対魔王軍作戦会議2
我慢ならん。
最初の内は、俺もただ聞き流すだけだったのだが、こいつらの作戦会議は作戦のさの字も知らんのかとツッコミたくなる程に稚拙なものだった。
聞けば聞く程米神に青筋ができるのが自分でもわかった。
武藤のヤツは俺のように黙って聞いている様子だが、どう見ても作戦を考えているようには見えない。 このままではあいつもこいつらの作戦を容認するだろう。
唯一の歯止め役であるのに、全くもって成ってない。
だから、俺は立ち上がり、卓を叩きつけた。
「阿呆か貴様らッ。それは作戦とは言わんッ」
「むぅ。ならば日本、お前にはその作戦とやらがあるのか?」
「ふん。作戦を行う前にまずすることがあるだろうが。それすら理解していないのか貴様らは。これはただの戦いではない。戦争だぞ? ならば情報を得るのが先だろうが」
そう、戦争とは、簡単に言えば情報戦だ。
相手の行動を読み合い、手数で潰し、武力で潰し、的確な場所に的確な戦力を放り込む事で勝ちを拾えるものである。
確かに、情報がなくとも数で押せる場合もあるが、そんなものは稀だ。
古来から、相手を知り、自分を知れば百戦危うからずと言われているのだ。
情報なくして何が戦争か。
昔の日本であれ、アメリカであれ、互いの情報を読み合い争ったのだ。
あのペリリューだって最初は要所であると攻められたわけで、俺が死んだ時にはアメリカが掴んだ情報により重要拠点から外されていたくらいで、護る意味すらなくなっていた。
あの時、その情報をいち早く知れていれば……と思うが、あの時の日本では俺の異動はなかっただろう。
結局死ぬべくして死地に送りだされたことに変わりはないのだ。
「いいか。まずは敵の戦力を確認する。そして自分たちの能力を確認する。そこで初めて作戦を練るんだ。何も知らない今の状態で手が打てる訳がないだろう」
「それはつまり、魔王軍を調べる必要があるということか?」
「ああ、その通り。知りたいのは、どれくらいの戦力か。できれば強力な個体と攻略法があればなお良い。それと到着予想時間。この土地への侵入経路。敵が今まで潰してきた国との戦歴があればさらに良い」
これを敵に見つかることなく、さらに素早く情報を手に入れることが必要になる。
「ふむ。となると、素早い行動が行えて隠密性の高い奴が必要か……」
増渕が思案するように顎に手をやると、山田が武藤に視線を送った。
どうやら武藤が適任なようだ。
「おい、武藤。お前が適任みたいだが、どうだ?」
「お、俺!?」
俺が声を掛けてみると、予想外だったのか、素っ頓狂な声を上げた。
「あら。薬藻は適任でしょう? 何せ暗殺隠密なんでもござれの怪人なんですもの」
嫌味な笑みを見せて山田が笑う。
なんであんな顔してるんだと思ったが、どうにも武藤にくっつく田中を意識しているようだ。
……ふと、疑問に思うのだが、なんであんな奴がモテるのだろうか?
いや、別に嫉妬してるとかではない。
俺だって前世では妻が居た身だ。女性に意識されている男を見た所で妬みなどありはしない。
ただ、純粋に疑問なだけだ。
何故かといえば、怪人だぞ? しかも醜悪な容姿の怪人に変身する男なのだ。
なのに、この会議室を見回すだけでもかなりな人数が武藤の行動に注目しているのが分かる。
しかも恋する乙女の眼でだ。
戦術に関してはそれなりに秀でた俺だが、どうにも男女の機微にはそこまで秀でていない。
なので、変に突っ込んで聞くのもどうかと思う。
山田の八つ当たりにも似た行為で斥候に任命されそうな武藤。
どうにか矢面から逃れようとする武藤だったが、彼に決定されることはなかった。
「その話、あたしたちがやってこようか?」
唐突に、会議室の外から声が聞こえた。
「何者だッ!?」
俺たちは即座に椅子から立ち上がり、構える。
すると扉が開き、会議室に三人の女が現れた。
「んー、グッドタイミング?」
「わわ。皆こっちに来てたんだ」
その女たちに見覚えがあった。
一人は、いつの間にかパーティーから離脱していた八神百乃。
彼女を先頭に、左右に控えるようにやってきたのは、クラスメイトの二人だった。
綾嶺麁羅と下田完全である。
二人がなぜこの世界にいるのかはわからないが、どうやら八神が合流してここに連れてきたようだ。
ただ脱走しただけではなかったのか。これは嬉しい誤算だ。
「立候補するからには、こなせるのだろうな?」
「ええ。あたしと麁羅が調べてくるわ」
「えええっ!? 私聞いてないよ!?」
「聖戦士は一心同体なの。さっそく行くよ」
と、綾嶺の襟首引っ掴んで踵を返す八神。
俺は慌てて呼びとめた。
「ま、待て八神。その前にお前たちのステータスを見せてくれ」
「……は? 前に見せたじゃん」
「状況が異なる。全員、隠し事は無しで能力の全てを開示してほしい。適材適所に人員を配置するために必要な事だ。全員、生存して帰りたいのだろう」
八神は険しい顔で俺を睨みつけてきた。
余程能力値を見せたくないようだ。
おそらくここに居る何人かは同じ気持ちだろう。
それでも、これは絶対に必要なことだ。
能力を隠したせいで仲間を死なせることに繋がるからだ。そこで後悔されても後の祭りである。
「頼む八神。いや、ここにいる全員」
俺は座席から離れ、空きスペースに向うと、八神に向いたまま、そこに膝と手を突いた。
そのまま土下座ポーズで頭を床に付ける。
「味方である俺を信頼して、作戦を立てさせてほしい」
勇者パーティーだけなら、俺は無理だと悟ったまま、こんな事はしなかった。
俺のクラスメイトたちはその殆どが一般人とはかけ離れた能力を持っている。
もし、それを全て理解し、適所に配置できるなら、あのペリリュ―で味わったような屈辱も、絶望も回避できるのではないか。
俺は二度目の人生で、一度目の人生の心残りをやり遂げたいのかもしれない。
絶望的戦力差を覆す事ができると。
俺の作戦で、ただ撤退させるだけじゃなく、全員無事で生還させられることを。
だからそのために、俺は頭を下げ続けた。




