西方防衛戦3
俺は後ろにコカトリスがいると思いながらも期待に胸を膨らませて振り向いていた。
だって死ねるんだぜ?
もう不幸じゃなくていいんだぜ?
死ぬ直前まで痛めつけられて結局死ねない生き地獄を何度も味わったんだ。
あの美人王女に拉致監禁されて二日程飲まず食わずで調教……といってもエロいことは何もなかったけど、まるで犬への躾のごとく手酷い接待を受けた不幸を思えば。
それに男好きのド変態野郎に襲われかける不幸を思えば……
石化して意志を閉ざすことのどれ程幸福な事か。
俺は喜び勇んで振り向いた。
そしてコカトリスと目が合うその瞬間。
「コーケコッコ――――ッ!!」
王国の方から時間を勘違いした雄鶏が大声で啼いた。
俺の目の前に来たコカトリスがいきなり血を吐いて死んだ。
……パードン?
思わず意味不明に英語になった思考。それから回復するのに10秒くらいかかった。
ああ、そうか、こいつはコカトリスじゃなくてバジリクスだったのか。
なんてことを冷静に考えている俺がいたりして、余りに唐突に、不幸にも死んだコカトリス……じゃなくバジリクスに思わず両手を合わせて南無~と言ってしまったりしていた。
照之は混乱している。
はは、自分で自分の状況を説明してしまうくらい混乱しとるわ。
何ソレ? 俺が石化するとこじゃねーの? 何即死しちゃってくれてんの?
ああ、あれか。俺に嘴触れさせて肩叩いたせいで不幸がやってきた訳か。
……って、お前はアホかと。バカかと。あれか、バカなの? 死ぬの? とか言ってほしいのか?
ああもう死んでるか。とか言ってほしいのか! 言わせねぇよクソッタレ!
ああクソ、不幸だ。普通に死ねると思ったのに……
目の前で即死とか、俺にどういう対応を求めてるんだ?
リアクションも取れねーよ! 不幸だよ!
にしても……こりゃあ絶望的だな。
見渡す限り魔物魔物魔物。これ、やっぱ1000体だけでこの数は捌ききれんだろ。
なんか地平線の彼方まで黒山になってる気がするし。あの辺り、巨人族もいるんじゃねーの?
無理だわ。これ、絶対王国滅亡だわ。諦めるべきだって。
なんて思っていると、俺は特大の不幸を呼びよせてしまったらしい。
突如、俺の目の前に風が巻き始めた。
旋風のように渦巻き始めた風は、即座に細長く、急激に成長し始める。
旋風風は竜巻にランクアップした! なんって……はは、笑えるだろ?
至近距離で……竜巻ですか?
まるで掃除機のように、周囲の何もかもを引っぱり始め、魔物を、大地を、そして俺を引き込みだす。
その力は徐々に、そして急激に強くなっていく。
やがて、力負けした俺の身体が宙に浮いた。
「うっそぉ~んっっっ!?」
天高く舞い上げられる俺、ついでに魔王軍の魔物たちがまるでピンポイントに狙われたように巻き上げられていく。
なんぞコレ、なんぞコレ? どんな不幸!?
王国側の魔物たちが唖然と見上げる中、俺と魔物たちが天高く舞い上がっていった。
そして、上空1万メートル以上吹上げられた俺たちは、まるでポイ捨てされるように、遠心力によって吹き飛ばされる。
おおう。まさかの激突死フラグですか?
ああ、まぁそれもアリか。
死ねるならどんな痛くとも、俺にとっちゃ幸福だ。
ああ、でも寒い。凄く寒いよ上空は! 一瞬鼻水出て凍ったよ!
鼻氷柱だよ鼻氷柱。寒過ぎてテンション上がるわ。
重力に引かれ、物凄い速度で落下する。
周囲を見回すと、魔物たちが青い顔をしてもがいていた。
あはは、魔物でも鼻氷柱できるのな。
しばらく落下すると、暖められた鼻氷柱が溶けた。
そんな絶望的な魔物たちと一緒に、俺は地面へと激突する。
……と、思ったのだが、何故か竜巻が俺の元へとやってきて再び巻き上げられる。
そして再び高度1万メートル付近からの落下……ならびに500メートル付近で吹上げ。
俺、無限ループしてるんですけど。何この状況?
すでに魔王軍の魔物たちは幸運にも転落死で全滅していた。
不幸な俺だけが死ぬこともできずに無限ループでメテオフォール。
落下で激突死もしなければ、無事着地して生還という幸運もない。
ただただ竜巻によって空中を浮遊するだけの人生、何コレ、不幸?
もはや不幸とか不幸じゃないとか……考えるのも億劫になってきたわ。
そして、俺は人知れず戦場から遠ざかる。
風の向くまま勝手気ままに空中旅行。
果たして、俺はどこまで行くのだろう? そして、ちゃんと死ねるんだろうか?
「さよなら、名も知らない王国よ」
すでに豆粒のように遠のいた王国に俺はただただ真っ白な心で呟いた。
そして俺は竜巻に運ばれる。
果たしてどこへ向うのか……それは、竜巻のみぞ知る。
人物紹介(仮)
三神 照之
超不幸・英雄の卵
部隊構成(仮)
魔王軍
第一部隊 機動部隊(魔獣のみの構成)約2万 壊滅
第二部隊 騎馬部隊(魔獣に騎乗した魔族)約2万 壊滅
第三部隊 歩兵部隊(魔族のみの構成)約4万 残り約6千
第六部隊 巨人部隊 約84体
第八部隊 南方奇襲部隊 約6千
第九部隊 西方奇襲部隊 約2万5千 竜巻により壊滅
第十部隊 東方奇襲部隊 約2万5千
第四部隊 重歩兵部隊(高ランク魔族のみ)約1万 残り約98体
第五部隊 巨大獣部隊(攻城用・魔獣魔族混合) 約2千6百体
第七部隊 精鋭兵・魔王 約百名
フルテガント王国軍
第一部隊(王国軍冒険者人猫族混合) 約5千名
第二部隊(勇者王国近衛兵暗部精鋭兵等)約9百名
魔法部隊(王国軍冒険者エルフ族混合) 約7百名
負傷者 約2千名
死者 約3千名
完全死 549名
医療部隊(王国軍冒険者妖精族混合) 約5百名
南方防衛部隊(魔法・医療部隊混合) 約5百名
遊撃部隊25名
竜部隊(赤龍王と黒竜は含まず)13名
伏兵部隊・西 970名
伏兵部隊・東 1001名
魔王軍戦経過報告(仮)
・大井手真希巴、ヌェルティス、増渕菜七による広範囲魔法での先制攻撃。
・三人の退却後、魔王軍機動部隊(獣部隊)を罠に嵌める。
・魔法部隊による追い打ち。
・機動部隊壊滅。
・龍華出陣。敵軍中央(重歩兵部隊)にて無双開始。
・機動部隊の後詰、騎馬部隊と第一部隊が激突。
・騎馬とさらに後詰の歩兵部隊が合流。
・綾嶺の自業自得な危機で超幸運効果発動により大井手が助っ人に入る。
・重圧魔法が無くなり騎馬部隊が本格的な行動を開始。
・大井手が持ち場に戻り魔法再開。
・騎馬部隊と歩兵部隊の一部が左右の森へと侵入。遊撃部隊が迎撃。
・巨人部隊最前線に出現。
・巨人部隊一つ目兄貴たちによる一斉射。
・増渕により一斉射の防衛成功。体力が尽き増渕死亡(仮死)。
・巨人族対巨大宇宙人&竜族
・南方防衛戦
・西東より新たな奇襲部隊出現
・伏兵出現
・西方防衛戦
↑いまココ
・東方防衛戦




