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正義の味方のメンタルケア

 探査魔法で戦闘員の反応が消えたのを知って、城門が開いた。

 俺が城内へと帰還すると、前門に佇む三つの影。

 なぜだろうか? ネリウ以外からゆらゆらと殺意のようなものが立ち上って見える気がするのは? 多分気のせいだとは思うのだけど。


 待っていたのは女性陣だ。河上の姿は見当たらない。

 あいつどこいったんだ?

 と思っていると、俺の姿を見つけた手塚が駆け寄ってくる。


「河上は?」

 やってきた手塚は俺の質問を無視して胸倉を掴みあげ、キスする気かと思うほど間近に接近してきた。

 しかし、その顔は憤怒に彩られている。


 突然の女性との接近なのに、全くドキドキしなかった。

 むしろ冷や汗が止まらない。

 不良にカツアゲされている気分ってこういうものなのだろうか。と、ついつい考えてしまう。それくらい、怖い。


「テメェはバカかッ。生身で一人残るとか、死んだと思っただろうがッ」


「え、いや……その……」


 余りの怒り具合に思考が追い付かず、なぜ怒っているのかとこっちが混乱してしまう。

 まさか心配されたとか?


「上手く倒せたみたいだから結果オーライじゃねェンだぞッ」


 どうすればいいのか戸惑っていると、遅れてきた大井手が手塚の肩に手を置く。


「落ち着いてしーちゃん」


「だってこいつ……」


「わかってる」


 落ち着いた声の大井手に諭され、手塚は俺の胸倉から手を離した。


「薬藻君。幾ら私達を守ろうとしたからって、一人で危険な事するなんてダメだよ。薬藻君がその、し、死んだりしたら、哀しむ人がいるんだから」


「あ、ああ……」


 遠慮がちにだが、自分の言いたいことが言えたのだろう。

 大井手は俺の返事を聞いて薄く微笑む。


「皆で一緒に、帰ろうね、絶対。だから、無茶しちゃダメだよ?」


 うぐっ。なんだこの心の隙間に針が突き立つような痛みは?

 あれか、良心の呵責というやつか?

 殺人、暗殺なんでもござれの悪役だったのに、俺にも良心なんてものがあったんだな。


「けれど、よく倒せたわ。さすがね薬藻。助かったわ」


 最後に、ネリウが追い付き、深々と頭を下げた。


「魔力切れって言ってたけど、大丈夫なのか?」


「寝れば回復するわ。連続で大きな魔法を唱えたからしばらく無理ってだけよ。明日の朝には充足してる」


「そっか」


 随分とまぁ便利な能力だな、魔法って。

 どんなに使っても次の日には回復するとか、筋肉痛並みに後引く辛さは全くないらしい。


「あと、河上君は、拗ねて不貞寝してる。戦闘員に負けたのが悔しかったみたい」


 メンタルケアお願い。と肩を叩いてネリウは城へと戻って行った。

 俺任せかよ。

 というツッコミは心の中だけでしておいた。


「まぁ、なんだ。よく倒せたな黒タイツ」


「ああ、運よく眉間に剣が刺さってな」


 謙遜しつつ、手塚と大井手と共に城内へと戻る。

 二人とも、俺の事を心配してくれていたらしく、なぜか凄く優しかった。




 部屋に戻ると、河上がベットの上に丸まっていた。

 シーツで全身を覆っている。

 なんともいえない物悲しさがあるな。

 こいつのメンタルケアすんの? 面倒そうなんだけど。


「河上、大丈夫か?」


「いや、俺の心の傷はもう、修復不可能だ」


 肩を揺らして泣きだした。


「女の子たちの前であんな恥を晒しちまうなんてぇっ」


「お前のダメージはそこか!?」


「あったりまえだっ。せっかくの初戦闘があんな結果とかマジやるせねェ」


 初めてだったのかよ。

 手塚が見たテレビはアレか、新人紹介とかそんな奴か? いや、むしろ別のヒーローだな、多分。

 赤いヒーロー違いだ。


「でも、ヒーローなのにあんな武器じゃやってけないだろ。戦闘員に手こずってちゃ怪人なんて相手にできないぞ?」


「仕方ねーだろ。ウチはジャスティスガンナーのワンマンだからな。俺なんか道端でスカウトされたアルバイトだぜ」


 そんなんでいいのか正義の味方……


「変身用のスマホ貰っただけで召集なんざ一回もかかってないんだ。変身したのもテレビに出た時くらいだし。こんな機会でもなけりゃまともに変身することなかったかもな」


 まぁ、いきなり怪人と戦うよりはマシだったかもしれない。

 スーツの耐久力や武器の壊れやすさがよくわかったし。

 というか、本当にテレビにはでてたのか。


「お前、変身してこっちの剣で戦った方がまだマシなんじゃないか?」


「……そうだな」


「今回の失敗を活かせよ、正義の味方」


 河上は答えない。けれど、肩の震えは止まっていた。


「正義の味方ってさ、ほら、やられるたびに強くなるのが王道だろ?」


「……そうだな。そうだよな? 俺だって、ガンナーみたいに怪人倒せるくらいになるよな?」


 被っていたシーツが拭い去られる。濡れた子犬のような顔で河上が俺に同意を求める。

 正直ウザい。

 なので適当に答えておく。


「ああ、その意気だ河上」


「だよな。そうだよな。見とけよ武藤。次こそは必ず活躍してやるからな」


 少しは、元気出たのだろうか?

 これなら大丈夫そうだと、ベットに潜り込む。

 疲れていたのだろうか、ベットに入るとすぐに眠気が襲ってきた。

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