魔法使いの戦い・前編
クラリシアの王女として、私は人生のほとんどを城の中だけで過ごしてきた。
本当は、世界を冒険するとか、友達とどうでもいい話で盛り上がるとか、いろいろとしてみたいと思ったけど、それも十代に入ってからだ。
メイドや城の中で噂される兵士たちの会話から知識を吸収し、興味本位で図書館で調べてようやく思い至ったに過ぎず、それがなければ今もずっと城の中で過ごし、パラステアの王子と政略結婚していたことだろう。結局戦争が起これば真っ先に殺されていただろう未来だ、惜しくは無い。
何も知らない王女ならばそれでも幸せだったのかもしれない。
でも、私は知ってしまった。箱庭だけでは満足できなくなってしまった。
だから、書物を読みあさり、異世界への召喚術を覚え、母に無理を言って異世界の学園に通わせて貰ったのである。
初めての学校生活。憧れだった私はさすがに入学初日から馴れ馴れしく話しかけるのはマズいだろうと思ったのだけど、そうやって遠慮していった結果、クラスの中でも大人しい部類の少女という位置づけになってしまたった。
こうなると気軽に友達を作るのも難しい。
彼らの世界では喪女と呼ばれるらしい。私にそのつもりはないのだけど。
今さらフレンドリーに話しかけるには時期が過ぎ過ぎているし、もともと私は話し好きなほうじゃない。
むしろ話しを聞く方が得意で、口を開けばなぜか相手を攻撃するというか、毒舌になるらしい。
薬藻曰く、ドS系少女なんだと。失礼にも程がある。
そんな私は魔法使い。水系魔法を扱うのだけど、レインボー・タートルという指輪を填めてからは消費魔力が半分になり、高威力の魔法も扱えるようになった。
そしてこの世界でレベルが上がったおかげでウォーターシールと楕円の滝という魔法が使えるようになった。
ウォーターシールは要するに水の盾だ。
そして楕円の滝は相手の足元に楕円が描かれ、上空へと水が噴き出し滝のように降り注ぐ魔法。
覚えたのはいいけど、ウォル・フェリアスの方が威力が高いしどっちも単体魔法なので楕円の滝はまず使わないと思う。
できるなら、全体魔法を覚えたかった。
何せ、今回は軍団戦。
薬藻も近くで戦っているけど、接点は無いので私の活躍を見せつけてやることもできないし、私のいる魔法部隊では沢山の魔術が唱えられては敵に向って飛んで行く。
できるなら、私も範囲魔法で一気に倒して役に立ちたいところだけれど、私が使える魔法は全て単体専用。
悔しいことにあまり役には立てていない。
今までなら、横からちょいちょいとちょっかい出して漁夫の利を貰って私は凄いんだと胸を張って言えたのだけど、こういう戦いでは自分の力不足を感じてしまう。
ゴブリンの一体が王国に侵入しようとしていたのも気付けたのだけど、丁度魔法を唱え終えた時だったので何も出来ずに見逃してしまったし、自分の世界でならちゃんとクラスメイト達に遅れは取らなかったものの、こちらではモブの一人的な役割に嵌っている。
こちらに来たクラスメイトが意外と有能過ぎたせいだ。
私の見せ場などどこにもなくなってしまった。
せっかく唾付けておいた薬藻もそんなクラスメイトの一人が横から掠め取ろうとしているし、なんだろう。このやり場のない怒りというかやるせなさというか、この泥棒猫がッ。
私だって、できるなら増渕みたいな巨大魔法を飛ばしたい。
でも、私にはそんな魔法などない。
ただの王女という肩書だけの魔法使いに過ぎない。
この魔法部隊で戦う人たちを見れば、自分の力というものを嫌でも確認させられる。
大勢の中の一人になりながら、新たにやってきた小出が巨大な狐の化け物に変化して好き勝手しだしたのを見ても、巨人がやってくるのを見ても、私が役に立てることは殆ど無い。
ただただ魔法を撃つだけの砲台で、しかも単発専用だ。
それだけでも辛いのに、絶望は空からやってきた。
翼をはためかせ、空を覆い尽くす程の悪夢がやってくる。
鳥型の魔物、羽の生えた魔族。虫に似た翅を持つ者、その数は数えられるものではなかった。
空を覆い尽くす程の黒い無数の生物が現れる。
当然、私の魔法でどうにかなる相手じゃない。
……どうしたらいいのか。いや、この際他人に頼るしかないのだけれど。
ただし、丸投げにはしたくない。だから、私が頼るべき相手は……
「桃栗さん、聞こえる?」
『はいはい、皆のアイドルマロンちゃんですよ~』
「そう言えばなんだけど、薬藻にはフェイトブレイカ―与えたのに、私にはバグっていたことに対する謝罪も何もないのだけれど……」
『え? 今さら!?』
「ふふ。そうねぇ。アレ、どうにかできる魔法とか、面白そうね。あなたが本当に女神というのなら私に新しい能力付けるのも問題はないでしょ? 自称女神様なら……ねぇ?」
私は遥か遠くから徐々に近づく飛行部隊を指さし言ってみる。
一応、こいつは女神らしいし、上手くすれば何かしらのスキルを手に入れられるかもしれない。
例えこの世界限定だったとしても、私の自己満足でそれなりな活躍が出来たなら十分だ。
自分も皆と同じように活躍したいんだ。友人だと胸を張って言える自分でありたい。
『な、なるほど……女神ズギフトをお望みですか。うぅむ。確かにバグッたのは悪いとは思うけど異世界同士の互換性がなかったせいであってあたしのせいでは……』
「貰えるの? 貰えないの? というか、理解してる? この状況、今のままじゃ王国滅亡の確率高いわよ?」
『……くぅ、軍法会議が確定か。致命的に終わるか、ギフト云々で軽犯罪か……ええい、もう、どうにでもなれチクショーめ!』
突然天から光の柱が落ちて来て、私を包み込む。
視界の端に新スキル【大気大爆発】を修得した。とメッセージが流れた。
どんなものかは知らないけれど、私に新しいスキルが追加されたらしい。
さっそく確認しよう。
人物紹介(仮)
山田 八鹿
水魔法使い・クラリシア王女
桃栗マロン(ももくりまろん)
高次元生命体・異世界制作者・この世界の女神
部隊構成(仮)
魔王軍
第一部隊 機動部隊(魔獣のみの構成)約2万 壊滅
第二部隊 騎馬部隊(魔獣に騎乗した魔族)約2万 壊滅
第三部隊 歩兵部隊(魔族のみの構成)約4万 残り約3千
第六部隊 巨人部隊 壊滅
第八部隊 南方奇襲部隊 約2万5千 残り約6千
第十一部隊 飛行部隊 約2万5千
第九部隊 西方奇襲部隊 約2万5千 竜巻により壊滅
第十部隊 東方奇襲部隊 約2万5千 残り約千
第四部隊 重歩兵部隊(高ランク魔族のみ)約1万 残り約97体
第五部隊 巨大獣部隊(攻城用・魔獣魔族混合) 約2千
第七部隊 精鋭兵・魔王 約百名
フルテガント王国軍
第一部隊(王国軍冒険者人猫族混合) 約4千名
第二部隊(勇者王国近衛兵暗部精鋭兵等)約9百名
魔法部隊(王国軍冒険者エルフ族混合) 約7百名
負傷者 約3千名
死者 約4千名
完全死 685名
医療部隊(王国軍冒険者妖精族混合) 約5百名
南方防衛部隊(魔法・医療部隊混合) 約5百名
遊撃部隊25名
竜部隊(赤龍王と黒竜は含まず)13名
伏兵部隊・西 100名
伏兵部隊・東 1280名 + 4名
行方不明 1名
魔王軍戦経過報告(仮)
・大井手真希巴、ヌェルティス、増渕菜七による広範囲魔法での先制攻撃。
・三人の退却後、魔王軍機動部隊(獣部隊)を罠に嵌める。
・魔法部隊による追い打ち。
・機動部隊壊滅。
・龍華出陣。敵軍中央(重歩兵部隊)にて無双開始。
・機動部隊の後詰、騎馬部隊と第一部隊が激突。
・騎馬とさらに後詰の歩兵部隊が合流。
・綾嶺の自業自得な危機で超幸運効果発動により大井手が助っ人に入る。
・重圧魔法が無くなり騎馬部隊が本格的な行動を開始。
・大井手が持ち場に戻り魔法再開。
・騎馬部隊と歩兵部隊の一部が左右の森へと侵入。遊撃部隊が迎撃。
・巨人部隊最前線に出現。
・巨人部隊一つ目兄貴たちによる一斉射。
・増渕により一斉射の防衛成功。体力が尽き増渕死亡(仮死)。
・巨人族対巨大宇宙人&竜族
・南方防衛戦
・西東より新たな奇襲部隊出現
・伏兵出現
・西方防衛戦
・東方防衛戦
・作戦名【トラ・トラ・トラ】発動
・竜族撤退。宇宙人孤軍奮闘
・飛行型奇襲部隊南より襲来
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