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俺のクラスメイトが全員一般人じゃなかった件  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三十四話 そして最後に怪人が来る
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後日談???

 地球から、遥か遥か遠い世界。

 次元を超えたある場所に、そいつは一人座っていた。

 おどろおどろしい黒雲が漂う空。雷が絶えず鳴り響き、蝙蝠達が昼夜を問わず飛び交う。


 大地はやせ細りひび割れて、池は毒に染まり紫色の腐った臭いを醸し出す。

 赤茶けた大地の一角に、歪な形の岩で出来た巨大な建物。

 人はソレを、畏怖を交えてこう呼んだ。魔王城と。


 その魔王城の奥の奥。

 謁見する者を拒むように巨大な厚い扉に閉ざされた椅子に、男が一人、座っていた。

 男の周囲には無数の女性型悪魔。

 男の身体は全身が赤く、しかし悪魔然とした姿ではない。

 どこかテレビの中で怪人や宇宙生物と闘う地球の味方、正義のヒーローのようなスーツ姿だった。


「報告に来たわ」


 黒く長い髪を靡かせ、少女が一人、扉を開いて現れる。

 日本人としか思えない端正な顔立ち。白銀の鎧を着込んだ少女は、赤き魔王の前にやってくる。


「話せ」


「先日向った人間の村で想定外の敵が居たの。ゴブリンとオークの群れは壊滅。その敵のスキル責任転嫁により村に辿りつくことなく殲滅されたそうよ。貴方からあの人の事聞いてなかったら私もヤバかった」


「やはり、この世界に来てたのか……」


「……ただ、もう、彼が敵対することはないわ」


 不意に、悲しげに彼女の視線が下を向く。赤き魔王は怪訝に顔を擡げた。


「どういうことだ若萌」


「死んだわ。もう、二度と彼が邪魔をする事はない。村は……どうします?」


「……そう、か。いい。その村は放置しろ。あいつが守り切った村だ。俺はソレを尊重する。元クラスメイトが命を掛けたんだ。……そうだろう? アンゴルモア」


 赤き魔王は空を見上げる。

 思えば遠くへ来たものだ。

 何故自分はここに居るのだろう。どうしてこうなってしまったのだろう。

 後悔だらけの異世界だ。初めは魔王討伐に召喚されたはずなのに……


 赤き悪魔は立ち上がる。

 若萌と呼ばれた少女は彼の背後を付いて歩き出す。

 赤き悪魔は玉座を抜け、エントランスへと向かった。


 魔王城の周辺には、無数の魔物が集まっている。

 本来、彼が討伐するはずだった魔物たちだ。

 だが、何処をどう間違ったのだろうか? 彼はその魔物たちを保護し、顎で使い、人間たちを滅ぼす行いに加担していた。


「聞け皆のモノ。これより本格的に人間の国を滅ぼしに掛かる。国民への過度の攻撃は禁ずる。しかし兵士、王族貴族は全て消し済みにしてしまえ! 征け、我が魔王軍よ! お前達の働き、我は楽しみにしている」


 歓声が上がった。

 無数の魔物たちが動きだす。

 一糸乱れぬ行軍を始める魔王軍はまさに軍隊だった。


 命令系統の無かった有象無象の魔王軍は、赤き魔王の元生まれ変わった。

 世界が悲鳴を上げ始める。

 赤き魔王を首魁とした魔物たちの逆襲が今、人間たちの国へと牙を剥こうとしていた。


 -----------------------


 後の伝説に残る、名もなき英雄の物語。

 その男は突然どこからともなく現れた。

 歩けば地面が崩れ落下して、突如空から飛行魔物の糞が彼に直撃する。

 唐突に動かなくなれば竜巻に攫われ遥か遠くへ飛んで行く。


 世界各地に出没し、まるでその地の不幸を全て吸い上げて行くように、彼の行く場所行く場所で不幸に見舞われていた人々を救って行った。

 ただ、誰も彼も彼の名を知らず、お礼すら貰わず颯爽と去っていく。


 戦場に現れては悪逆を不幸にし、国に現れては悪臣を暴きだし、村に現れては魔族を蹴散らした。

 人々を影ながら救いだす不幸の英雄。

 いつしか民衆からはアンゴルモアと呼ばれたその男は、ある時ふっと、その名声を消した。


 名もなき小さな村に、最も新しき伝説が残る。

 ゴブリンとオークが突如湧き起こった悪夢の日。

 その数日前、空からソレは降って来た。


 見たこともないゴーレムに半身を乗っ取られた半分人間の英雄。

 花摘みをしていた小さな少女は彼を匿い、仲睦まじく暮らしていた。

 永遠に続くと思われた日々、時折現れるオークやゴブリン。


 アンゴルモアは適当に対処していたが、その日、ついに悪夢は現れた。

 村を覆い隠す程の絶望的な魔物の群れ。

 蹂躙されることを覚悟し、絶望に嘆く村人たち。

 不幸のどん底に落とされた彼等に、アンゴルモアは手を差し伸べた。


 不安に嘆く少女や村人の脇を抜け、彼らの見ている前でたった一人、悪魔の群れに近づいて行く。

 責任転嫁。その言葉を呟いただけで、目の前に居たオークもゴブリンもコボルトも。皆等しく死に絶えた。

 地割れが起こり、隕石が降り、木々が倒れて下敷きに。

 毒が蔓延し、蝗の群れが襲いかかり、夜光虫が飛び交い貫き、間欠泉が噴き上がり……ありとあらゆる不幸が魔物を襲い、その殆どを撃破した。


 村が守られた。その興奮で男にお礼をいう少女。

 その横で、男は静かにその生を終えていた。

 半身の機械が誤作動を起こし、彼の意識する間もなく、実にあっけなく死を迎えていた。

 彼自身、彼が救った誰かの幸福を見ることすらできず、愛しき者のもとへ戻ることすら不幸にもできず。

 ただ、アイテム入手のダイアログだけが、むなしく少女の前に在った。


 すると、光り輝く戦乙女が降臨し、彼の遺骸を天空へと連れ去って行った。

 彼は天より遣わされ、この村を守るためだけにその命を投げ打ち、天へ還って行ったのだ。

 本当か嘘かは誰も知らない。ただ、密かにその村だけに伝わる一人の少女が書いた物語。

 不幸な不幸な英雄譚。その伝承だけを残して……


 -------------------------------


 とある日の昼下がり、女のもとへ一人の男が現れた。

 ずっと、ずーっと帰りを待っていた。

 愛しき愛しきたった一人の男の帰りを。


 何年掛かっただろう? 娘は中学生へと成っていた。

 恋愛まで始める年頃だった。

 女はずっと待っていた。

 春も夏も秋も冬も、何度季節が巡っても。

 言い寄ってくる男もいた。何度も忘れるべきだと諭された。

 それでも、ずっと、待っていた。


 遥か遠くで今も不幸に見舞われているだろうたった一人の男を。

 その世界に居なくとも、もう会う事は叶わずとも。

 それでもやっぱり待っていた。

 不幸だとは分かっていたし、もう会えないだろうと確信していた。


 それでも、勇者が探してくれた。彼女の知り合いが、諦めずに探してくれた。

 ぎりぎりで間に合ったと溜息吐いて、彼女は去って行ったが、男を連れて帰ってくれたのだ。

 女は涙を流し男に抱きつく。


「おかえりなさい、あなた」


 とある日の昼下がり、不幸だらけの英雄の冒険が――――終わりを告げた。

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