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第93話 毒キノコに浸食された村

 元の場所へと引っ越したラフラ村が毒キノコの栽培によって壊滅的な被害を受けてしまったということで、


「そういう訳でございますから助けてください旅のお方!」


 私たちはさっそく村長に呼び出されて、深々と頭を下げられている。


「俺たちからも頼む!」


「もう毒キノコに囲まれるの嫌だ!」


 ハイノさんや他の村人たちも村長の屋敷……真っ赤なスカーレットなんとかキノコに壁を破壊されているが……屋敷の前でみんなが私たちに頭を下げている。


「そんなこと言ったって……」


 アルマはどうしたらいいかわからずに私とユミス様に助けを求めていた。


「以前に訪れたときは食虫植物のフライトラップによって村を壊滅させられておったが、今回も偽物の勇者にそそのかされたのかの?」


「いえ、今回は……村の誰かの発案でして……」


「前にやってきた商人がキノコをもってきたんじゃないのか!?」


「そうだっ。あいつが妙薬になるっていうから、俺たちはそれを信じて――」


 村人たちが私たちを忘れて口論という名の責任のなすり付け合いをはじめてしまった。


「やめんか、お前たち!」


 村長が渇いた喉で声を張り上げるが、村の若い衆には当然ながら届かなかった。


「こういう有様なのです。旅のお方、今回もどうかユミス様の加護の下、我らをお救いください」


「お主らはなんというか、業の深い者たちじゃったということじゃな……」


 ユミス様まで珍しく絶句されている。


「ユミ、どうします?」


「ふむ。いささか困ったのう。助けてやりたいとは思うが、植物を枯らすのは得意でなくての」


 ユミス様でも不得意なことがあるのか。


「植物を枯らす場合、炎で焼くか、毒で枯らすかのどちらかじゃ。わらわは火の魔法も毒の魔法も扱えぬ」


 なんと。それはまずい。


「火の魔法は私も扱えないですね。それと毒の魔法なんてあるんですか? 私は初めて聞きますが」


「かなり稀な魔法ではあるが、毒も魔法で扱えるのじゃよ。と言っても、人間では扱えぬ闇の魔法と水の魔法を混ぜねばならぬがの」


「闇と水の合成魔法ということですか。道理でギルドでも教えられなかった訳だ」


「闇の魔法は魔王や邪神しか扱えぬ魔法じゃからの。さらに別の魔法と合わせねばならぬのじゃから、毒の魔法が人間界に伝わっていなくて当然じゃ」


 闇の魔法か。少しだけ興味あるかも。


「魔法がだめなら、武器で斬るしかない?」


 アルマが妖精銀のランスを見せつける。


「そうだな。でも数が多いしキノコもでかいぞ」


「大きいけど、なんとかなるよ!」


 アルマにまかせるしかなさそうだけど、一人に負担させたくない。


「火や毒の魔法に代替できる魔法はないか?」


 雷の魔法であれば炎のようにキノコを焼き尽くせるのではないか?


「炎が扱えないのなら雷で代用しますか」


「ふむ。そうするしかなさそうじゃの」


 毒キノコ除去の方針が決まった。


 村人たちを安全な場所へ避難させて、私とアルマで手分けして毒キノコを除去する。


「ほんとにわらわがやらなくて平気かの? 無理して二人でやらなくてよいのじゃが」


「大丈夫です。私とアルマにまかせてください」


「これもレベリングの一環ですから。ユミス様は後ろでのんびりしててください!」


 アルマと持ち場を確認して毒キノコ駆除の開始だ!


 水と風の魔法を唱えて雨雲を発生させる。


 魔力を送り込んで裁きの雷を落下させる。


「おお!」


「すげえ!」


 村人たちから歓声が聞こえた。


 アルマの持ち場からも巨大なキノコが倒壊する音が聞こえてくる。


「アルマはかなり張り切ってるな。のんびりしてたら、ほとんどのキノコが斬られてしまうぞ」


 雷の魔法を連発する。


 雷は威力が高いが、その分魔力の消費も高い。


「雷の魔法はコスパが悪い。やはり火や光の魔法を覚えないといけないか」


 ユミス様が扱えない火の魔法を習得すれば、戦闘の幅が広がるはず。


「火の魔法の習得を真剣に考えてみるか」


「ヴェンツェル!」


 妖精銀のランスと盾を光らせるアルマが私に近寄ってきた。


「そっちはもう終わったの?」


「ううん。まだ終わってないんだけど、前にヴェンツェルがランスに雷の魔法をかけてくれたのをまたやってほしくて」


 ベイルシュミット家の屋敷で戦ったときの武器と魔法のミックスのことか。


「いいけど、武器が壊れるんじゃない? まだつくってもらったばかりなのに」


「このランスは魔法の力に強いって、あのドグラ族の方が言ってたから。いい機会だから試しておきたくて」


 アルマはいろんなことに気づいてくれる。


「わかった。実戦の前に練習しよう!」


「ありがとう!」


 アルマが妖精銀のランスを空へ掲げて、盾で顔と身体を隠す。


「いくぞ!」


 彼女に被害を与えないように、魔力を調節しながら雷を落とす。


 雷が変則的な軌道を描きながらランスの先へと導かれ、


「くっ!」


 雷の力がランスに宿った。


「熱くて重い……けど、これならどんなものでも破壊できる!」


 アルマが重たいランスを振りかぶって目の前の……名前を忘れたキノコに突き刺した。


「おおっ!」


 雷の力を帯びたランスが巨大なキノコを一瞬で粉砕する。


 切断されたキノコの上部は突きの強烈な勢いによって後ろへ吹き飛ばされた。


「すごい威力だ。あのスキルなら燃費の悪い雷の魔法を連発しないで効率よく扱える」


 妖精銀のランスは見た目以上に高性能だ。


「後はアルマにまかせておけばいいか」


 アルマがランスを振り回してキノコを次々となぎ倒していく。


 村人たちの歓声は彼女が動きを止めるまで鳴りやまなかった。



  * * *



「ありがとうございます! 旅のお方」


 夕暮れに作業が終わり、私たちはまた深々と頭を下げられた。


「あなたがたのお陰で悪しきキノコの呪いに侵されずに済みました。この御恩、一生忘れません!」


「元はと言えば自分たちで蒔いた種じゃがな」


 村は雷によって地面が黒焦げになり、また倒壊した巨大キノコによって家屋がすべてなぎ倒されている。


「キノコはいったん取り除きましたけど、これでは村に住めませんよ。どうするんですか?」


「うむむ。そうですな。困りましたな」


 村長と村人たちが一様に顔をしかめている。


「前の場所に戻るしかないんじゃね?」


「あそこもそんなに嫌じゃなかったしなぁ」


 結局、海が見わたせるあの丘に戻るしかないか。


「これに懲りて、今後はキノコの栽培に気をつけることじゃな」


「はい。この胸にしかと留めておきます」


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