勇者、元魔王を蘇生する
信之の活躍……の前に薬藻のターン。
ついでに次話は日本目線での話が展開。信之の戦いはその次です。
―― アイテムを入手しますか? ――
いいえ。いいえ。いいえいいえいいえいいえいいえいいえッ!
俺はひたすらいいえのボタンを押しながら、増渕の遺体を抱えて走っていた。
気持ちは太陽が沈む10倍の速度だ。
実際に出せるのはメロスくらいのものだが、俺は本当に全力で医療班を目指していた。
「薬藻っ。そんなに急いでどこ行くンだよ!?」
突然掛けられた声に思わず急停止。
振り向くと、手塚がこちらに寄って来ていた。
その背後から二人の男女が付いて来ているが、見知らぬ顔だ。甲冑から王国軍の兵士に見える。
「増渕がやられた。これから医療班に向って蘇生を……」
「なら丁度いい、あたしに任せろ!」
俺が急いでいる理由を聞いた手塚は、何故か嬉しそうに駆け寄ってくる。
今は非常時なのに、なんでそんな顔を? と思うが、任せていいというのなら任せてみよう。
最後にいいえをもう一度押して、その場に増渕を横たえる。
「えっとナットなンだっけか? 周囲に敵が来ねぇか見張ってくれ。万一来たら、薬藻、倒してくれ。この魔法ちょっと集中するんだ。あとプリンだっけ? あんたはこのダイアログのいいえを押してまくってくれ。絶対にはいは押すンじゃねぇぞ!」
「は、はいっ」
手塚に睨まれ思わず直立不動になるプリンという名の女性。きりっとした人が慌てて気を付け姿勢を取るさまはちょっと可愛らしくて和んだ。
すぐにそんな場合じゃないと周囲に視線を向ける。
そんな俺は、予想外のモノを見て思わず口を開けて見上げてしまった。
それは、黄金に輝く身体に黒い炎が巻きつくような模様の入った身体を持っていた。
巨人族と比べても大差ない程の巨躯。
そんな生物が、俺たちに背を向け立っていた。
いったい、何時の間に現れた? そんな思いと共に、ある確信めいた思考が鎌首をもたげる。
まさか……まさかアレが……信之の正体?
あれって確か……TVで何度か妹が見ていた特撮映画に出てる奴じゃなかったか?
確か、アトミックマン。
宇宙からやってきた巨人で、何らかの理由で地球を守ってくれているという謎の宇宙人。
宇宙から地球侵略にやってくる巨大怪獣や秘密結社の巨大ロボの退治、一時は国の戦争にまで出張って双方の国の兵器を全て破壊したとかいう噂の正義の味方。
なるほど、だから地球の味方なのか。
でも、確かRACEには人間ってでてなかったか?
ああ、だからあのスイッチかなんだかで変身するわけか。
にしても、そんな奥の手があるならなぜもっと早く……ああいや、でも、使ってくれただけマシか。
あいつはあいつのやるべきことをやる……か。
なら俺は……
「歩兵部隊来ます! 薬藻さんでしたか、ハイオークとリザードウォーリアです」
「わかった。あんたはリザードウォーリアでいいか? ハイオークは俺が倒すよ」
「了解です。では、参りましょうか」
ナットなんとかが剣を構えリザードウォーリアへと突撃する。
俺もハイオークへと走り込み、ハルバードを振り上げたハイオークに今までで一番強力な蹴りを叩き込む。
信之のせいだろうか、なんか今、無性に負ける気がしない。
絶対に手塚たちを護り切る。
思わず掛かって来いやぁッ! と叫びかけて、さすがにそれをやったら後で悶死するだろうと気付き慌てて口をつぐんだ。
「スラッシュ!」
ナットなんとかもリザードウォーリアとの戦いを始めていた。
シミターを避けつつスキル攻撃を叩き込む。
しかし初期スキルが相手にどれ程効くかは甚だ疑問だ。
っと、よそ見してる場合じゃない。
横薙ぎに来たハルバードを寸前で躱しマトリッ○ス。お返しとばかりに崩れた体勢のまま左足を振り上げハイオークの肘を叩き折る。
ブヒィと悲鳴が上がるが、気にせず片手を地面に付いて、その手をバネにハイオークへと飛ぶ。
ハイオークが慌てて片手でハルバードを俺へと向ける。
しかし重さを支え切れずに体勢を崩した。
そこへ俺の右足が膨れた腹へと突き刺さる。
さらに地面に両手を突き、一気に身体を捻る。
右足が限界まで突き刺さった状態で回転が掛かり、足でのコークスクリューがハイオークの腹を襲った。
そのまま両腕でハイオークへと飛び、さらに足を深く叩き込む。
ハイオークは衝撃に耐えきれずその身を浮かせ、俺の代わりに吹き飛んだ。
ハイオークの悲鳴が上がる。
ごろごろと地面を転がったハイオーク。
思わずハルバードを取り落とし、腹を押さえてのたうちまわる。
口からは涎とも胃液とも付かない何かが盛大に吐きだされ、今もさらにぶちまける。
しばらくのたうち回ったハイオークは、力なく起き上がると、俺を睨みつけ、大声で吼えた。
一瞬身体が竦みかけたが、なんとか踏みとどまる。
そんな俺に、落ちていたハルバードを拾ったハイオークが突進してきた。
「ブオオォォォッ!」
気合いと共に振り抜かれるハルバード。
しかし、振り抜いた先に、俺は存在しなかった。
思わずハイオークが混乱する。
慌てて周囲に視線を走らせるが、俺の姿は捉えられない。
それもそのはず。俺は今ハルバードにくっついているのだから。
変化を解いてハイオークの背後へと現れる。
その無防備な首へ向け、俺は毒を打ち込んだ。
一瞬感じた痛みに驚くハイオーク。
慌てて振り向いた先に居た俺に気付き、即座に距離を取る。
が、すでに彼の対応は遅すぎた。
突如ビクンと身体が跳ね、物凄い猛り声がコダマする。
死のダンスが発動し、ハイオークが狂ったように動き出す。
ハルバードをやたら滅多ら振りまわし、己の腕を斬り飛ばす。
それでも収まらないと自身に切り傷をつけ回し、くるくると回りながら泡を吹く。
やがて、ようやく力尽きたハイオークが大地に倒れ伏す。
果たして、彼は毒で死んだのか、それとも出血多量で死んだのか……
そんな事を思いながらナットなんとかの方はどうなったかと視線を向ける。
丁度、リザードウォーリアの首を切り裂いた所だった。
どうやらあっちも勝利を拾えたようだ。
その頃には、手塚の魔法もすでにかけ終えられていて、増渕からダイアログが消え去っていた。
人物紹介(仮)
武藤薬藻
改造人間・フィエステリア・ピシシーダ
手塚至宝
勇者
ナットウ・ギュウニュウ
フルテガント王国騎士団第三部隊中堅騎士
プリン・ホイコーロー
フルテガント王国騎士団第五部隊副長
部隊構成(仮)
魔王軍
第一部隊 機動部隊(魔獣のみの構成)約2万 壊滅
第二部隊 騎馬部隊(魔獣に騎乗した魔族)約2万 壊滅
第三部隊 歩兵部隊(魔族のみの構成)約4万 残り3万
第六部隊 巨人部隊 約8千
第四部隊 重歩兵部隊(高ランク魔族のみ)約1万 残り約百数体
第五部隊 巨大獣部隊(攻城用・魔獣魔族混合) 約3千数百体
第七部隊 精鋭兵・魔王 約百名
フルテガント王国軍
第一部隊(王国軍冒険者人猫族混合) 約7千名
第二部隊(勇者王国近衛兵暗部精鋭兵等)約千名
魔法部隊(王国軍冒険者エルフ族混合) 約千名
負傷者 約千7百名
死者 約8百名
完全死 522名
医療部隊(王国軍冒険者妖精族混合) 約八百名
遊撃部隊25名
竜部隊(赤龍王と黒竜は含まず)13名
魔王軍戦経過報告(仮)
・大井手真希巴、ヌェルティス、増渕菜七による広範囲魔法での先制攻撃。
・三人の退却後、魔王軍機動部隊(獣部隊)を罠に填める。
・魔法部隊による追い打ち。
・機動部隊壊滅。
・龍華出陣。敵軍中央(重歩兵部隊)にて無双開始。
・機動部隊の後詰、騎馬部隊と第一部隊が激突。
・騎馬とさらに後詰の歩兵部隊が合流。
・綾嶺の自業自得な危機で超幸運効果発動により大井手が助っ人に入る。
・重圧魔法が無くなり騎馬部隊が本格的な行動を開始。
・大井手が持ち場に戻り魔法再開。
・騎馬部隊と歩兵部隊の一部が左右の森へと侵入。遊撃部隊が迎撃。
・巨人部隊最前線に出現。
・巨人部隊一つ目兄貴たちによる一斉射。
・増渕により一斉射の防衛成功。体力が尽き増渕死亡(仮死)。
↑いまココ
・巨人族対巨大宇宙人&○○




