女子風呂決死隊・解散編
風呂場。
それはただあるだけでも人々に癒しを与え、体を清潔に保ち、肌を潤す。
風呂場。
それは原初からの憩いの場。
風呂場。
それは至上の極楽にして地上の楽園。
だが、この風呂場はそれだけではない。
女性、入浴。
それだけで、男たちにとっての理想郷へと変化する。
「今回の作戦は?」
「浴場はここから一直線。その先は未知の領域だ」
「なるほど、さすが、アルカディアへは簡単には行けないか」
「だが、行かねばならん。だろう?」
「当然だ」
俺は隣に目配せる。
熱い魂を持った相棒は、俺を見つめ、どちらからともなく握手を交わす。
二人揃って部屋から飛び出し、風呂へのドアへと飛び込んだ。
「まだ着てないな?」
ドアを開くと、そこは脱衣所。そこだけでもかなり広い。
木製の床。
鏡の代わりに銀が使われていて、姿見として四つほど壁に設置されている。
ロッカールームのような幾つもの棚に籠が設置されていて、まるで日本の銭湯を模した様な作り。
扇風機やマッサージ機こそないが、代わりに涼と描かれた団扇がいくつも置かれた籠が鏡の近くに設置されていた。
「おーけーブラザー。脱衣所に敵影無し」
「隠れ場所は無しか?」
「無理だな。風呂場に向おう」
当然、隠れられるような場所など皆無である。
仕方がないので浴場へと足を踏み出す。
押し戸式の扉を開くと、湯気が立ち上ってきた。
「おお、パラダイスかここは?」
「む、見ろ同士河上。あそこに隠れる場所が」
浴室はどこかの銭湯を真似たのだろうか?
大きめの石を幾つも積み重ねた浴槽。
人が数十人入ってもまだ余る程の湯が張られている。
その岩で出来た浴槽の中央に、囲うように窪みが作られた岩が存在していた。
丁度人一人がしゃがんで身を隠せるにうってつけの場所。
否、むしろそのために創造されたとしか思えない場所だ。
しかし、二人は入らない。
「他に約束された大地は?」
「…………」
「…………」
二人して見回す。
しかし、それらしい隠れ場所は見当たらない。
隠れられる場所は一つ。
そして、隠れられる者も、一人。
「武藤。俺の為に死んでくれるか?」
「ほぅ、英雄が覗き行為など、していいと思っているのかね」
お互いに、譲れないものがあった。
お互いに、逃げられない戦いを知った。
そして両者は頷き合う。
「…………」
「…………」
俺と河上は、無言のまま互いに向き合い構える。
「残念だよ。正義のために、君を消さねばならないなんて」
「ああ、分かりあえると思っていたのにな……」
互いに最高のパートナーだと思っていた。
しかし、悲しいかな。幸福を得る者は唯一人。
ここに、二人の共闘は終わりを告げた……
拳を握り、互いに邪魔者を消すべく拳を振り上げた時だった。
脱衣所に誰かの入り込む気配。その数三つ。
相手の顎に触れる直前で寸止め状態の俺たちは、ここでもアイコンタクトを成功させていた。
やはり、基本的な部分で馬が合うらしい。
互いの考えていることが難なく分かる。
走るように風呂へと飛び込む。
綺麗な弧を描き、着水の音すら立てず己が死地を離脱せんと唯一の安全地帯へと向かう。
「正義、執行ッ。ジャスティスセイバーッ」
なんっ!?
思わず水面から顔を出す。
その上を、真っ赤なスーツが飛翔した。
「ふはは、武藤、正義の味方である俺を出しぬけると思うなよ」
バカな!? こいつ、覗きの為に変身したというのか!?
ジャスティスセイバーとなったらしい河上は、俺を追い抜き唯一の安全地帯へ身を隠す。
なんてことだ。隠れる場所がなくなったっ!?
これでは……これでは俺が見つかってしまう!?
脱衣所の三人はガールズトークに花を咲かせつつも、すでに脱ぎ終わったらしい。
浴場へと向かってきている。
非常にマズい。
シザーマンティスと対峙した時より、戦闘員と生身で戦った時より、蛇男に教室を侵略された時よりもっ。
どうする? どうすればいい? この危機を乗り切るにはっ!?
カラリ、運命の扉が開いて行く。
俺は、意を決して水中へと身を隠す。
そして、言った。
「flexiоn!」と。




