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ヌェルティス穴を掘る

 ふぅ。

 儂は穴だらけになった平野を見渡し、大きく息を吐いた。

 やってやったぞクソッタレマルコメめ。


 渡された地図に描かれた赤丸は全て穴にしてやった。

 これだけやると面倒を通り過ぎて達成感があるな。

 スコップが儂の力と速度に耐えきれず折れ曲がってしまっておるが、まぁどうでもいい。

 もうすでに終わったのだ。彼の仕事はもうない。ゆっくりと休ませてやるべきだろう。

 なんなら、掘った穴の一つに埋めておこうか。


 などと思って一息付いていると、日本と共に、チョコバナナがやってきた。

 儂の専属執事のはずだが、なぜ奴がここに来るのだ?

 首を捻っていると、やってきた日本が言葉も無しに一枚の紙を突きつけてきた。


 地図である。

 儂の持っている地図と地形が同じである。

 しかし、赤丸の場所と数が違う。


「聞きたくはないが……なんだこれは?」


「先程、八神たちが偵察から帰還した。それを加味して罠の配置も一新する。頼むぞヌェルティス」


 ……は?


「ああ、この赤丸のない場所に掘った穴は埋めておいてくれ。穴を隠すのはチョコバナナの部隊がやる。お前は掘るだけでい……なんだ、スコップが壊れているではないか」


「御安心ください。こんな事もあろうかと、予備のスコップをお持ちしました」


 チョコバナナが一度は言ってみたい台詞集から取り出したような言葉を吐いてスコップを取りだす。

 しかもなぜかスーツの懐から。四次元○ケットでもついておるのか?


「って、待たんかバカモノ!」


「ん? なんだ? 薬藻の役に立つのではないのか? このくらい問題あるまい?」


「ぐぐっ。ダーリンを餌にするとは卑怯だぞ日本。だが、まぁいい。百歩譲って穴を埋めて掘ってやる。だが、だがだ。ここは何なのだ!」


 儂は渡された地図の赤く塗られた場所を指し示す。

 他の場所と比べると明らかに大きすぎる。なぜなら地図の約半分を赤射線が引かれているのだから。


「うむ。そこは指定したメートルになるまで掘っておいてくれ。いい穴を期待している」


「出来るかボケェッ!!」


 指定メートル30m。アホか!


「巨人族相手にはこのくらいでなければ相手にならん」


「巨人……巨人族ぅ!?」


 どうやら、日本がトラップ変更を行ったのには理由があるらしい。

 それが、巨人族。

 普通に戦えば儂らにとって凶悪過ぎる敵だ。

 一体出てこられただけでも壊滅的な打撃を与えられる存在。

 そんな化け物が、数十体単位でやってくるのだ。

 確かに、これくらいの落とし穴でなければ足止めにはならないだろう。

 ただ、これはもはや堀である。


 しかしだ。普通にスコップで掘ったところで東京ドームくらいの大きさを30m陥没させるなんて芸当は不可能だ。時間があればいいが、昼までに終わらせろとか、何その難題。

 全く、儂でなければ確かに無理だっただろうな。儂でなければ。


 普通にやっていれば無理だが、うってつけの力がある。

 そう、儂の考えた暗黒魔術を使う時が来た。

 しかし……こやつらに見られておるうちは何も出来んな。

 さっさと向こう行け。もはやお呼びではないわ。


 しかし、日本はチョコバナナに話しかけ、一向にここから去っていく素ぶりを見せない。

 ええい、これでは遅々として進まんではないか。

 くそ、こうなったら埋める予定の場所にスコップ一号を埋めておいてくれるわ。


 儂は地図を片手に穴の一つに歩み寄ると、スコップの残骸を落とし、両手を合わせて冥福を祈る。

 そしてスコップ二号で穴の横にあった盛り土を被せて行った。

 さて、とりあえず穴を塞いで行こうか。終わるまでには日本たちも居なくなっておるだろう。


 ……と、思っていたのだが、なぜかその場から離れないマルコメと執事。

 儂は最後の穴を埋め切り、一息付きながら日本たちを半眼で睨む。


「日本よ。ここに居る暇があるならさっさと部屋で机上の空論を展開してはどうだ?」


「生憎だが、すでに他の奴らには仕事を割り振った。後はお前がさぼらないか見守りながらで十分だ」


 ……ぶちっ。

 なんかもう。どうでもよいわ。

 見られたくないと思っておったが、仕方あるまい。

 凶悪過ぎて意味不明過ぎてイタ過ぎて人には見せられない魔法だが、ダーリンにさえ見られなければもう問題はない。ならば、そんなに見たいというならば見せてやろう。

 そして後悔しろ。儂に穴掘りなどをさせダーリンから遠ざけた報いを。

 いつか貴様がこれを喰らう事を想像し恐怖に顔を歪ませるがいい!


「おい、チョコバナナ。距離を取り決して黒い炎には当るなよ」


「黒い炎?」


 怪訝な顔をするチョコバナナを放置して、儂は左腕を目の前に。

 手の甲を相手に向けて肘を折り曲げ、目の前で手を開く。


「天魔の御使いより賜りし邪眼の封印、邪神により引き継がれし呪われた左腕、共に今、封印を解く」


 左手を目一杯広げて己の額に張りつける。

 すると黒き炎が左腕より噴き上がり、儂の身体を飲み込んでいく。

 どうだ? 格好良いだろう? そのために考えた封印解除法なのだからな!


 一応、長々とした呪文を唱えるのだが、さすがにそれを人前で告げる気にはなれなかった。

 なので、簡潔に魔術の名前だけを告げてやる。


「くたばれ、下賤の者どもよ! 悪魔たちの祭典ディアボロス・フェスタ!」


 その日、フルテガントの郊外で、闇色の大爆発があったとか。ガチムチスキンヘッドの幻影を見たとか町中に噂が駆け巡ったそうだ。儂はどんな噂になろうが知らんがな。

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