出席番号21・松下(まつした) 星廼(ほしの)
正直な話、そいつを見付けたんは偶然やった。
呆然としたまましばし背中を見送ってもうた。
慌てて我を取り戻して後を追った時にはすでにネリウの背後に辿りついていた。
彼女に気付かれること無くナイフを首筋に当てた時は終わった思うたわ。
なんとか間に合ったンは会話を始めたおかげや。アレがなかったら危なかったわ。
ナイフが首筋に沈む寸前、アイアンクローが枯木直人の反存在に届いた。
後頭部を掴み取り、全力で引き剥がす。
痛いと叫ぶがついさっき痛い以上の事クラスメイトにしようとしたやんな?
反存在も本人と性格変わらんやんか。正直生かしとく訳にはいかん存在や。
皆にも余裕はない。こいつはウチが倒さんと。
身体に外法力を流す。ウチの頭に生えた角が雷電を纏わせる。
危機感を募らせたのだろう。なおとん暴れ出したけど、逃さんへんで!
アイアンクローをさらに強める。
振りまわすナイフがウチの腕を頬を浅く裂いて行く。
「くたばりぃなおとん。全力雷撃や!」
「ふざけんなクソ女っ、テメェ必ず殺……っが!? ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッ!!!」
角に溜まった電流を全てなおとんに注ぎ込む。
あー残念や。電撃食らったら内部の骨見えるんちゃうかったん?
びくんびくん悶えるんはええけど透けなぁ。
力尽きたらしいなおとんを振り被り、ネリウの目の前に思い切り打ち込んだ。
バガァンと盛大な音を響かせ地面がめり込み、なおとんの首が埋まった。
おお、これええかも。
犯罪者は畑に植える。人面植林の刑。ええなぁ、ウチの家の刑罰としておとんに提案上げとこか。
「あとはねりりんの作業や。削ってなぁ」
「え、ええ。ありがとう松下さん、助かったわ」
「気にせんでええよ。やくもんの正室として当然のことしたまでや」
「……ちょっと、聞き捨てならないわね。薬藻はすでに、私と結婚したけど?」
「ウチらの世界では国力の大きい国の姫が嫁ぐ時、位の低い妻は側室にされんねよ」
「「…………」」
バチリ、角に電力は既に無かったはずやけど、ウチとネリウの間には火花が散っていた。
「あなたも、薬藻狙い?」
「これで戻ってきたら凄いやん、平和になるならウチは妻になろ思とるよ。やくもんおもろいし。抱き心地ええんやで」
「だ、抱き心地!?」
といってもマルモ状態のやくもんやけどね。
立ちあがったネリウは両手足がドリルみたいになる魔法を唱え、怒りをぶつけるようになおとんを消し去った。
「まぁ、いいわ。その辺りについては後々決着を付けましょう」
「あんたの泣き寝入りする姿しか見えへんけどなぁ。まぁええで」
魔法を切ったネリウと私はがしりと握手する。
「「今は協力」や」
残る敵はナーガラスタのみでええやんな? 反存在やっけ? まぁええけど。
「ウチらにやれることありそう?」
「とりあえず今はないかな。アレを撃退するスキルか武器か。神殺しの武具でもあればいいんだけど……」
「ん、なぁ、コレ、使えへんかな?」
ウチはネリウの背後にあった汚いズタ袋を拾い上げる。
サンタの袋だ。とりあえず手を突っ込んでみる。
お、なんかある。引っ掴んだ何かを取りだす。
「おーっ。見てみぃねりりん、これ! やくもんヌイグルミマルモばーじょんや!」
「い、いらねぇ……」
思わず汚い言葉を吐いた。とばかりに口元を押さえるネリウ。直ぐに周囲を見回す。
「よし、やってみましょ。神をいえ、ナーガラスタを滅ぼす武器を……??」
「これは……なんやぁダーツに似とるけど、形状違うなぁ」
「でも、これを使えばいいんじゃ?」
「そやな……ん? あ、これパチモンや!? やくもんちゃうでコレ! 全部逆なっとる!」
ウチは注意深くぬいぐるみを見て気付いた。これはやくもんやない! 騙された!
「ああ、これ反存在の袋だから出て来るのも反対のものがでて……ちょっと待った。それってつまり」
ネリウは自分の手に持ったダーツを見る。
神封印の反存在といえば、それはもう言わなくても分かる気がする。
ネリウも気付いたようで、無言でマロンのもとへ向う。ウチも袋持ったままネリウの後を追った。
「痛ったぁ!? 何すんのネリウっち!? 尻に刺さった尻にぃ! 御嫁に行けなくなるじゃないっ」
「駄女神さん。能力、使える?」
「能力? ……おぉ!? なんで?」
「予想通りね。犬神君、死んでからの方が役に立つわね」
「酷い言い草やな。まぁ事実やけど」
なんとか、反撃の武具とスキルは整った。
マロンの女神としての力も戻り、武器は無限に取り出せる。最弱の武器とか神に敵わない武器とか神専用武器とか思い浮かべないといけないけど。
これはもう、言ってええやろ? 反撃、開始やで!




