人材配置
手塚と別れた俺は、イチゴと二人でアグニ達の待つ庭へと向かった。
そこにはすでに俺がテイムした魔物と、共闘を行う種族が揃っていた。
俺たちの姿を見かけるまでは多少険悪なムードだったが、すぐに気配は霧散してしまった。
「それで、我々エルフばかりか人猫や妖精までいるのはどういうことだ薬藻」
エルフ族の若き族長の息子。といってもすでに700歳くらい生きているらしいが、少し険しい目でこちらににじり寄ってきた。
「最初に言っただろ。今は種族がどうこうで争っている場合じゃないと。魔王軍がここを蹂躙すれば近くに住むエルフも人猫も妖精も等しく滅ぶ。なら、今は力を合わせる時じゃないか?」
「むぅ。しかし粗野な人猫どもと……」
「それはこちらの台詞だッ。さんざん人の事を見下しやがって。テメー等なんざ……」
険悪な雰囲気が再び流れ出した瞬間だった。
俺が止めに入るより早く、イチゴが渾身のライトニング!
イチゴにすり寄ろうとしていたユニコペガサスが素敵な音を響かせ焼け焦げる。
別に意図した攻撃ではなかったようだが、エルフたちが押し黙るには丁度いいタイミングだった。
「とにかく、全員種族ごとに並んで下さい。確かに同じ戦場で魔王軍と戦いますが、配属部隊は違います。日本から渡された紙を読みますんで。静かに聞いてください」
俺の言葉にようやく静かになる各種族。
俺は静寂の中、全ての種族を見回した。
エルフ、人猫、妖精、そして……竜。
そう、竜族もずらっと並んでいらっしゃいます。
御覧ください、庭は結構広かったはずなのに、ちょっと手狭になっております。
エルフ、人猫、妖精の三種族でも1000人以上の集まりで何やら祭りのように賑やかです。
竜たちは身体が大きいのでさすがに十人以上いらっしゃいますと圧迫感がありますね。
小さな翼竜種でも3m弱。見上げる形になってしまうのは仕方ない事でしょう。
巨体に囲まれていると、どうも巨人の国に来たようで冷や汗が止まりません。怖いです。
赤青黒と色とりどりのドラゴンさんがアグニさんの一声で集まってくださいました。
以上、現場の武藤からでした。
……この部隊、本当に俺が指揮しないとダメか?
さて、話の前に簡単に構成を説明しよう。
まずはエルフ族。別名耳長族とか、長寿族とか呼ばれている。
基本は金髪の髪に、整い過ぎた綺麗な顔立ち。透き通るような白い肌。緑の服。弓。と言ったところだろうか。
今回は300名程来ているが、全員が緑の服を来ている。
その上からブレストガードを付けているのが150人くらい。
残りはフルプレートや軽鎧を身に付けている。
族長の息子は銀の胸当てとサークレットを身に付け、自慢の弓を手にしている。
袈裟掛けにして背中に矢筒を背負っているのは、殆どのエルフに共通していた。
一部、剣を手にしていたり、槍を持っているエルフもいるが、数は数人だ。
族長の話ではエルフは魔法を扱うエキスパートらしい。全員が杖無しで魔法を唱えられるのだとか。
今回来た300名の内、40名が女性、そのうち回復魔法を使えるのは25名。
この回復魔法の使い手は衛生兵として赤城の指示のもと医療班に向う予定だ。
うん。エルフの女性、可愛いな。いつかお近づきになりたいものである。
次に人猫族。
簡単に説明すると、人のように歩きだした猫族というヤツだ。
こちらからは500人くらい。繁殖力が強いので若い人材が多いと言っていたが、3000人程度の集落だった。
残念ながらケモ耳娘ではなく、本物の獣が二足歩行している種族である。
まぁ、そんな女性でも可愛いことは可愛いのだが、常に裸なのはちょっとどうかと思う。
全身が毛で隠れているから服を着る習慣がないそうだ。
とはいえ、下着だけは着ている。男性はぶらぶらするので動きにくいというのが下着着用の理由らしい。
女性は、男性が穿いているのを見て真似しだしたらしい。せめてでも隠してくれていてよかった。
真っ裸で生活されていたら俺は凝視してイチゴに白い目を向けられていた事だろう。
ちなみに、人猫族とかいて【じんびょうぞく】と呼ぶらしい。これは猫だけでなく、ジャガーや虎、ライオンなどの魔族も含めて人猫と一括りにされているようだ。
代表は白い毛並みのライオン獣人である。ふふ、ライオン○ングだ。
その付き人として虎獣人の男がいるが、こいつが一番口が悪い。
特にエルフに対する悪口は心底嫌っているのがすぐに分かるほどだ。
ちなみに、先程エルフにぼやいていたのもこいつである。
人猫族は基本、防具は身に付けない。
己の肉体こそが防具なのである。
武具は付け爪が多いが、徒手空拳のヤツもいる。一部は鎚や木槌、斧などを持っているがこちらの数は余りいない。むしろ短剣やナイフを持っている奴が結構いる。
身体能力が高いので、重さの無い短い剣で速度を生かした戦いをするようだ。
ちなみに、虎男はトリプルダガーを両手に持っている。ライオン男は何も持っていないので拳で語るようだ。
妖精族。
今回、妖精族の族長はここには来なかった。
妖精王国の結界維持で国から出られないせいだ。
そのため、代表としてやってきたのは、族長の妻、ティタニアである。
この辺りはメインな名前なんだな。と納得してしまった。ちなみに族長の名前はオベロンらしい。
桃栗のヤツ、この二人だけはあの有名な話から持って来たらしい。
本日は青く煌びやかなドレスを身に纏い、美しく透き通った羽を振わせている。
妖精は基本陽気で悪戯好き、厳粛な場には似つかわしくないそうだ。
そういった真剣な場に来てしまうと、ブチ壊したくてそわそわするらしい。
これは族長の妻という身分でも同じらしい。
彼女だけは人間大の大きさだが、他の妖精族は赤ん坊並みの大きさが最高で、最低では手乗りサイズの少女まで幅広い。
どうやら妖精レベルが上がる程に人間の大きさに近づいて行くようだ。
彼らは独自の防具を身に付けており、それらは妖精たちで作ったらしい。
防御力は魔法が組み込まれているので高いのだとか。
武器は杖が多い。さすがに身体が小さいので剣やら槍は相手に致命傷を与えきれないそうだ。
なので魔法が主武器になるのだろう。
数人弓を扱ったりしてはいるが。
ティタニアは杖は持っていないが、魔力増幅装置であるリングを両手に填めている。
このリングはかなり使い勝手がいいのだが、妖精族でも作成数が少ないため身に付けている者は少ない。
このリング、友好の証に俺も貰ったので、イチゴにプレゼントしてみたのはネリウには内緒である。後が怖いからな。
最後に、竜族。
これはアグニが近くに住む仲間に声を掛けてくれたようだ。
あまり彼らには関係の無い戦いなのだが、血の気の多い者も多く、また赤竜王から直々の誘いということで、参加してくれるのはなんと15体。
この周辺だけでも結構いるものだな。
構成としてはウイングドラゴン1体。アクアドラゴン2体。ジラント1体。ズメイ3体。ファイアドラゴン2体。ブラックドラゴン1体。グウィバー1体。ワイバーン3体、赤竜王1体である。
ウイングドラゴンは速度に優れた個体で緑色の龍燐を持つ。
アクアドラゴンは青色の龍燐を持つ綺麗なブルーアイの竜たちである。
水棲らしいのだが、今回はわざわざ来てくれたのだとか。
ジラントというのは個体名らしい。クラスが地龍になっていたので地属性かと思いきや、どうやら本人によると違うらしい。
桃栗が適当に付けた名前かも知れないが、きっと元ネタがどっかに転がっているのだろう。
ズメイは三つ首の飛龍種である。首ごとに扱う属性が違うらしい。
知能が余り無いので、片言の念話しか送れないそうだ。念話が送れる時点で知的生物だと思うのは俺だけだろうか?
ファイアドラゴンは炎を操るドラゴンらしい。
どうやらレッドドラゴンとは違うらしく、鱗は赤く輝いていなかった。むしろくすんだ赤色である。
ブラックドラゴンは黒い鱗の龍である。闇属性のブレスを吐くらしいので、ヌェルが絶対に背中に乗りたがるだろう。おそらく彼女専用になると思われるので、今の内にブラックドラゴンに断わりを入れておいた。というか、こいつはヌェルに頼まれた【儂に相応しい騎乗用の竜】である。
グウィバーは白い鱗を持つホワイトドラゴンである。
赤竜王であるアグニとは余り仲が良くないのだが、今回はアグニをテイムしたという俺が物珍しいとやって来たらしい。
折角巣穴から出たので軽い運動をして帰るんだと。まぁ、戦ってくれるなら有難い限りである。
ワイバーンは双首の飛龍種である。
知能は余り無く、龍種の中でも下級種族なのだが、今回は人手……じゃないか。龍手が一匹でも多く欲しいので連れてきたらしい。
魔法攻撃は出来ず、ブレスの威力も低いので、騎乗メインで魔法使いを乗せるためだけに運用した方がいいとの事。
ネリウと伊吹、あとエルフの代表者にでも乗って貰うか。
「じゃあ、役割を発表します。まずエルフ、回復魔法が使える25名は医療班に合流。衛生兵として動いてください。残りのエルフは第二陣で人間の魔術部隊と合流。初めは魔法メインで敵のジャフネ、アローシザーズ撃破を行ってほしいそうです。人猫は第一陣で罠に嵌った機動部隊を各個撃破。追いついて来た騎馬隊や歩兵隊、重歩兵隊との戦闘をお願いします。妖精部隊は後続、魔法部隊に合流後、エルフと共にジャフネ、アローシザーズの殲滅。一匹たりとも残すな。らしいです。竜族は少し待機。相手の巨大獣や巨人に対して戦っていただく予定になります。ただし、これから呼ばれた方は人間やエルフなどを背中に乗せて飛んでいただきたいと思います」
さて、種族単位で来てくれた奴らにはこれでいい。
次は……ユニークモンスターたちか。




