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第86話 邪悪な攻撃を乗り越えていけ

 夜のように暗くなった空にレイスたちが浮かび上がってくる。


「またレイスどもが現れたか」


 ライトニングでレイスたちを一掃する。


 彼らの半透明な身体を焼き尽くすことは可能だが、数が多いっ。


「こんなにたくさん倒し切れないっ」


「早く邪瘴の歪みを探し出さないとダメか」


 手分けして戦う私たちの間でユミス様だけが涼しい顔をしている。


「ユミス様も手伝ってください!」


「わかっておる。仕方ないの」


 ふふと嘲笑って、ユミス様が右手を振り上げた。


 かっと閃光が弾けて真昼の明るさが呼び戻される。


 小さな太陽のような光が辺りを照らして、レイスたち一瞬で消滅させた。


「すごい……」


 ユミス様……さすがだ。


 瓦礫や錆びた剣を振り上げていたスケルトンたちも力を失って元の白骨死体に戻った。


「言ったであろう。悪霊を倒すのは簡単であると」


「そうですが……なら最初から手を貸してくださいよ」


「わらわは基本的に直接攻撃してはならんからの。悪霊の浄化は例外的に行ってもよいが、わらわが魔物を倒したらお主らのためにならんじゃろう」


 私たちに戦闘経験を積ませようと思ったのか。


「この廃墟のどこかに邪瘴が集まっておる。それを早く探し出すのじゃ」


「はい」


「わかりました」


 気を取り直して廃墟を進んでいく。


 目印となるものを探したいが、どこも倒壊した家屋と瓦礫が散らかっているばかりで見分けがつかない。


「あそこにぬいぐるみが落ちてる」


 アルマが駆け寄って瓦礫の中からぬいぐるみを拾い上げる。


「うさぎのぬいぐるみか?」


「そうだね」


 長い耳が特徴的な、白いうさぎのぬいぐるみだ。


 片目や足の一本がなくなっている。


 腹部も破れて中の綿が飛び出していた。


「ここで暮らしてた子どもがもってたものかな」


「そうだろうな。魔物たちに襲撃されるまで、大事に扱われてたんだろうな」


 魔王によって国が滅ぼされたという話はギルドで聞かされたが、滅ぼされた街を直に見ると実感の湧き方がまったく違う。


「いつの世でも魔王の残酷さは変わらぬ。無抵抗な者に対しても情け容赦がない。血も涙もない者たちよ」


 ユミス様は近くの瓦礫の山を眺めている。


「魔王たちはどうして人間たちを襲うのでしょう。共存する道があってもいいと思うのですが」


「あやつらにとって人間やわらわたち善神は邪魔者でしかないのであろう。あやつらとわらわたちでは何もかも異なるからの」


 近くの瓦礫が音を立てる。


 現れたスケルトンたちをユミス様が光の魔法で静める。


「わらわたちと魔物は相容れぬ。何千年と続けられている世界の営みの果てに確立された、ただ一つの真理よの」


 この先に邪瘴の強い気配を感じる。


「不自然な寒気と全身を封じてくるような感覚があります。邪瘴が近くにあります」


「そうじゃな。サイクロプスのときと同じじゃ」


 邪瘴の強い気配に近づくのに従って敵の攻撃も激しさを増してくる。


 人間よりも明らかに大きいスケルトンや、強い魔法を放ってくるレイスたちが果敢な攻撃を仕掛けてくる。


「ヴェンツェル、スケルトンの方はわたしにまかせて!」


「わかった。頼む!」


 アルマが右足を踏み込んで槍を一閃する。


 鋼鉄の槍がスケルトンの骨の肋骨を砕いた。


「ちっ」


 レイスたちには雷を落とす。


 紫電が轟音を発してレイスたちを焼いた。


「邪瘴がどうやらあそこにあるようじゃの」


 ユミス様が指す向こうの広い空間に、黒い太陽のような邪瘴が形成されている。


 広い公園のような場所の、あれは噴水だろうか?


 今は動いていない石のオブジェクトの上に邪瘴の歪みがうごめいていた。


「これを浄化すればいいのか」


「ユミス様、早く浄化してしまいましょう!」


「うむ。じゃが、わらわたちに浄化されたくはないようじゃぞ」


 地面に散らばっている人間の骨がひとりでに動き出す。


 やがて渦を巻くように旋回をはじめて、ひとつの巨大な柱を形成した。


「な……っ、何これ」


「邪瘴が作用して巨大な魔物を生み出したのだろう!」


 骨の旋回が終わって、巨人のようなスケルトンが豪然と姿を現した。


「ずいぶんと大きな魔物よのう」


「ユミス様っ、感心してる場合じゃないですって!」


 見上げていると首が痛くなってしまうほど大きいスケルトンだ。


 だが、高い背丈の他にも漆黒の身体や、まとっている黒い気もかなり特徴的だ。


 スケルトンの親玉が長い右腕を振り下ろしてくる。


「くっ」


 単調な攻撃だが、長く重い一撃はかすっただけで致命傷だ。


「ユミス様とアルマは邪瘴の浄化を!」


「ヴェンツェルはどうするの!?」


「私はこの魔物を引きつける!」


 この魔物はおそらく邪瘴によって支配されている。


 逆説すれば、邪瘴さえ浄化できればこの魔物を動きを停止するのだ。


 アクアボールをぶつけて敵の注意を引く。


 近づいてきたところで水魔法のヴォルテクスを唱える。


 奴の同等の高さの渦を発生させて奴の動きを止める。


「ヴォルテクスではやはり吹き飛ばされないか。ならばエアスラッシュで切り刻むのみ!」


 続けて魔法を唱える。


 スケルトンの親玉の右腕に的をしぼり、真空の刃で腕を切り落とした。


 奴の後ろで白い光が発せられた。


「アルマとユミス様が邪瘴を浄化してくれたか」


 スケルトンの親玉が轟音を発せながら膝をつく。


 黒い気が消失し、闇のような身体も元の白い骨に戻った。


「また人間に生まれ変われるように、陰ながら祈っておくぞ」


 スケルトンの親玉が完全に倒れて元の白骨死体になった。


 夜のように暗かった空も明るさを取り戻していく。


「アルマ。ユミス様。邪瘴の浄化、ご苦労様でした」


 邪瘴の歪みがあった公園の真ん中でふたりが笑顔を返してくれた。


「ヴェンツェルこそ、お疲れ様」


「あっけないほどに簡単に完遂できたようじゃの」


「二人がいれば、そうそう敵にはやられませんからね。この前のようにペルクナスが現れなければ楽勝ですよ」


 ここにあった邪瘴の歪みもペルクナスがつくり出したものなのだろうか?


「そうじゃな。あやつもわらわのように気まぐれじゃからの。毎度のように現れたりはせぬよ」


「そうですね。サイクロプスの場所にあった邪瘴の歪みは奴がつくり出したものでしたが、ここの歪みも奴がつくり出したのでしょうか?」


「それはわからぬ。その可能性もあるじゃろうが、邪瘴というのは邪神が使役しなくても自然と発生してしまうもの。ここの場合は、どちらかというと死者の無念や怨念といったものが邪瘴に変わっていってしまったように思えるの」


 ユミス様が白猫に変化して私の肩に乗っかった。


「そうですか」


「前の襲撃を機にペルクナスが気になっておるようじゃの」


「はい。かなりの強敵でしたから。また現れたら、次はどうすればいいか。そればかりを考えています」


「ヴェンは周到じゃの。前も言ったが、あやつはそうそう人間の前に姿を現さん。そんなに怖がる必要はないが……そうじゃな。そんなに気になるというのなら、もっと強くならなければいけんな」


 もっと強くなる……


「こういう場合、レベル……なんとかと言うのじゃったか」


「この場合はレベリングですね。経験を積んでレベルを上げるんです」


「左様か。アルマにも光の上級魔法を教えねばならぬようじゃな」


「はい。お願いします!」


 このクエストは無事に完遂できたが、課題はまだまだたくさんあるな。


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