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第82話 魔王によって滅ぼされた国

 結局、ギルドに戻ってクエをこなすしかない。


「なはは! で、結局またここに戻ってきたっつう訳か」


 ギルドハウスのロビーにいたところをライツさんに見つかって、また二階の別室で茶をいただいている。


「はい。計画性がなかったですね」


「ベイルシュミット家のツテがあるんだから、金を工面してもらえばいいじゃないか。真面目だなぁ」


「それは最後の手段ということで」


 意気揚々と出発したのに、すぐ帰ったらかっこ悪いだろう。


「どんな理由であれ、有能なお前たちが残っていてくれたら俺たちはラッキーなんだ。大いなる旅立ちの前に、最後の大仕事を引き受けてもらおうじゃないか」


「喜んでお受けします。がっと稼げるクエが残ってるんですか?」


「そりゃまぁ。お前らが一年以上働けるくらいはあるぞ」


 そんなに働きたくはない。


「またナバナに行って稼いできてもらってもいいんだが、それだとあまり面白くないな。街の東門から街道をずっと進んでいくと旧アグスブルクの土地につながるんだが、そこのエルネという滅んだ街が悪霊で溢れかえっているようでな。それをなんとかして欲しいんだ」


 旧アグスブルク? 悪霊?


「あ、悪霊……?」


「要するに邪瘴が蔓延しておるのじゃろう」


 邪瘴が悪霊を……そういうことか。


「あのサイクロプスの問題まで解決したお前たちだ。このクエも難なくこなせるだろう」


「わかりました。しかし、話に不明点が多いので、いくつか質問させてください。旧アグスブルクというのはなんですか?」


「前にアグスブルクという国があったのだ。ここバルゲホルムの東……正確には南東か。そんなに大きくない国だったが、魔王ザラストラによって六年以上も前に滅ぼされちまったんだ」


 魔王ザラストラは勇者ディートリヒが倒した存在だ。


「前の魔王によって滅ぼされた国か」


「そんな国があったなんて……」


 ユミス様とアルマも知らなかったか。


「アグスブルクはバルゲホルムと同じくらいの規模だったはずだが、ザラストラは簡単に滅ぼしてしまった。なんでも、ザラストラが現れたのがアグスブルク南東の国だったらしくてな。国力の低いアグスブルクでは太刀打ちできなかったようだ。

 ザラストラはアグスブルクを滅ぼした後にバルゲホルムへ向かわず、西のフェルドベルクへと遠征した。だが、フェルドベルクは大国だからザラストラの猛攻を抑えて、終いには勇者ディートリヒが現れてザラストラを討伐した。こんな流れだったはずだ」


 前の魔王と勇者の戦いは噂でしか聞いたことがなかった。


「ではディートリヒはフェルドベルクの出身なんですか?」


「おそらくな。だが俺も詳しくは知らない。ディートリヒもザラストラもバルゲホルムの外で暴れてた奴らだからな。隣国といってもこんな辺鄙な場所まで情報が渡ってこないのさ」


 ディートリヒは名前と存在こそ有名だが、噂が一人歩きしている感が否めない。


「本物のディートリヒは今どこで何をしてるんでしょうね」


「本物? ああ、偽者がいろんな街や村で出没してるらしいな。魔王を倒した勇者はその功績から土地をもらったりするもんだが、ディートリヒに関しては不思議とそういった噂がないな」


「本物のディートリヒは魔王との戦いで亡くなってしまったのでしょうか。それとも実は別の人間が魔王を倒して、ディートリヒという存在自体が偽者であったとか」


「わからんな。少なくともディートリヒの存在自体が嘘というのはなさそうだが。魔王と実は相打ちしてたというのはあり得るかもな」


 本物のディートリヒ……どんな人間だったのか、一度だけでいいから会ってみたかったな。


「話が逸れちまったな。今の問題はアグスブルクだ。魔王に滅ぼされちまって、六年が経過しても未だ復興の目処は立っていないという有り様だ。フェルドベルクもバルゲホルムも情勢が落ち着いてきたから、そろそろこの問題をなんとかするか……という状況で、今回のクエというわけだ」


「よくわかりました。ありがとうございます」


「前置きが随分と長かったのう」


 問題の背景を知るのはとても大切だ。


「ナバナのときみたいにまた支援させてもいいが、強いお前らなら自力でなんとかできるだろ」


「そうですね。よく知っているメンバーだけの方が連携がしやすいですし」


「そうだろう。お前たちがクエを達成したことを確認するために部下を差し向けるが、お前たちになんも指示は出さん。サイクロプスのときのようにクエを片付けてくれ!」



  * * *



「強い、強いって言われると、なんかプレッシャーを感じるね」


 ギルドハウスを出たときにアルマがつぶやくように言った。


「ライツさんにそんな意図はないと思うぜ。私らの実力を認めてくれてるんだから、ありがたいじゃないか」


「そうなのかな。わたしは、そんなに自信もてないかも……」


 アルマは心配性なのかな。


「邪瘴に支配された人間を前に討伐しておったのじゃから、大丈夫じゃ!」


「うう……ユミス様も呑気すぎますって」


「ほほ。神のわらわからしたら悪霊など雑兵に等しき存在よ」


 ユミス様が金のアサメイをとって笑った。


「これから戦いに行くのじゃから、アルマに武器が必要じゃのう」


「はい。でも妖精銀のランスと盾ができるのはまだ先ですよ。どうしましょう」


「丸腰で悪霊と戦う訳にもいかぬしな」


 安物でいいから槍を買うか。


 街の東の武器屋でロングスピアを購入してアルマに持たせた。


「安物で悪いけど、これならどうだい?」


「ありがとう」


 公園の広い場所でアルマが槍の感触を確かめる。


「はっ」


 長い柄の中心をつかんでくるくると縦にまわす。


 ぴたりと止めた槍の石突きを左手でつかんで、俊敏に突きを繰り出す。


「おおっ」


「なかなか、様になっとるのお!」


 槍の穂先を払いながら身をひるがえして、さらにまた回転をくわえて強力ななぎ払いを繰り出す。


 びゅんと穂先から風を切る音が聞こえた。


「軽くて使いやすいけど、やっぱりランスの方がいいかな。柄が細いのが気になるけど」


 普段のアルマは出会ったときの印象から大きく変わらないけど、武器をもつと顔が変わるなぁ。


「槍とランスってそんなに違う?」


「そうだね。同じ突きを主体とする長柄武器だけど、ランスの柄はこんなに長くないから……」


 気づけば周りに見物客が公園に現れていた。


「ねえちゃん、かっこいいな!」


「もう一回見せて!」


 アルマは人気者だな!


「ええっ!? そういうつもりでは……、なかったん、だけど……」


「アルマよ、皆が望んでおるのじゃからサービスしてやるのじゃ!」


「えっ! そ、そんなぁ……」


 アルマは美人なのに人前に立つのが得意じゃないんだな。


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