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開戦の声

「だいぶ、集まりましたね」


 平地に座り込み、イチゴと二人休憩を取っていた。

 俺の傍らにはアグニが座り込み、イチゴの側にはユニコペガサスが気絶している。

 回復するとかならずイチゴの側にすり寄ってくるので、イチゴが逐一駆除してしまうのだ。


 ユニコペガサスはそのまま放置して置き去りにしてもどこからともなく俺たちを探しだしてイチゴに突撃するので、イチゴにとっては迷惑この上ない。

 それでも十数回目になると手慣れたモノで、近づいてくる気配を察知すると同時に電撃を喰らわせていた。

 もしもユニコペガサスが喋れていれば、おそらく「ありがとうございますっ」とか答えていたはずだ。


 で、ユニークモンスターやら逸れモンスターなど、強力個体を何体か捕獲した俺たちは、六体くらい揃うたびにイチゴのムーブでフルテガント王国に戻っていた。

 一度フルテガントに辿りついたおかげか、アグニは自力で飛翔して俺たちを迎えに戻り、フルテガントで俺たちを乗せて次のモンスターの生息地へと飛んでくれる。


 場所を覚えれば自分で飛んだ方が速いとか言われてしまった。

 実際、王国に戻ってユニークモンスターたちを置いて外へと出ると、城門前にアグニが鎮座している。

 兵士たちが怯えているのが印象的だった。


 このおかげで時間が大幅に短縮された。ユニコペガサスのちょっかいのせいで多少ロスしたが問題はなかった。

 結果、王国付近の森に住む、エルフ、人猫族、妖精族との交渉に成功。どのみち魔王が国を征圧すればその近辺に住む彼らも同じ被害に遭うので、他人事ではなかったようだ。

 こちらにアグニがいたことが一番の交渉材料だった。

 皆、竜族が仲間になっているならと、戦争に参加してくれたのだ。


 とはいえ、時間がないので武器防具などは自前の安物、国で買う事は出来るが、冒険者が軒並み買って行ったようで、大したものは残っていない。

 だから別種族の者たちは自分たちで用意した武器防具を用意せざるを得なかったようだ。


 ヒットマンオレンジ。アルケニ―。おにぎり男爵。ハーピー三姉妹。ジェネラルモンキー。エンペラースケルトンをテイムした。

 他にもテイムしたのはいるが、既に先に国に送った。

 今ここに存在するのがこの八体である。

 レベルが上がったおかげでムーブで移動させるのは可能だったが、人数オーバーのため俺はアグニに乗って王国へ帰る事になる。


 簡単に説明すると、ヒットマンオレンジは頭がミカンで出来ていて、人間の胴体にミカンがくっついた蜜柑族という人種である。

 顔が物凄い濃い顔で、後ろに立つ奴を問答無用で殺す某ヒットマンに良く似ていた。


 アルケニ―はゲームに出てくるよくいる蜘蛛みたいな女性だ。

 両手両足が鎌になっているのだが、なぜかそんな怖い女性に俺は惚れられたようで、「あのー」と話しかけたとたん、アルケニ―をテイムしました。とかメッセージが流れた。

 一目惚れらしい。普通の女性なら手放しで喜べるのだが、鎌女に好かれても……しかも刃の部分が血塗れで怖いし。抱き付かれたら即死だろう。


 おにぎり男爵はモノクルのメガネをかけた貴族然とした態度のおにぎり族だ。

 態度が横柄だが、余りにも弱いので、思いっきりぶん殴ってしまった。

 頭のご飯粒が飛び散ったのはちょっと引いた。


 ようするに、アン○ンマンにでてくるおにぎ○マンみたいな奴で、人間の身体に三角オニギリの顔が付いている。服装はまさに男爵と思える貴族服でモノクルを掛け、ステッキ片手に優雅に歩くちょっと苛つく57歳。

 回復魔法が得意らしいので一応テイムさせてもらった。

 でも、正直こいつに回復されたくはない。


 ハーピーの姉妹はアグニの威圧で泣きながらテイムされた。あの時程魔物を哀れに思った時はない。

 ハーピーは鳥人族の一種で、上半身は人間、腕が羽になっていて、下半身は鳥という魔族である。

 裸なのは目のやり場に困ったが、下半身は羽毛で分厚くガードされていた。

 飛行時に揺れる谷間を凝視していたらイチゴが能面になったので自制せざるを得なかったが。

 三姉妹はかなり可愛かったが、人語を喋れないのでちょっと切なかった。鳥頭なのは御愛嬌だろう。

 ちなみに、この後王国に着いてから胸は【戦士のブラ】により隠された。彼女たちの防御力は上昇したが俺の気分はちょっと下がった。


 ジェネラルモンキーは猿なのに戦術に特化した将軍のような武装をしている。

 剣を地面に突き刺し柄に手を当てて休んでいる姿は、なぜか威厳に満ちている。

 でも尻の真っ赤な猿には変わりない。

 自然に湧き出ていた温泉に浸かってまったりしていたところで交渉すると、すんなりテイムできた。


 一番苦労したのがエンペラースケルトンだろう。

 死者なので意思疎通が難しく、敵の攻撃を掻い潜りながらシャレコウベの頭を撫で続けること数分。

 下顎をカタカタ震わせエンペラースケルトンが仲間になった。


 頭の上に金の冠を頂き、手には豪勢な装飾がなされた大剣。二匹の首無し馬に引かせたチャリオットに乗った状態で存在する。

 チャリオットから降りることはなく、これ全てを含めてエンペラースケルトンとして存在しているようだ。


 なんやかんやで時刻は正午を過ぎていた。

 途中でイチゴの危機を助けたり、イチゴに抱きしめられたりとちょっとピンクなイベントも起こり、なんだか変な空気になることもあった。

 今はテイム成果を指を折って調べるイチゴが楽しそうにしているが、その座っている場所は、俺から1cmも離れていない。


「あ、あの、話は変わるんですけど……」


「ん?」


 次の魔物を誰にするかと決めかねていた俺に、改まった声で話しかけてくるイチゴ。

 どうしたのかと顔を見ると、なにやら顔を真っ赤にしている。


「ま、魔王軍との戦いが終わったら、お話したいことがあるんです。その、異世界? でしたっけ。そこに帰ってしまう前に、聞いていただけないですか?」


 何か言いたいことがあるみたいだけど……

 これ、死亡フラグじゃなかったか?


「それだったら今聞くよ。戦い前に勝利後の話をするのは縁起が悪いし」


「そ、そうなんですか? じゃあ、その、私を――」


『ぴんぽんぱんぽーん。ただいまマイクのテスト中、ただいまマイクのテスト中。女神様よりクラスメイト諸君に伝達ー。魔王軍襲来、至急戻られたしー、至急戻られたしー』


 突如降ってくる残念な天の声。

 イチゴの告白が台無しだった。

 桃栗、後で死なす。


 イチゴの死亡フラグをへし折るために、俺の近くに居て貰うよう日本に伝えとこう。

 薬藻のテイム旅行は続けると長くなりそうなのでまるっと端折りました。

 何せ午前2時から昼間まで忙しなく動いていたので20話分くらいになりそうだったので。

 次からは準備を経て魔王軍団戦に突入です。

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