ヌェルティス、あやまる
見晴らしのいい草原にやってきた俺たちは、ようやく座りこんで休憩を行った。
とはいえ、見張り役として俺と赤城が仲間の周囲で警戒する。
龍華が居ない今、このパーティーでまともに戦えるのは俺とヌェルだけだろう。
まぁ、とつめもそれなりに強いだろうが、あいつ、能天気でマイペースだから何するか分からん。
一応、大井手に任せてはおいたが、多分持て余すだろうな。
大井手を掻っ攫われる形で俺に抱きかかえられた日本は、少し困った顔で俺の一挙手一足投を見ていた。
多分、自分が行おうとしていたのを横から奪って行った俺に非難したいのだろうが、大井手がそれほど嫌がっていなかったので、自分の時と比べて軽いショックを受けているらしい。
惚れた女を奪われたとかじゃないはずだ。そんな雰囲気なかったし、うん、だからこいつに恨まれたりはしていないはず。だからもう、見ないで。なんか睨まれてる気がするから。
爆死しろとか幻聴が聞こえてくるから。しかも俺、自爆装置持ってるからっ。
って、お前か赤城っ!? 聞こえる声で呟くなっ。
「やはり、とつめのおかげで魔物は寄って来ないようだな」
草の上に座って休んでいたヌェルだったが、そこまで疲れていないためだろう。立ち上がって尻をはたくと、俺の元に近寄ってきた。
「気休めの警戒など気にするだけ無駄ではないか、ダーリン?」
「いつ、お前のダーリンになったんだよ。ったく。それよりヌェル。大井手たちと何かあったんじゃなかったか? 今のうちだぞ」
「う、むぅ……まぁ、ダーリンが言うなら、その……言ってくる」
恥ずかしそうに俯き髪を指で弄るヌェル。
俺を斜め下から見つめた後、「言ってくる」と言葉を残して大井手の元へ向う。
少し顔がこわばっていたが、聞いた話じゃ大井手を怒らせたらしいし、また怒鳴られる覚悟をしているようだ。
「あー、その、大井手?」
「……田中……さん。その、無事でよかったわ。あの後、戻ったら田中さんが指名手配で国を出てしまったって聞いたから」
「む、むぅ。それはだな……その……あの……」
「ヌェル。今はその説明は後回し。言う事があるんだろ」
大井手がそこまで怒っている様子ではないので、俺は形だけでも謝れと伝えておく。
まぁ、ヌェルも反省はしているので形だけってわけじゃないけどさ。
「そ、そうだな。ちょ、ちょっと待て……」
ヌェルは大きく息を吸って深呼吸。
何度か行った後で、ようやく息を溜めた。
「大井手、すまんかったっ! 儂の失敗で手塚が死を迎えて、どう詫びればよいか……その……」
「……うん。私も、言いすぎてごめんね。田中さんはにっちゃうを捕まえようとしただけなのに、たまたま運が悪かっただけだって、分かってたのに。しーちゃん、あの後も沢山死んで、私のミスも多くて。護れなくて……田中さんのこと、悪く言えないよ私。だから、一緒にしーちゃんに謝ってくれる?」
「う、うむ。そうだな。手塚にも謝らねばならんな」
「うん。……ところで田中さん。なんでその……武藤君のこと、ダーリンって言ってるのかな?」
「ん? そりゃもう、儂の初めてをダーリンが強引に奪ってそのまま手篭めにされたからに決まっぶ……!?」
俺は慌ててヌェルの口を手で塞ぐ。
余りにもストレートに吐き出してやがったから普通に反応が遅れた。
聞かれたくなかった部分の殆どがすでに大井手の耳に届いていた。
「……武藤……君。ちょっと、その話詳しく……聞きたいな?」
あれ? ネリウがいないのに空気が凄く冷たいぞ?
しかも、何このプレッシャー? あの、大井手さん? 笑顔なのに、なぜそんなに怖いのかな?
「ところで武藤。現状のすり合わせをそろそろ行わないか?」
そんな、危険地帯になりかけたこの土地に、赤城が割って入ってきた。
呆れた声なのは仕方ないが、彼の言葉で一気に真剣さが皆に舞い戻る。
ナイス赤城。俺の窮地を救ってくれる親友はお前しかいないよ。
おお心の友よ。お前の空気の読め無さが俺は大好きさ。
「そうだな。じゃあ、まず順を追って話すとするか」
「ああ。できれば王都で落ちついて話し合いたいところだが……」
「ヌェルが指名手配受けてるんだろ。あそこじゃ無理だ」
「あ、それなんだけど。田中さん、確か狼になってたよね?」
「うむ? 狼化の事か?」
大井手の問いに応えるヌェル。
なるほど、狼化しておけばペットやらテイムモンスターとして紹介できる。
「ふむ。そうだな。ダーリンがそれでいいというならしばらく狼化と幻術で姿を騙くらかしておくが?」
「いや、初めから使おうぜ、それ」
「使う機会がなかったのだ。一人の時は魔王になってくれるわ。と思っておったしな。でも、今なら姿を変えるのが一番よい。それに、狼化をしておるとどうにも魔力が減っていくようでな。長時間変化し続けることは無理なようなのだ。それより、どうやらもう一度場所を変えねばならんようだぞ」
と、ヌェルが視線を上へと向けた。
見上げれば、王城近くの空に、炎で出来た鳥が舞っていた。
「合図か……よし、諸々の話は全員が合流してからにしよう。休憩終わり。皆、あの鳥が居る所に向おうぜ」
俺の言葉で全員が立ち上がる。
なぜか眠っていたとつめは俺が背負うことになった。
おそらく話が面白くなくて眠ってしまったのだろう。さすが子供だ。




