機動部隊殲滅戦
「全隊攻撃用意!」
遅れてやってきた増渕は、空中から大声で魔術部隊へと命令した。
いきなり命令されて不平不満を言うヤツは今ここにはいない。
皆必死に接近するジャフネという魔物を倒すことに集中しているためだ。
「ど、どどど、どうするの? 私無理だよ。魔法ないよ!? 百乃ちゃんどうしよう!?」
あたしの隣で麁羅が戸惑っている。うん、可愛らしいね。
こう、なんていうの? あのメガネを突然取ったらさらに戸惑うだろうか? それとも一変回って冷静になったりするのだろうか? 目が3になったら最高に笑えるけどさ。
まぁ、多分戸惑いから混乱に状態異常のランクが上がるだけだろうけどさ。
「あー、今回は休んでていいよ。あたしがやるし。この後第一部隊と突撃するから体力温存しといて」
あたしは苦笑しながら麁羅の肩をぽんと叩いて落ちつかせる。
「撃てぇッ!!」
あたしが戦場へと目を向けると同時に、増渕の声が聞こえた。
……今さらだけど、アイツって魔法部隊の指揮任されてたっけ?
あ、ネリウが凄い複雑な顔してる。可哀想に。
増渕って意外と空気の読めないリーダータイプだよね。やる気が空回りするタイプの。
「さって、あたしも頑張りますかいな。ホーリーアロー!」
弓を引き絞る様にして、光の矢を作り出す。
近寄ってきたジャフネに向け光の矢を打ち出した。
「ラ・グラ」
「バム・ドラ」
「ミュ・ズル」
「ウェ・ルズトラ」
「グラ・ント」
「シェ・ズルガ」
「ウォル・フェ」
「八重閃光弾」
数百もの魔術師から放たれる魔法の嵐。
接近していたジャフネたちに無差別に襲いかかる。
遠くから見ると、ちょっと色つき花火みたいで綺麗である。
ホーリーアローを放った後はついつい見入ってしまっていた。
いやー、さすがこれだけの魔法が一斉に放たれると壮観だわ。
これが死語でいうドンパチやってる。の図か。
範囲攻撃魔法も幾つか混ざってるけど魔法部隊が第一部隊より前に出ているので味方を巻き込むことはなさそうだ。
さすがにこんな範囲魔法が飛び交う中に第一部隊を向かわせる訳にはいかないだろうから、ある程度魔獣たちがこちらに近づいて範囲魔法に自分たちが入りかけたら第一部隊の出番。といったところか。
ま、作戦なんてあたしにゃ関係ないし、適当にやらせて貰おう。
「百乃ちゃんっ!!」
魔法に見入って空を見上げていたあたしに、麁羅の焦った声が聞こえた。
なんだ? と視線を下に戻すと、なんとあの絨毯爆撃を駆け抜けてきたボルケーノジャガーが一体、あたしに向って跳躍したところだった。
獣特有の咆哮を響かせながら大きく口を開くボルケーノジャガー。
不味いと思っても身体が反応しない。
咄嗟に身体を後ろに倒したけど、それは殆ど意味がなかった。
眼前へと飛び込んでくる大きく開かれたアギトに嘘? という疑問しか浮かばない。
もう数センチで噛みつかれる。そんな時だった。
「コ・ルラ」
突如目の前に居たボルケーノジャガーが氷の塊と化した。
アギトが顔に当ったが、全く鋭さは無くなり、むしろ氷塊が当ってきた鈍い痛みがあった。
「って、誰よっ! 助けるなら助けるでノーダメージは基本でしょうがっ!」
「無問題」
振り向いた先に居たのは、小さな一つ眼の少女と、こちらにVサインしている伊吹冬子。
今のはあんたかっ! 助かったけど覚えとくからなっ! 天使の恨みは怖いわよ!
「とつめ砲。発射!」
伊吹はあたしに応えた後、とつめから水風船を奪い取る。
泣き出したとつめの顔を固定して、魔王軍へと向けた。
やがて……逆鱗の眼光が発動した。
凶悪な光が、炎の柱と魔法の雨を抜けてきた機動部隊へと襲いかかる。
さすがに二つの障害を抜けるので手いっぱいだったらしい魔獣たちは、近づく光を間抜けに見上げ、光の中へと消えて行った。
「右舷、アローシザーズが二体抜けたぞ! 左舷。近づいてくるのはフラッシングドッグだ。単体魔法は避けられる。広範囲魔法で確実に潰せ!」
追尾効果のあるらしい八重閃光弾を連発しながら増渕が上空から指示している。
さらに、光が収まり懐からとつめが水風船を取りだすと、伊吹が再びそれを取り上げていた。
「連射♪」
な、なんかちょっと楽しそう。
伊吹が意地の悪い笑みを浮かべてとつめから水風船を取り上げている姿はちょっと引く。
どうみてもイジメにしか見えない。
「ダーヂエグザイル!」
あたしも少しはやっとかないとね。
飛んできたジャフネに向け、神聖技を解き放つ。
ダーヂエグザイルは簡単に言うと光の投げ槍だ。
ホーリーアロー用に作り出した矢を直接投げ飛ばす魔法だけど、手で持って投げるだけなので遠くに飛ばす必要はない。
そのためホーリーアローよりも多くの力を注ぎこみ、巨大な槍として投げるのである。
ホーリーアローは遠くへ飛ばすために細く長く聖力を注がないといけないけど、その制約が無いのがこの魔法である。
いわゆる近距離用攻撃魔法というべきか。
ホーリーアローとダーヂエグザイル。この二つを覚える事で天使たちは天使見習いを卒業する力を手に入れるのである。
この二種類の神聖技を使えないと天使見習いのままであり、三年に一度受けられる天使試験にまず受かれない。
天使試験は二度落ちれば天使への適正なしとして審判を行う天使により消滅させられるのである。
まぁ、どうでもいい話だねこれ。
「よし、他に敵影は無いな。全隊止め! 機動部隊は殲滅した。次は騎馬部隊。アローシザーズには特に注意。属性持ちの敵に同系統魔法を打ち込むなよ! 回復する奴もいるぞ!」
どうやら機動部隊の殲滅が終わったみたいだ。
増渕が大声で伝えてそのまま次の仕事へ向って行く。
「よし、あたしたちも行きますか」
「は、はわわ。緊張してきた。と、トイレ行ってきていいかな」
麁羅が慌てて自陣に戻っていく。締まらないなぁと思っていると、麁羅を行き違うように、一匹の白い馬が空を駆けて行く。
翼を広げ、優雅に駆け抜けるその姿に、ついつい見惚れてしまった。
鐙に跨るのは幼い少女。手綱を片手で持って戦場へと単騎で駆けて行く。
後ろ手に縛った黒い髪は馬の尻尾と同じように風に揺れ、手にした血紅の鎌が嫌でも視線を集めて行く。
我が軍の特攻隊長のお出ましである。
あの馬、変態らしいけどこうして見ると絵になるな……なんでだろ?
人物紹介(仮)
八神百乃
力天使
綾嶺麁羅
聖戦士
魔王軍
第一部隊 機動部隊(魔獣のみの構成)約2万 壊滅
第二部隊 騎馬部隊(魔獣に騎乗した魔族)約2万
第三部隊 歩兵部隊(魔族のみの構成)約4万
第四部隊 重歩兵部隊(高ランク魔族のみ)約1万
第五部隊 巨大獣部隊(攻城用・魔獣魔族混合) 約5千
第六部隊 巨人部隊 約8千
第七部隊 精鋭兵・魔王 約百名
フルテガント王国軍
第一部隊(王国軍冒険者人猫族混合) 約1万名
第二部隊(勇者王国近衛兵暗部精鋭兵等)約千名
魔法部隊(王国軍冒険者エルフ族混合) 約千名
医療部隊(王国軍冒険者妖精族混合) 約八百名
遊撃部隊25名
竜部隊(赤龍王と黒竜は含まず)13名
魔王軍戦経過報告(仮)
・大井手真希巴、ヌェルティス、増渕菜七による広範囲魔法での先制攻撃。
・三人の退却後、魔王軍機動部隊(獣部隊)を罠に填める。
・魔法部隊による追い打ち。
・機動部隊壊滅。
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