによるものなら、どれほど悔しい出来事か。
遠目から見ると、戦場から離れた場所で膝をついて見上げている王国兵が散見される。
さらに北や南の魔物兵もゾクゾク王城へと侵入し始めた。
まさか南が敗北したのか? と一瞬驚く俺だったが、不愉快極まりない魔王の高笑いに眉をぴくりとさせるだけでポーカーフェイスに努める。
大丈夫だ。武藤たちが死ぬはずはあるまい。
おそらく、こうなった以上出来るだけ多くの敵を王国に誘い入れているのだろう。
日本の作戦【天水ヘ向カエ】を行うために。
この作戦、由来は三国志という中国歴史書の姜維伯約という人物の話から名づけられた作戦だ。
蜀と敵対していた時、天水を護る軍に所属していた彼は、天水城で諸葛孔明を迎え撃つため、ある作戦を行った。
結果は即座に看破され発動の機会を失うのだが、その作戦こそがこの【天水ヘ向カエ】である。
またの名を【空城の計】という。
この作戦はわざと護るべき場所を空にして、敵が襲撃して来て一箇所に集まった所を、一網打尽にしてしまう作戦だ。
ただ、魔王軍の場合は伏兵を使ったとしても勝てるかは分からないので、日本は国王にこう告げている。
「もしもの場合、国は諦めてくれ」
高笑いの魔王の横で俺は今か今かとその瞬間を待つ。
この苛つく魔王が驚愕する姿を間近で見られるのだ、それだけでも死の目前に居る俺にとっての楽しみになる。
やがて、殆どの巨大獣が国を蹂躙しだした時だった。
突如、音が消えた。
次いで爆発。
巨大獣たちの立つ大地が膨れ上がるように持ちあがり燃え盛る光が溢れだす。
一瞬の出来事に、巨大獣たちは逃げる事もできず破滅の光に包み込まれていく。
目の前にあったフルテガント王国が、盛大な自爆を行った瞬間だった。
魔王の笑いを掻き消し、己が頭上を闊歩する巨大獣共を軒並み吹き飛ばし、国が自らその姿を廃墟へと変える。
爆風が遅れて届く。
魔王のマントがはためき隣の女に何度も当るが、二人ともソレが気にならない程に大きな口を開けて何もなくなった廃墟を眺めていた。
「な、何が……?」
「俺らの軍師の作戦【天水ヘ向カエ】の発動だ。ようするに、王国が蹂躙されるくらいならそこを罠として一斉爆殺させてしまえということだ」
笑いたい気持ちを何とか抑え、俺は魔王に言ってやる。
「き、貴様らは……国を捨てると言うのか!?」
「ふっ。国や町が破壊されようが中身である人間が生存できればまた造れる。だが、逆は無い。たとえ国を護ろうが俺らが全滅してしまっては廃墟と変わらんからな。それなら人間を優先して何が悪い? ああ、安心しろ。避難民はすでに遠く離れた初代魔王の城に避難している。いやぁ、国民の中にムーブが使える奴がいてくれてよかった。フフ……おっと失礼。我慢していたのだが笑いが漏れてしまった」
「なん……だと!?」
「ククっ。ああ、ダメだ。腹の底から笑えるぞ魔王。貴様等は誰もいない廃城を攻め、数万の被害を叩きだしているのだからな。これほど間抜けな戦争は初めて見たよ。ふふ、はははははっ」
俺は堪え切れずに笑ってしまう。
だが、魔王は怒りよりも自分の失態に愕然とする思いが大きく、俺の言葉を聞いて椅子からずり落ち、「……嘘だ……」と小さく呟いていた。
さて、そろそろ俺も避難しておかないと、逆上した魔王に殺されかねないな。
一頻り笑った俺は、魔王軍の意識が未だ誰も居なくなった廃墟に向いている隙にそろりそろりと退散する。
どうやら誰も気付かないようだ。俺はまんまと逃げおおせる事が出来たのだった。
魔王が俺の気配がないのに気付き、俺を探し始めた時には、既に医療部隊がいる場所へと辿り着き、俺は撤退の指示を出していた。
もうすぐ、日本はあの作戦を発動させるだろう。
その時医療部隊は意味を失くす。
そのため、安全な結界が張られた妖精郷に避難する指示を受けているのだ。
俺が帰るとすでに撤退準備は済んでいるらしく、負傷兵たちも移動しながら治療を受けていた。
「全員妖精たちに続け。妖精郷は彼らに導いて貰わなければ辿りつけんぞ。治療の済んだ者も一緒に来い。最後の作戦時の貴重な戦力だ」
妖精族は先導係を請け負い、一時治療から抜ける。その穴を埋めるべく、俺やエルフが治療をカバーしているのだが、やはり負傷兵の数が多い、移動力も鈍ってしまう。
それでも、魔王がこちらに追ってくる気配は感じられない。
さぁ魔王、貴様の最後、俺は遠くから高みの見物をさせて貰うぞ。
人物紹介(仮)
赤城 哲也 (あかぎ てつや)
闇医者
部隊構成(仮)
魔王軍
第一部隊 機動部隊(魔獣のみの構成)約2万 壊滅
第二部隊 騎馬部隊(魔獣に騎乗した魔族)約2万 壊滅
第三部隊 歩兵部隊(魔族のみの構成)約4万 残り約6百
第六部隊 巨人部隊 壊滅
第八部隊 南方奇襲部隊 約2万5千 残り約4百
第十一部隊 飛行部隊 約2万5千 約5千
第九部隊 西方奇襲部隊 約2万5千 竜巻により壊滅
第十部隊 東方奇襲部隊 約2万5千 残り500体
第四部隊 重歩兵部隊(高ランク魔族のみ)約1万 残り27体
第五部隊 巨大獣部隊(攻城用・魔獣魔族混合) 200体
第七部隊 精鋭兵・魔王 約百名
第十二部隊 神巨人 2体
フルテガント王国軍
第一部隊(王国軍冒険者人猫族混合) 約4千名
第二部隊(勇者王国近衛兵暗部精鋭兵等)約6百名
魔法部隊(王国軍冒険者エルフ族混合) 約5百名
負傷者 約3千名
死者 約4千名
完全死 1328名
医療部隊(王国軍冒険者妖精族混合) 約5百名
南方防衛部隊(魔法・医療部隊混合) 約2百名
遊撃部隊25名
竜部隊(赤龍王と黒竜は含まず)13名 残り12名
伏兵部隊・西 100名
伏兵部隊・東 1280名 + 4名
初代魔王城避難組 約300名
行方不明 1名
気絶 1名
魔王軍戦経過報告(仮)
・大井手真希巴、ヌェルティス、増渕菜七による広範囲魔法での先制攻撃。
・三人の退却後、魔王軍機動部隊(獣部隊)を罠に嵌める。
・魔法部隊による追い打ち。
・機動部隊壊滅。
・龍華出陣。敵軍中央(重歩兵部隊)にて無双開始。
・機動部隊の後詰、騎馬部隊と第一部隊が激突。
・騎馬とさらに後詰の歩兵部隊が合流。
・綾嶺の自業自得な危機で超幸運効果発動により大井手が助っ人に入る。
・重圧魔法が無くなり騎馬部隊が本格的な行動を開始。
・大井手が持ち場に戻り魔法再開。
・騎馬部隊と歩兵部隊の一部が左右の森へと侵入。遊撃部隊が迎撃。
・巨人部隊最前線に出現。
・巨人部隊一つ目兄貴たちによる一斉射。
・増渕により一斉射の防衛成功。体力が尽き増渕死亡(仮死)。
・巨人族対巨大宇宙人&竜族
・南方防衛戦
・西東より新たな奇襲部隊出現
・伏兵出現
・西方防衛戦
・東方防衛戦
・作戦名【トラ・トラ・トラ】発動
・竜族撤退。宇宙人孤軍奮闘
・飛行型奇襲部隊南より襲来
・ネリウの奇襲魔法により飛行部隊に大打撃
・龍華奇襲失敗。魔王、スルト・シンモラ召喚
・北門崩壊
・魔王軍最終防衛ライン突破。フルテガント王国を蹂躙
・『天水ヘ向カエ』発動
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