南方防衛戦2
増渕の放った八つの光が敵軍に襲い掛かる。
さらに遅れてアグニによるブレス攻撃が魔物たちを舐め尽くす。
すでに戦場上空へとやってきたアグニは早々に敵軍を潰す事にしたらしい。
不規則に移動しながら敵陣へと落下する光の魔法。
魔物たちの悲鳴が上がる頃にはアグニのブレスがさらに絶叫を迸らせていた。
紅蓮の炎が怒涛の如く押し寄せ魔物たちを飲み込んでいく。
炎の揺らめきの中、無数の影が踊り狂う。
自分たちが奇襲を仕掛ける側だった彼らは、逆に奇襲を受けて浮足立っていた。
しかし仮にも二万の軍勢。
一部が瓦解しても他の魔族たちはむしろ怒り狂って俺達へと進軍速度を速める。
さらに空中へと飛び上がる羽の生えた蛇が数百。アグニへと向けて飛び上がる。
「飛行魔物がいるのか!?」
「アレは……ケツァルコアトル!?」
上空へと飛んで行く蛇を見上げて増渕が驚きの声を出す。
「ケツ割る……? なんだそれは?」
聞きとれなかったらしいヌェルがヘンな事を口走っていたが、増渕は気にせず返答を返す。
「ああ。この世界の空を飛ぶ蛇の一種だ。その瞳には石化の能力を持つと言われている。中級の魔物ではあるが、このような場所ではまず見かけることはない。生息域は別大陸の迷宮内部だ」
そんなものがここに来ていることに驚きを浮かべながらも、どこから来ようと今問題なのは倒す事だけだと増渕は締めくくる。
「私は奴らのフォローに回ろう。さすがに空中の魔物を捨て置く訳にはいかんしな」
「ああ。悪いが頼むよ。ヌェル。黒竜にもアグニ達のフォローに向わせてくれ」
「うむ。そういうわけだ黒竜よ」
『ふん。仕方ないな』
バサリと羽を動かし浮かび上がる黒竜。
風圧で転びそうになる俺だったが、なんとか倒れることなく踏ん張る。
黒竜はさらに羽ばたくと、『マリス・フェザー』と魔法を唱えて魔王軍へと向かって行く。
黒竜の周囲に羽の生えた暗黒色の光弾が八つ現れ、黒竜の動きに合わせて移動する。
あの魔法、増渕の八重閃光弾の闇バージョンといった魔法のようだ。
確か魔王も使えるんだったよな。
ということは、黒竜の動きを見ればどんな魔法か見る事が出来るのか。
あ、でも今は無理だな。こちらもそろそろ接敵だ。
上空は増渕たちに任せ、俺たちは約2万の奇襲部隊を相手取る。
余裕があれば黒竜の戦いを見ておきたいが、こちらも気を抜ける訳じゃない。
にしても、この数の魔物、一体どうやってここまできたんだ?
「ダーリン。もうすぐ接敵するぞ、前を見よ!」
ヌェルに言われて我に返る。
今は奇襲部隊がどこから来たかを調べる時じゃない。
全員で叩き潰す時だ。
「ウォル・フェリアス!」
接敵直前の俺たちの背後から、ネリウの魔法が飛んでくる。
単体用の魔法だが、貫通力は高いため、対集団戦において、密集地への攻撃はかなり高い効果を生む。
丸ノコのように圧縮された水の塊が高速回転で敵陣に衝突。
敵陣切り裂き一直線に駆け抜けていった。
遅れて魔法部隊からの魔法が降り注ぐ。
攻撃範囲は広いが俺達が接敵する魔族よりも後方を狙って放たれているため味方への被害はない。
魔物たちの唸り声に悲鳴が混じる。
時折爆音が響き魔物が宙を舞う。あるいは凍土のように凍った場所が爆発し氷のかけらなどが飛び交っている。
焦る魔物たちが武器を振り上げ俺達へと殺到して来た。
敵味方入り乱れての乱戦になれば魔法が来ないとでも思ったのかもしれない。
「ぬははは、こい下郎ども! ダーリンの前で儂がポカ等すると思うなよ!」
ヌェルが楽しそうに魔族たちへと突っ込んでいく。
あ、いや、あの一帯にいるのは魔獣だから魔物の方が適切か。
なんか河童みたいのも居たので魔族に入るのかもしれないが、全部ひっくるめれば魔物と言った方がしっくりくる。いや、まぁ細かいことだしどうでもいいか。
ヌェルは拳を河童に打ち込みながら魔物の群れへと飲み込まれるように姿を消していった。
笑い声が聞こえているので普通に戦えているようだ。
むしろあっちに加勢に行くと俺まで巻き添えにされそうなので少し離れておこうと思う。
オークに拳と共に毒を打ち込み俺も魔物の群れへと分け入っていく。
一度入ると周囲が魔物だらけになってしまって少しでも止まるとこちらが殺されかねない。
とにかく周囲の敵に対応しつつ、強化された身体能力で攻撃を回避し続ける。
余裕があれば仲間を見渡し、危険がないかを調べておく。
敵の攻撃を避けるついでに飛び上がり、目に見える範囲の味方を調べる。
カマプアアは一対一が得意な半面集団戦は苦手らしく苦戦気味だが、それを察したジェネラルモンキーがフォローしているので致命的な攻撃を受けることはなさそうだ。
エンペラースケルトンが縦横無尽に走り回り、その轍に死山血河を築きあげているのも見える。
アダンダラはアルケニーと組んで戦闘中。二人で戦っているので互いの隙をフォローしている。
そして、俺が着地したその横を、ジロムンが駆け抜けていく。ちょっとひやりとした。危うく俺まで股潜りされるとこだったし。
彼は敵の股を潜り抜けるだけで攻撃になるため、ただただ駆け抜けるだけにしているようだ。
とりあえず、仲間を殺すなよ。とだけ声を掛けておく。
にしても、多いなこいつら。
こんな大軍と戦うのは初めてだからか、かなり精神的負担が溜まる。
何せ倒しても倒しても敵が減らないのだ。
実際には減っているのだが、2万の内一人二人屠ったところで、魔物の海と化したこの場にいる魔物が途切れる事は無い。
終わりの見えない作業に萎え始める気力をなんとか保たせ、一度のミスも許されない戦いを繰り広げていく。
第一部隊はすでに騎馬部隊相手にこんな戦いを繰り広げていたのだと思うと、ちょっと尊敬に値する。
というか、龍華師匠は無双過ぎると思うんだ。これ以上の敵の波に一人で向うとか。
そういや彼女、今はどこまで行ったんだろう?
戦いのしすぎで麻痺しだした思考で、そんなたわいもないことを考える俺だった。
人物紹介(仮)
武藤薬藻
改造人間・フィエステリア・ピシシーダ
ヌェルティス・フォン・フォルクスワーエン ≪田中ナナシ≫
吸血鬼・真祖
増渕 菜七≪ナルテア・ナルティウス・ナーフェンデ≫
転生者・元魔王
山田八鹿≪ネリウ・クラリシア≫
魔法使い・王女
部隊構成(仮)
魔王軍
第一部隊 機動部隊(魔獣のみの構成)約2万 壊滅
第二部隊 騎馬部隊(魔獣に騎乗した魔族)約2万 壊滅
第三部隊 歩兵部隊(魔族のみの構成)約4万 残り約7千
第六部隊 巨人部隊 約90体
第八部隊 奇襲部隊 約2万
第四部隊 重歩兵部隊(高ランク魔族のみ)約1万 残り約百体
第五部隊 巨大獣部隊(攻城用・魔獣魔族混合) 約3千体
第七部隊 精鋭兵・魔王 約百名
フルテガント王国軍
第一部隊(王国軍冒険者人猫族混合) 約6千名
第二部隊(勇者王国近衛兵暗部精鋭兵等)約9百名
魔法部隊(王国軍冒険者エルフ族混合) 約7百名
負傷者 約2千名
死者 約千名
完全死 541名
医療部隊(王国軍冒険者妖精族混合) 約5百名
南方防衛部隊(魔法・医療部隊混合) 約6百名
遊撃部隊25名
竜部隊(赤龍王と黒竜は含まず)13名
魔王軍戦経過報告(仮)
・大井手真希巴、ヌェルティス、増渕菜七による広範囲魔法での先制攻撃。
・三人の退却後、魔王軍機動部隊(獣部隊)を罠に嵌める。
・魔法部隊による追い打ち。
・機動部隊壊滅。
・龍華出陣。敵軍中央(重歩兵部隊)にて無双開始。
・機動部隊の後詰、騎馬部隊と第一部隊が激突。
・騎馬とさらに後詰の歩兵部隊が合流。
・綾嶺の自業自得な危機で超幸運効果発動により大井手が助っ人に入る。
・重圧魔法が無くなり騎馬部隊が本格的な行動を開始。
・大井手が持ち場に戻り魔法再開。
・騎馬部隊と歩兵部隊の一部が左右の森へと侵入。遊撃部隊が迎撃。
・巨人部隊最前線に出現。
・巨人部隊一つ目兄貴たちによる一斉射。
・増渕により一斉射の防衛成功。体力が尽き増渕死亡(仮死)。
・巨人族対巨大宇宙人&竜族
・南方防衛戦
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