出席番号12・下田(しもだ) 完全(あるてま)
聖が高速で飛びかかった尻尾を喰らい吹き飛んだ。
かなりの衝撃だったようで人が潰れるさまを見せつけられてしまったが、勝利を確信し聖にトドメを刺そうとしたナーガラスタに隙が出来た。
当然、こんな好機を見逃す私じゃ無い。
点穴を突くことは出来なかったが拳を突き出しナーガラスタの脇腹を穿つ。
横合いからの一撃はまともに入った。
何が起こったか分かっていないナーガラスタはくの字に折れ曲がり唾を吐く。
「がぁっ!?」
「断末魔作成拳・タラ三連ッ」
「ふざけ……どうしましたかー、タ○ちゃんですぅ、うわー凄いですぅ」
……ふむ。この連撃は台詞が長い。却下だな。
地面を滑走するナーガラスタは、さすがにこれで死ぬ事は無かった。
断末魔にすらなって無い。
「下田ぁぁぁッ」
「やぁ、ナーガラスタ。そろそろ終わりと行こうじゃないか」
「ふざけるな、ただの人間が、神に勝てると奢るなァッ!!」
くっ。圧力が変わった? そろそろ本気で来るかナーガラスタ。
だが、巨大化する程度の芸なら落胆モノだぞ。
ただのやられフラグだからな。
九つの首が捩るように一つに纏まって行く。白き光に包まれて行くナーガラスタは、どう見ても第二形態移行とか、変身の類に見える。
ゲーム好きがいたら流石ラスボスとか叫びそうだけど、私はそういうのあまりしないから。
この前綾嶺に誘われて家でRPGゲームを見学した程度だ。
いや、待て、アレは第二形態でいいのか?
変身を終えたらしいナーガラスタは首を一つにし、スマートな人型フォルムを取ったただの蛇人間へと変貌していた。
「地獄を見せてやる、下田完全ッ」
「そうか。ならば私は地獄に送ってやるよナーガラスタ。片道切符だ。有難く受け取れ」
地を蹴ると同時に拳を溜める。
突撃して来たナーガラスタの加速が上がった。速い!?
拳を突き出すより早く膝蹴りが顔面に襲いかかった。
ぎりぎりで仰け反ることでダメージを軽くするが、衝撃を殺し切れずに吹き飛ばされる。
「オイオイどうした。ちょっと力を増加させただけでこの程度か人間ッ」
「青龍乱舞ッ」
「チィッ」
私が体勢を立て直す間を、回復した聖が稼いでくれた。
気合いを入れ直し戦場に再び参戦する。
「月下暗殺拳、鼈殺し」
「二人だけじゃありませんから!」
私と聖の攻撃の隙間を矢沢が潰す。
さらに坂崎のサイコキネシスで動きを止められ、八重閃光弾が開いた隙間からナーガラスタに襲いかかる。
しかし、そんな連撃をくらいながらもナーガラスタは聖を吹き飛ばし、私を弾き飛ばす。
いくらなんでもおかしい。本気でこの力が出せるなら、桃栗など楽に捻り殺せるんじゃないのか!?
何か秘密がある?
「ナーガラスタ。随分と奥の手を使ってしまったんじゃないのか?」
「チッ、忌々しいな下田。お前の言うとおり、こいつぁ増強剤を使った副作用付きの強化技だ、使っていない筋力や魔力を一気に使うからな。力を使いきったら数年単位で動けん。だが、桃栗から、長年の恨みから開放されるならばっ、安いダメージだ」
渾身の一撃をぎりぎり受け止める。
両腕がミシリと軋んだ。
受け止めきれずに頭蓋が揺れた。無様に吹き飛ぶ自分を天使が受け止める。
「……八神か」
「ちょっと待ってて、今回復する。ヒールライア」
私の折れていた腕が回復した。
今の一撃、地面に激突してたら私は死んでいたかもしれない。
八神が受け止めてくれて助かった。
「アトミックマンの御蔭で余裕できたからなんとか気付けたけど、アレ、ナーガラスタ? ちょっとヤバい状況じゃない?」
「その通りだ。まさか私と聖のタッグでも受け止め切れんとはな。チート連中に頼むしかないか」
「いや、あんたらも充分チートだからね」
しかし、私達で敵わないとなると使えるのは小出とヌェルになるのだが、小出は魔王を撃破で忙しいし、ヌェルは……あいつどこにいった?
八神に地面に降ろして貰い、周囲を見渡すと、ヌェルが居た。
あいつあんなところに。出待ちを狙っているのか?
今はそんな余裕はないだろうに、相変わらずトラブルしか呼べないらしいなあいつは。
だが、あそこに居てくれるのは正直有難い。
「八神、私はもう一当て行って来る」
「おっけー、気をつけてね」
当然だ。それに……ああ、身体が震える。
圧倒的な強者だと、認めているのだ私は。
目の前のドーピングしたナーガラスタを、自分でも勝てるか分からない強者だと。
震える。滾る。そう、これは恐怖や恐れじゃない。武者震いだ。
「月下暗殺拳継承者・下田完全……参る!」
秘技など不要。持てる力全てを使い、ナーガラスタを止めに行く。
突撃と共に繰り出す拳が突き刺さる。
ナーガラスタは物ともせずに聖を吹き飛ばし破壊光線を増渕と坂崎へと吹き付ける。
マズい。思わず止めようとした私の腕を掴んだナーガラスタが八神向けて私を投げ飛ばす。
増渕が無効之盾で防ぎ、坂崎が瞬間移動で回避した隙を付き、ナーガラスタは桃栗向けて走り出した。
咄嗟に受ける体勢を取る矢沢。その光の盾に、渾身の拳が炸裂した。
ピキィィィッ。澄んだ音を響かせ結界が崩壊する。
驚く矢沢を蹴り上げ、焦燥する桃栗へとナーガラスタの拳が……
がしぃッ。
ナーガラスタの身体が止まる。
桃栗の前に飛び込んだ黄金の髪が風に靡いた。
ナーガラスタの拳を受け止めた漆黒の靄を纏った掌があった。
「まだ来るか、邪魔すんな……邪魔すんなよヌェルティスぅぅぅ――――ッ」
「残念だったなナーガラスタ。主役は遅れて来るものだ。ここから先は儂が相手だ。ククク、ハーッハッハッハ!!」
出待ちを窺っていたアホがようやく参戦したらしい。全く、心臓に悪い。




