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連れ去られた手塚(笑)

 正真正銘の化け物は、多分巨大オークじゃなくて龍華だと思うんだ。

 ノーダメージで勝利した龍華は、最後に鎌を振って残心すると、ふぅと息を吐きだした。


「すまない。時間を掛け過ぎたようだ。全員無事か?」


「あ、ああ……」


 余りにも冷静に聞いてくる龍華。オークを退治し終えて全員が注目していたため、戦闘の衝撃から立ち直れる奴がいなかった。

 いち早く多少なりとも反応できたのは赤城。ただし生返事だった。


「ふむ。全員無事なら問題ない。とにかく、ここは物騒だ。落ちつける場所に向わんか?」


「そ、そうだな。全員、王都に移動しよう」


「いや、王都はダメだ。だが、その近くの草原なら見晴らしも良い。とつめが居れば並みの魔物も寄ってはくるまい」


 龍華はちゃんとヌェルの事情を加味して提案する。

 王都周辺の草原なら少し移動するだけでいいし、敵も大した奴はいないのでとつめの気配を察知しても恐れずやってくる敵はまずいないだろう。


 ただ、冒険者辺りが何人かいそうだけど。

 そういえば、俺たち以外にフィールドじゃ人に会わないな。

 アルテインたちは例外として、冒険者ってそこまで多くないのだろうか?


 俺は座りこんだ手塚と大井手の元へ向うと、変身を解く。

 膝を折り曲げ視線を合わすと、手塚に手を差し出した。


「大丈夫だったか、手塚? 大井手も」


「武藤君……だよね?」


 手塚は答えられなかったが、大井手が恐る恐る答える。

 幻覚でないことを確認するように、偽物ではないと信じるために。

 俺はその問いに、頷き返す。


「ああ。お前らが別世界に迷い込んだと聞いてな。ネリウに連れてこられたんだ」


「そう……なんだ。生きて、たんだね……」


「ああ、その……河上を撒くために御影と一計案じてな。と、とにかく移動しようぜ。立てるか?」


 俺の言葉に腰を浮かせようとする大井手。しかし、その体は言う事を聞いてくれなかった。


「あ、安心して力抜けちゃったみたい」


 力なく笑う大井手。そして控え目に手塚を覗き見るが、手塚は未だに動こうとしていない。


「あ、あのさ、手塚は……大丈夫だよな?」


「う、うん。たぶん? 武藤君は、その、しーちゃんを連れてってあげて」


「いや、でもお前は……」


「安心しろ。大井手くらいなら俺が運んでやる」


 俺の言葉を遮ったのは、いつの間にか近づいて来ていた日本だった。

 丸坊主の頭を掻きながら、少し照れたように大井手の前に来ると、背中を見せて座りこむ。

 どうやら背負う気らしい。


「え? ちょ、日本……君?」


 さすがに大井手も慌てている。

 恥ずかしがりやな大井手のことだ、絶対に断りながらも相手に押されて最後にはおぶさることだろう。

 大井手と日本についてはこの際放置することにして、俺は手塚を連れて行くことにする。


 ただ、背負おうにも手塚が反応しないので、仕方なく抱え上げることにした。

 その瞬間、周囲から謎の声が上がる。

 わーぉって、なんだよ。


「だ、ダーリン。それ、それ、それは……お、お、おお、おおおおおおおおお、お姫様抱っこぉぉぉぉぉぉ!?」


 ん? ああ。そういえばそんな名前の抱っこだっけか。

 意識するとちょっと恥ずかしいな。

 しかも下向くと顔が合うし……顔?


「バカなッ、儂だってしてもらったことないのだぞっ!? 許せんッ、許せんぞ手塚至宝ッ! 勇者の分際で儂のダーリンをををッ!!」


 いやいや、俺ヌェルの彼氏になった覚えないってば。

 クソ。ネリウといいヌェルといい、なんで俺の周りにはこう、変な女ばっかり集まってくるんだ?

 もう少しお淑やかな人はいないのか。大井手や伊吹みたいな落ちついた女性はっ。


 などと思ってなければ、多分俺は赤面していたと思う。

 手塚の顔がぼぉっと俺を見つめているのだ。

 普段のツンケンした態度からは想像もつかないほどにその、なんだ。可愛い気がする。


 と、とにかく移動だ。うん。さっさと移動しよう。

 すでに龍華が先陣切って歩きだしている。

 赤城もようやく動き出せたようで、彼女の後を付いて歩き始める。


 俺も手塚を抱き上げながら後に続く。

 すると、憤然としながらヌェルが俺の腕に絡みついてくる。

 その逆隣りにはちゃっかりとつめが陣取っている。


「リア充街道爆走中か武藤」


 俺の現状に気付いた赤城が寄ってくる。

 別にリア充になった覚えはないが、傍から見るとそうなのだろうか?

 俺は、もしかして今、恵まれているのか?


「しかし、聖は強いな。俺達だけでは絶対に全滅していた。とくにあの巨大オークは倒せなかっただろうな」


「勇者パーティーだろ? チート技能はないのかよ?」


「手塚が限界突破を覚えているが、いかんせんこの辺りの敵ではレベルが殆ど上がらない。敵の強さに俺たちのステータスが合っていないので強い魔物に会うことも難しい。明日には魔王が来ると聞いているのに、これでは無謀もいいところだな。それに田中も八神も抜けた。日本は指示を諦め、手塚は後悔しすぎで使えん。せっかく初めの森で地道なレベル上げをと思った所で、アレだ」


「なるほど。チート技能もレベルをあげなきゃ使えないか。レベルを……なぁ」


「ふむ。それは重畳ではないか? なぁ薬藻」


 先頭を歩いていた龍華が声だけをこちらに向けてきた。

 重畳? と一瞬言われた言葉の意味がわからなかったが、気付いた。

 レベル上げに最適の場所、あるじゃない。

 敵を倒せる奴、いるじゃない。

 そこへ向える魔法、あるじゃない。


「と、いうことなら、話は後だな」


 龍華は踵を返すと、俺の前へやってくる。


「……武藤……? 武藤、なンだよな?」


 ようやく、意識が返ってきたらしい手塚が声を出す。

 気付いた俺は立ち止まり手塚を見た。

 手塚は俺に会えた嬉しさに、涙を流して抱きつ……こうとして、龍華によって俺から引き離された。


「イチゴショートケーキ。もう一働きしてもらうぞ。あと薬藻。こちらは任せても良いか? 私達は直接王国に移動することにする。明日までには戻る」


 龍華の言葉にイチゴが近くに寄ってくる。もう、自分の役割に慣れたようだ。


「あ、ああ……」


「え? ちょ、待てよ聖、あたしまだ武藤に……」


「ムーブ!」


 ……手塚が、拉致られた……

 消えた龍華たち三人を呆然と見送る俺達。

 折角なので、未だ押し問答中だった大井手を無理矢理掻っ攫うようにお姫様だっこしてやることにした。

 なんかちょっと手持ちぶたさだったんだよ。けっして惚れさせようとか思ってないからな。

 赤城がリア充爆死しろとか言っていたが、無視する事にした。

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