出席番号32・イチゴショートケーキ・フロンティア
私、イチゴショートケーキ・フロンティアは異世界から戻ると、即座に魔法を唱えていた。
なにしろすでに最終局面みたいになっていて、スリム化したナーガラスタに龍華さんや完全さんが吹っ飛ばされているのだ。
さすがにヤバい状況だと気付いて勇者様と正義の味方の二人が走りだした。
なので、私もフォローのためにトリプルライトニングを紡ぐ。
魔法が当り、勇者様、武田さん、福田さんがナーガラスタへ走り寄る。
各々必殺スキルを当てたのだけど、ナーガラスタは無駄に強くなってたらしい。
勇者様の連撃ですらも傷付きはするけど直ぐに再生してしまう。
なんとか攻撃から逃れたナーガラスタが悔しげに叫ぶ。
勇者様の名を呼んだ瞬間だった。
風が、変わった。
ビキリ、空気が悲鳴をあげた。
まるで異物が侵入した人の身体みたいに、拒絶反応のように世界の悲鳴が響き渡る。
邪神、アザトース。彼の腕が二つ、走った世界の亀裂を押し広げるようにして少しずつ亀裂を大きく引き裂いて行く。
人一人が通れるほどに開かれた亀裂から、それはゆっくりとやって来た。
ひたり、ひたり。本当にそう聞こえるような動きで、一歩一歩、ゆっくりと歩いて来る。
全身を包み込む邪悪な空気に知らず全身が震えた。
ダメだ。敵わない。これから現れる存在には、どれ程努力しても敵わない。
そう思わせるような重圧があった。
ひたり、ついにソレが異界と地球の出入り口へと現れる。
暗がりから、浮かびあがる肌色の顔。
びくんびくんと脈打つ細胞は正直気絶したくなるほど怖かった。
でも、でも……っ。見知った姿だと気付いたら、恐怖は一気に吹き飛んだ。
思わず両手で口を隠して歓喜に震える。
暗闇の中、顔面が潰れたひょっとこのような顔だけが現れる。正直ホラーでしかないはずなのに、私は、ううん、私だけじゃない。
クラスメイトの殆どが、気付いた瞬間、思わず歓喜で声を失っていた。
ああ、滲む。滲んでしまう。涙で目の前が滲んでく……
死んだって……殺されたんだって思ってた。
生きてるって願ってた。
本当にもう一度会えるって思ってなかったけど、でも。でもっ。
異界から、大地へ。黒い足が踏み出される。
暗い世界から来たから、全身の黒が見えなくて、顔だけが浮いてるように見えたのだ。
ゆっくりと、彼は地球に戻って来た。
背後からやって来た更なる黒い何かに、光り輝く槍を渡され、怪人、フィエステリアが現れた。
「では、行って来たまえ我が息子よ」
「息子言うな。……まぁ行って来るよラスト。あんたに自慢できる未来に繋げるために」
手渡された光り輝く槍を素振りして、彼はナーガラスタへと顔を向ける。
「嘘だ……なぜ、なぜ生きている?」
「よぉ山根。地獄の底から迎えに来たぜ」
「む、むぅぅぅとォォォおォォォッ!!」
走りだす薬藻さん。ナーガラスタも他のクラスメイトを無視して薬藻さんへと走りだしていた。
きっと、彼も信じられないのだ。あり得ない。信じたくない。何故生きている?
疑問だらけで思考停止して、結果、薬藻さんが生きていたという事実以外何も頭に入らなくなった。
だから、一直線に薬藻さんへと向って行く。
手慣れていない槍を扱う薬藻さん。ナーガラスタはこの一撃を手で弾こうとして、触れた一瞬、手の甲が弾け飛んだ。
慌てて槍から飛び退き、破壊光線を口から吐き出す。
一直線に伸びる赤き光。
薬藻さんの姿がでろんと溶け去り、破壊光線が虚空を薙いだ。
スライム状へと変化した薬藻さんは即座に元の姿に戻るとナーガラスタへと距離を詰める。
「全員何してるッ! 俺だけに任すんじゃねぇよ! 単身でナーガラスタに勝てるわけねぇだろ!」
咄嗟の怒声にハッと我に返る。
って、薬藻さん、ちょっと情けないこと言わないでください。
ま、まぁ薬藻さんらしい感じはしなくもないけど。
彼はチートな存在ではなくレベルをあげたりしてるわけじゃない。
普通にクラスメイト同士で対戦したら下から数えた方が早いくらいの実力しかないだろう。
でも、なんでだろう。彼が一人いるだけで、私、もう、負ける気がしない。
「ふぉ、フォローします! トリプルマジック、ライトニング、シェ・ズルガ、レイ・ルライア!」
私に少し遅れ、龍華さんが、完全さんが、武田さん達が動きだす。
感動の再会は後、ナーガラスタ討伐が最優先だと、皆が一斉に動きだす。
小出さん達は残った魔王……なんで魔王が復活してるの?
「丁度良いイチゴ、汝こちらのフォローをせい!」
「ええっ!?」
「ナーガラスタ一人だ、アレだけ居れば問題無いわ!」
小出さんの怒声に負けて、私は慌ててそちらのフォローへと向かう。
薬藻さんが来てくれたし、こちらはお任せ致します。
代わりに、魔王の殲滅、頑張りますッ!




