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薬藻のテイム旅行4

「わ、私、ドラゴンに乗ってるなんて夢みたいです」


 風を切る音を聞きながらアグニの背に捕まっていた俺に、イチゴが興奮した様子で叫ぶ。

 叫んでいるのは周囲の風切り音が大きすぎる為、小声だと聞きとれないからである。

 一応、アグニの飛翔というスキルのおかげで、背に乗った者への風抵抗が減衰されているのだが、それでも音だけは聞き取りにくい。


 アグニが巨大だといっても、体中に乗れる訳ではないので、騎乗できるのは人一人が座れるくらいのスペースしかない。

 そこに生えている毛に掴まる事で身体を安定させることができるのだ。

 つまり、その一人しか座れないスペースに二人の人間が座っていることになる。


 そう、俺とイチゴだ。

 ただいま密着24時であります。

 どうしよう。最近本当に女性に縁がありまくっている。

 改造人間だし、普通の恋愛とか彼女とか諦めてたけど、少しは期待していいのだろうか?


 こうやってイチゴを抱きかかえるようにしている俺に、イチゴは全く嫌がるそぶりをみせないのだ。

 当然ながら、改造人間状態で密着すると嫌がりそうなので変身は解いている。

 ついでに回復魔法を掛けて貰ったので元気百倍である。息子も絶好調さ。

 時々目が合うと、何か言いたそうにしながらも凄く恥ずかしそうに目を伏せる。

 その仕草がこう、なんていうんだ?

 燃える。いや、萌える?


 アグニの背に乗っているのだが、このままイチゴを襲ってしまいたい気分になってくる。

 そうしてしまうといろいろと悲惨な結果になりそうなのだが、俺も男な訳だし、少しくらい、いいんじゃないかな?

 どう思うよアグニさん?


『すまんが、我に猿どもの交尾方法を聞かれても困る』


 思考が読まれてた!?

 まさかの展開に思考が一瞬で羞恥に染まった。

 ピンク思考よ去ってくれ。


「あの、それで、次に向うのはどこですか?」


「ああ。本来ならだいぶランクの下がるアクアマンティスに向うつもりだったけど、アグニに乗れたからさ、凶悪と言われてる魔物の方に向おうと思う。なるべく強い魔物を優先的に仲間に引き入れたいしな。だから、次はツツガメ湖に生息するユニコーンを探そうと思う。なんか変わり種がいるらしいんだ」


「ユニコーンですか。確かえっちな魔物だって聞いた事あります。し、処女を見つけると群がってくるって……」


 言うのが恥ずかしかったらしく、物凄い顔を赤らめるイチゴ。俺と視線が合うとぼふっと擬音が聞こえそうなくらい真っ赤になっていた。


『そろそろツツガメ湖に到着だ』


「おっけー。イチゴは念のためアグニの背中から動かないようにな」


「は、はい」


「アグニ、イチゴを頼む」


『任された主よ。この娘は我が信念にかけて無傷で護ろう』


 湖の畔に降り立ったアグニの背中から飛び降り、俺は一人周囲を探る。

 そろそろ午前2時を回る頃。

 丑三つ時の湖は梟だろうか? ホーホーと鳥の鳴き声が聞こえている。

 湖の周りは木々で囲まれており、どうやら森の中に存在する湖らしい。


 そのせいか、時折野生生物が水を飲みに来ている。

 魔物も幾らかいるが、こちらを攻撃してくる気配はない。

 皆、こちらを見るが、基本無視して水浴びをしたり、水を飲んでいる。

 どうやらこの湖周辺では戦闘行為を行わないのが暗黙の了解らしい。

 いわば中立地帯だ。


 ユニコーンは……と、いたいた。

 というか、むしろ自然と集まってきていた。

 どうやらイチゴを狙っているようだ。

 処女であるイチゴを襲いたいようだが、アグニの背中にいるので遠巻きに眺めるに留めている。


 十頭はいる。

 基本は真っ白な馬だ。鳴き声も特徴的なものはなく、本当にただの馬に角が生えた存在らしい。

 興奮したように鼻をヒクつかせ、アグニの周りを行ったり来たりしている。

 ちなみに、アグニが少し身じろぎすると、慌てたように距離を取るが、身じろぎしただけだと気付くと再び一定範囲に集まってきては周りをウロついている。


 ユニコーンって聖獣というイメージがあったんだが、ここのはどうみても性獣だな。

 なんだか鼻息がヤらしく聞こえてしまうんだが、これは俺のイメージのせいだろうか?

 ああクソ、なんだ、こいつらなんかムカつく。

 仲間にするのは止めて全滅させてやろうか?


 イチゴはさすがに怖いらしく、アグニの毛をしっかり握りしめ、小刻みに震えていた。

 しばらくすると、ユニコーンの一匹が不意に足をアグニに近づけた。

 いままで5mは距離を保っていたのだが、アグニが攻撃しないことをいいことにイチゴに近づこうとしたのだろう。


 その瞬間、アグニの首がぐりんとユニコーンに向いた。

 ユニコーンの身体が硬直する。

 しばし睨みあう。


 やがて、睨みあいに負けたユニコーンが怯えるように踵を返すと、森の奥へと駆けて行った。

 他のユニコーンは未だに機会を窺っている。

 なんか、見てるだけでもちょっと面白い光景だ。


 だが、ユニコーンたちは間抜けでもなんでもなかった。

 奴らは機会を窺っていたのだ。陽動を行っていたのだ。

 俺とアグニの意識がユニコーンたちに行っている時だった。


「いやああああああああああああっ」


 唐突に、イチゴの悲鳴が上がった。

 慌ててそちらを見れば、空高く飛び去ろうとする一匹のユニコーン。その背には純白の翼が生えている。あれがユニコーンの変わり種!? ペガサスか!

 イチゴの首根っこを口で咥えて飛び上がったそいつは、驚くアグニを尻目に夜空へ去っていく。


「flexiоn!」


 俺は確認すると同時に変身、アグニに飛び乗った。


『ふざけるな下衆がァッ!!』


 完全に不意をつかれたアグニが吠える。

 虚仮にされて本気になったレッドドラゴンが、飛び上がる。


『音速突破ァッ!!』

 

 そして空中戦が始まった。

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