出席番号25・桃栗(ももくり) マロン
正直、ここまでヤバい状況は想定外だ。
まさか女神としての能力が潰されるとは思わなかった。
今はまだ天使や魔王がなんとかしてくれてるけど、この先もそうだとは言えない。
あり得ないことに目の前にいるナーガラスタは反存在だそうだ。
向こうでも私を恨んでるとかどうなのか。という問題もあるけれど、それよりも問題がある。
ナーガラスタの反存在がいるという事は、魔王達の反存在やあたしの反存在まで存在している、そして襲ってくる可能性が高いということだ。
このナーガラスタだけでも危険なのに、まだナーガラスタもう一人、女神能力全開の私の反存在まで来るとしたら、詰む。絶対詰む。そりゃ全滅の可能性があるのも理解出来る状態だ。
難しいな。これ、かなりこの世界に生きる人にとって地獄だ。
でも、ここまで壊れて、地球の上位神何も手を打たないんだろうか?
まぁ、もう好きに生きろとか言ってたし、放置なのかもしれないけど……ええい、上位神達のいる場所に話を持っていけないのが痛い。能力さえ封印されてなければ……
「っ! 桃栗さん、上ッ!」
「!?」
ネリウっちの言葉にハッと上を向く。そこにはトナカイに引かれる橇に乗った一人のおデブ。
そういえばアレの反存在もいたわね。
犬神の反存在は袋を取り出すと中に手を突っ込みごそごそとし始める。
なんだ? と思った次の瞬間、私に向けて無数の黒い塊が降ってきた。
ボーリング位の丸いモノに土管の入り口みたいなのがくっつき、そこから導火線が出ている。
火の付いた導火線がじりじりと短くなっていきながら、私へと落下しているのは、爆……弾?
「ミストシェルター!」
あたしの周囲に半透明の膜が出来る。
次の瞬間爆音と共に爆風が吹き荒れた。
ぎりぎりあたしとネリウっちは大丈夫だったけど、他の人たちは!?
「毅っち無事ッ!?」
「こっちは無事だ! 大井出の重力操作で爆風が来ない! それよりも上空のデブを何とかしろ!」
何とかしろっつわれても、できることはないですがな。
誰ならなんとかできるんだろう。
「渡さんどこ!? 飛行できるならアイツなんとか……」
「渡さんなら赤城くんについていったわ。可能性があるとすれば……巨人とかかしら。大井出さんが防御に回っている以上使える人を誰でもいから頼むしかないでしょ」
「マジッすか!?」
「私が相手しても良かったんだけど、攻撃してたらあんた死んでたし。役に立たない女神をわざわざ助けてあげただけでもお礼を貰いたいくらいね」
「恩着せがましいわねちくしょうっ」
あたし、役に立たないことでこれ程悔しい思いは初めてでっせ。
いつもは女神の力がいつでも使えたから上から目線で役に立たない人でいようとしてたけど、今は同じ状態でも意味合いが違う。
せめて何か出来れば……
「そうね。何かしたいんなら、とりあえず神にでも祈ってなさい」
「あたしが神だよっ!?」
泣きそうな顔で突っ込む。ネリウっちは毒過ぎると思う。あちしの軟なハートはボロボロだよっ。
ええいもう、神様なんとかしてくださいっ。
って、本当に祈っちゃったじゃないか。
ええい、あたしに出来ること何かないか?
ナーガラスタの次に打つ手でも探って……
……ん? ナーガラスタが求めてるのってさ、結局私が不幸になることなんだよね?
それってつまり、私が不幸そうにしてたら裏でほくそ笑んで、不幸そうに見えなければ焦れて出て来るってことじゃね?
あいつを釣り出すなら、あたしが不安げにしてたら逆効果になるのでは?
「ふふ。あはは……そうか。そういうことか」
「どうしたの桃栗さん。狂った?」
「いえいえ、真理に辿りついただけ。あー、なんか凄く満たされた気分だわ」
周囲は未だに爆音が響いている。
正直三太っちを甘く見てた。これはかなり強力だ。使いようによっては切り札になれるクラスメイトだよ。
「ネリウっち、一応だけど、私を守らなければ三太っちの反存在何とかできる?」
「そうね。やってやれなくはないかしら。私だけならウォーターシールドでなんとかできるし、後は楕円の滝で真下から狙い撃ちね」
「そう。なら、やってみて」
「は? アンタ自身がヤバいわよ?」
「自分の周囲だけなら、守れるんでしょ?」
やや戸惑いながら、コクリと頷く。
ならばやってみた方がいいだろう。
アイツにとってあたしがあっけなく死ぬ方がいいのか。それともか弱くなったあたしを生かさず殺さずクラスメイトたちを各個撃破するのがいいのか。
さぁ、惑えナーガラスタ。
いいようにやられてるけど、ここから先はあたしのターンだ。
女神の実力見せてやる。
神様ってのがどういうものか、見せつけてやるわ腐れ蛇め!
他人任せだけどね!




