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第81話 オリジナルのランスを発注だ!

「お主らいい加減にせんかぁぁぁ!」


 後ろから強い何かが飛びかかってきた。


「くっ!」


 とっさに身をひるがえして襲撃をかわす。


 私を飛び越えて前の壁にぶつかった白猫は……やっぱりユミス様か。


「あっ、ユミス様!」


「お主ら、わらわがいないのをいいことに、公然の面前で、いちゃいちゃ、いちゃいちゃと……」


「いちゃいちゃなんてしてませんって」


 ユミス様が白い煙を放出して幼女の姿に戻った。


「宿でおとなしくしてなかったんですね」


「な……! ヴェンはあんまりじゃっ。昨日はその……ちょっとアレじゃったが、もう少し優しくしてくれてもよいではないか!」


 一応、反省はしてるんですね。


 ユミス様がアルマに泣きついた。


「ヴェンツェル、もうこの辺で許してあげてよ」


「ふぅ、わかったよ」


 あんまり空気を乱したくないし。


 気を取り直してランスを製作してくれる人を探そう。


「それで、アルマが次に使うランスは見つかったのかの?」


「それがまだ……この周辺のお店では扱ってないみたいで」


「ふむ。それは困ったのう。わらわも武器は作れぬし」


 神様でも武器はつくれないか。


「でも頼めばつくってくれる人がいるかもしれないから、その人を探そうと思ってるんですよ」


「そのような状態であったのか。旅立つのはもう少し先になりそうじゃのう」


 近くの屋台で食事を摂って、街の南東へと向かってみる。


「この辺りも鉄のにおいが充満してるのう」


「なんだか武器屋さんがありそう! という感じですねっ」


 午前中の鍛冶屋街ほどではないが、鉄を打ちつける音は聞こえてくる。


「そこの鍛冶屋に入ってみよう」


 錬金術師のパウリーネさんのアトリエと同じくらいの広さの工房だ。


 鉄のにおいが充満した室内は鉄クズやトンカチが床に転がっている。


「誰だい。関係者以外、立ち入り禁止だよ」


 部屋の奥から出てきたのは犬のレトルさんみたいな亜人だ。


 熊のような大きい身体に、黒い体毛。


 私の顔よりも大きそうな耳がぺたりと垂れ下がっている。


「ここは武器工房ですか?」


「そうだよ。その辺の武器屋から頼まれて武器を卸してるのさ」


 ここでランスをつくってもらえないだろうか。


「個人からの発注も受けてます?」


「個人? んー、そういうのはあんまり受けてないけど、つくって欲しい武器があるのかい?」


「ええ。ランスをつくって欲しいんです」


「へぇ、ランスねぇ」


 ドグラ族の職人が椅子にどかりと座り込む。


 中に入っていいと言われたので、ユミス様とアルマもいっしょにお邪魔する。


「この辺でランスを使う冒険者はいないから、ここ数年卸してないね。あんたが使うのかい?」


「いいえ。彼女が使います」


 おずおずと頭を下げるアルマを見て、ドグラ族の職人が少しだけ言葉を失っていた。


「きみが使うの? ランスって結構重いけど、平気?」


「はい。バルタ先生……ランスのお師匠様から手ほどきを受けてまして、槍の上級スキルまでは習得しています。以前に使っていたランスと盾が壊れてしまったので、新しい武器が必要なのです」


 大きな袋に入れた重たいランスと小盾の破片を職人に渡す。


「ありゃまあ。随分な壊れ方だね」


「前の戦いがとても激しいものだったので、ランスも盾も壊れてしまったんです」


「こんなにバラバラになるまで戦うって、いったいどんな戦いをしたんだい?」


 闇の神ペルクナスがいきなり降臨して、人間が化け物になった……なんて言えないな。


「冷やかしじゃないっていうのがわかったから、発注を受けてもいいよ」


「本当ですか! ありがとうございますっ」


「ランスを使う若い女性って珍しいからね。ちょっと興味出たかな。でも、制作は時間かかるよ。それでもいいかい?」


「武器の制作ってどのくらいかかるんですか?」


「んー、鋼の長剣なら三日くらいだけど、ランスだと十日はかかるかな」


 予想よりも長いか。


「結構時間かかるんですね」


「うん。早くこしらえることもできるけど、その分仕事が雑になるからね。高品質を求めるなら、少しくらい辛抱して欲しいかな」


 雑につくられてすぐ使い物にならなくなるくらいなら、十日は短いと考えるべきか。


「わかりました。それでお願いします」


「了解。つくる武器はランスで、材料はどうする? 鉄でつくるのが一般的だけど、他にもいろいろあるよ」


「そうなんですか? ええと、どうしましょう……」


 アルマが窮して私に助けを求めてきた。


「材料って、鉄の他にはどんなものがあるんです?」


「んー、安いものだと青銅とか、動物の骨や革を利用するとか、いろいろだね。高いのだときんとか宝石類を使うのもあるけど、相当な値になるよ」


「金は……良さそうじゃのう」


 散財女神の大好物は却下だっ。


「青銅とかは微妙だから、やっぱり無難に鋼かな」


「まぁ、そうだよね。あ、それなら妖精銀を使ってみたら? そんなに値は張らないよ」


 妖精銀?


「あれ、妖精銀知らない? 最近発見された薄いピンク色に光る銀で、魔法の力と相性がいいんだよ。なんでも精霊が好む銀らしくて、女性の冒険者も愛用者が多いよ」


 そんな金属があったのか。


「薄いピンク色に光る銀!」


「妖精銀って可愛い!」


 うちの女性二人も一瞬で食いついた。


「そんな良い銀があるのなら、それで決まりではないか!」


「妖精銀のランス! ああ、ちょっと想像しただけでワクワクしちゃう……」


「アルマよ、それで決まりじゃな!」


 あとはデザインを決めて、値段を交渉すれば終わりかな。


 デザインはアルマにまかせて、値段は……盾の制作も含めて今の資産で工面できるが、旅立つことを考えると不安が残るか。


「良い武器をつくるってなると、やっぱり高いんだな……」


 武器制作の交渉を終えて武器工房を出た頃には、空が茜色に染まっていた。


「お金足りる? エクムントの叔父様にお願いするけど」


「いや、大丈夫。足りてるから。でも、今後の旅費まで用意するとなると、もう少しお金が必要だな……」


「ふむ。ならば稼ぐしかないかの」


 フェルドベルクへ行くのはもうしばらく先になりそうだ。


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