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第90話 消えた光の神様

 旅の目的地はまだ決まっていないが、新たな出発を考えると気持ちが高鳴ってくる。


 そういえばユミス様と神殿を経ったときも目的地なんて決めてなかった。


「目的地を無理に決めなくてもいいのか」


 早朝になんとなく目が覚めてしまったので起き上がる。


 なんか肩が少し痛い。


「微妙に寝違えたっぽいな」


 もう少し寝ていたいが、顔でも軽く洗うか。


 のっそりと起き上がって寝室の扉を開けた。


 ユミス様とアルマはまだ寝てるはずだけど、ベランダの扉が開いてる?


 そよ風が吹くベランダの方から話し声が聞こえた。


「ユミス様?」


 ベランダで私に背を向けていたのはユミス様だ。


「おお、ヴェンか。早いの」


「どうやら少し寝違えてしまったようなので」


「ほほ。それは難儀じゃの」


 もう一人の樹の精霊のような方が宙に浮いている。


「あら、ヴェンツェル様。お久しぶりですわ」


「……メネス様」


 この珠のような肌に緑の美しい髪をなびかせる方は森の女神メネス様だ。


「お久しぶりでございます。すみません。お二人の邪魔をしてしまいました」


「うふふ。そんなことは気になさらないで下さい。相変わらずご丁寧なお方ですこと」


 メネス様は王女様のように美しいから、お顔を直視することができない。


「ヴェンよ。ちょうどいいところに来てくれた。そなたも一緒に姉上の話を聞いてくれ」


 私はやっぱりユミス様のそばにいる方が落ち着くなぁ。


「それはまったく構いませんが。何かあったのですか?」


「うむ。実はわらわたちの兄弟で永らく姿を見せない者が一人だけおるのだ」


 ユミス様のご兄弟だから、間違いなく神様のひと柱だよな。


「永らくって失踪でもしちゃったんですか?」


「そうじゃな。姿を消して、もう十年以上は経つかの」


 神様も失踪なんてするのか。


「ヴェンツェル様。わたくしがユミスと話していたのはウシンシュのことです。ご存じですか?」


「ウシン……? すみません、初めてそのお名前を知りました」


「ふふ。素直で可愛らしいこと。では、簡単にですけどわたくしが説明したしますわ。ウシンシュはわたくしの弟。地上の光を司る神です。真面目な子なので諸国を遊び歩く子ではないのですが……ずっと会っていないので彼のことが心配なのです」


 それは確かに心配になるな。


 けど、光の神か。


「メネス様。基本的なことを聞いてしまって申し訳ないのですが、ウシンシュ様は光の神様なのですか? 太陽神ヴァリマテ様が光の神なのではないですか?」


「うふふ。いい質問ですこと。父上はヴェンツェル様がおっしゃる通り、光も司っています。けれども、父上が司るものは多岐に渡ります。ゆえに光を扱うウシンシュが必要なのです」


「要するに光の専門家ということになりますか」


「人間界の考え方ですと、そのような考え方になるでしょう」


 世界に重大な影響を与える光が失われたら一大事だもんな。


「ああ、やっぱりヴェンツェル様はとても可愛らしいお方。このまま獲って食べてしまいたいくらい……」


「あっ、姉上!」


 メネス様がなぜか顔を紅潮させて……気づいてなかったことにしよう。


「要するにじゃ、ウシンシュがいなくても世界の運営に大きな支障はないのじゃが、大事な同胞として捨て置けぬということじゃ」


「はい。その方をこれから探しに行くんですね」


「そうじゃな。忙しい姉上に代わって、わらわたちが探しに行かねばならぬな」


 次の旅の目標があっさり決定してしまった。


「それでは、これからは捜索の手がかりを得るための質問になりますが、ウシンシュ様を最後にお見掛けしたのが十年ほど前なのですか?」


「そうじゃな。わらわも姉上も奴の顔を見ておる」


 十年前か。前の魔王が暴れていた頃か。


「ユミス、二十年前じゃなかったっけ? ウシンシュを前に見たのって」


「そうじゃったっけ? 十年くらい前じゃったと思うんじゃが……」


「違うわよ。二十年前? ううん、三十年前よ、たぶん!」


 おいおい、失踪の期間が十年単位で増えてるぞ。


「というわけでヴェンツェル様。ウシンシュは三十年前にいなくなってしまったのです」


「はあ」


「十五年くらい前だと思ったんじゃがなぁ」


 神様の時間の感覚が人間のそれよりはるかに鈍いことを忘れていた。


「では間をとって十五年くらい前にしましょう。ウシンシュ様を最後に見かけたのはどの辺りですか?」


「どの辺り……?」


 ユミス様とメネス様がまたそろって頭を抱えはじめたぞ。


「最後に見たのって、あそこの樹海よね」


「違う。最後に見たのは西の大森林じゃ」


「ええっ? 西に大森林なんてないわよ」


 千年以上も長生きすると痴呆も患うのか。


 私が言葉を失っている間もユミス様とメネス様は激論をかさねて、


「というわけでヴェンツェル様。ウシンシュを最後に見かけたのはどこかの森ですわ!」


「はあ」


「大陸の西に大きな森林があったと思ったんじゃがのう」


 要するにこの人たち……じゃなかった。この神様たちの情報は当てにならないということで。


「それでは十年以上前に森で会ったということにしましょう。探しに行くのでしたら、どの森がいいのでしょう? 森と一口に言っても大陸は森と山だらけです。広大な土地からおひとりの神様を見つけ出すのは至難だと考えますが」


 そこでまたお二人の痴呆女神様の思考が止まった。


「そんなこと言ったって……」


「わらわと姉上だって、なんでも知ってるわけじゃないし……」


 この状況でどうやっておひとりの神様を探し出せと?


「あらっ、いけない! もうこんな時間だわ。そういうわけだから、ウシンシュのことお願いね!」


「姉上!」


 メネス様が緑の光の粒になって消失して……逃げたな。


「ううっ、姉上はいつもひどいのじゃ。おいしいところだけいつももっていって、分が悪くなるとすぐに逃げ出すのじゃ」


「メネス様って見かけ倒し……じゃなくて意外と残念なお方だったんですね」


「姉上はいつも淑女ぶっておるが、あんな見かけに騙されてはいかんぞ。そうやって騙されてきた人間と亜人が今までどれだけ――」


 早朝の清々しいはずの空気のどこかからすさまじく黒い魔力が発せられてきた!


「ユミス様! メネス様はやっぱりお美しいですね!」


「おほっ。そ、そうじゃ! 今日も姉上に会えてよかったじゃろー!」


 どす黒い部分も相変わらずだった。


 リビングに戻ってユミス様とテーブルを挟む。


「これだけしか情報がないと、さすがに探し切れませんね。もう少しだけでいいので、何か情報はないんですか?」


「ううむ。わらわも姉上もウシンシュと特別に親しいわけじゃないからのう」


「それなら、もっと親しい人……じゃなくて神様がいるんですか?」


「そうじゃのう。光つながりで父と一番仲が良かったかのう。しかし、父上とそう簡単に会える訳ではないし」


 主神ヴァリマテ様の容姿もなにげに気になるが。


「親しい人間じゃと、前の勇者とかかの?」


 前の勇者!?


「勇者ディートリヒですか!?」


「おお、そうじゃ。ウシンシュは前の勇者を気に入り、奴をサポートしてた……と思っておったが、違ったかのう」


 なんでそんな重大なことを忘れるんだこの人たちは!


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