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第80話 ランスを求めて武器屋へ

 フェルドベルクはバルゲホルムの南西に広がる大国のようだ。


 バルゲホルムの数倍もある国土に、屈強な騎士団。


 商業も盛んで大陸有数の強国なのだという。


「フェルドベルクか。どんな国なんだろう」


 胸がわずかに躍っている。


「私も他所の土地へ行ってみたいと思っているのか」


 ユミス様とアルマは南の繁華街にいるはずだ。


 露店で買い物をしてるはずだが、すぐに合流できるかな……


「可愛い嬢ちゃんなら、こっちの方が似合うぜ!」


「おおっ、そうなのか? おほ、すんごいキラキラじゃ!」


「ユミス様、こっちのブレスレットも可愛いですよ!」


 一瞬で発見した。


 っていうかまた怪しい露天商にカモられてるじゃないですか。


「じゃあネックレスに指輪五個、イヤリング三つにブレスレットまでおまけして、たったの二十五万リブラ! 他所で買ったら五十万は下らないよー!」


「おお! 他所の半分以下の値段なのかっ? なんというお買い得な――」


「高すぎですよ」


 振り向いたユミス様の細い首根っこをつかんだ。


「げっ、ヴェン――」


「げ、じゃないですよ。買い物していいとはいいましたけど買いすぎですよ! これから社交界にでもデビューされるんですか!?」


 ユミス様が説教を受けてる悪ガキみたいに怯んでいる。


「い、いいではないか! ヴェンはさっき約束したじゃろ。なんでも買っていいと!」


「限度があります。これから諸国を旅しようというのに、旅する前から路銀がなくなっちゃいますよ!」


「う……そこは、ヴェンが、なんとかしてくれると思って……」


 ちょっとでも気を許したら、これだ。


「という訳で今身に付けてるものはすべて没収です」


「そんなぁ!」


 涙目になってるユミス様からアクセサリを……女神様が涙目にならないでくださいっ。


 アルマも繁華街の隅で縮こまっていた。


「アルマもユミス様の暴走を止めてくれないと困るよ。放っておくとすぐ調子に乗るんだから」


「で、でも……このくらい買うのは普通だから」


 その辺りは都合よく貴族の感覚なんだな。


「財布の紐はやはり私が締めないといけないようですね」


「うう……」


「ヴェンは嘘つきじゃ! なんでも買っていいと言ったではないかっ。ヴェンは悪魔じゃ。ケチなペルクナスに取り憑かれた魔王じゃ!」


 喚くユミス様を放っておいて宿に帰還する。


 十万リブラくらい散財されたようだが、致命的な被害だけは食い止めることができたか。


「こんだけ減っちゃったらもう無駄遣いできないですね。私の杖は諦めよう」


「わたしのランスも諦めないとダメかな」


「いや。アルマのランスは必要だ。旅立つ前に良い物を用意しよう」


「さっきの指輪だって充分に必要ではないか」


 散財女神の言葉は無視しよう。


「でも、ランスってどこに売ってるんだろう」


「普通に考えたら武器屋かな? 知り合いがいたら武器を製作してもらうのもありだけど」


 どうせならオーダーメイドで手に入れたいな。


「今日はもう疲れたから、明日にお店を探そう」


「うん。わかった」



  * * *



 翌日にアルマを連れてグーデンの繁華街を改めて散策する。


「ユミス様は連れてこなくてよかったの? だいぶ、ふてくされてたけど……」


「いいんだよ。店の前に連れてったらまた喚き出すから」


 五千年も生きてるはずなのに、なんとも手がかかる……


「この折れたランスと盾、再利用できるかな」


「処分するのはもったいないけど、武器をオーダーメイドする際の材料になると思うんだよね」


 バルタ先生からいただいたランスは中間から先の刃がなくなり、盾も三つに割れてしまっている。


 アルマは大事なものだからと、処分せずにベイルシュミット家の屋敷から持ち運んでいた。


「父が使ってたランスと盾は処分されてたみたいだし」


「お父さんが使ってた武器が残っていればよかったんだけどね」


 ないものねだりをしても仕方ない。


 普段あまり行かない街の南東を目指してみる。


 この辺りの高い煙突から煙が出ているのを、宿のベランダからよく目にしていた。


「かんかんって金属を叩く音が聞こえてくるね!」


 予想通り、この辺りは鍛冶屋街になっているようだ。


「近くの店をのぞいてみようか」


 石造りの無骨な店の壁に長い斧がかけられている。


「すごいな、この斧。ハルバードってやつかな」


「そんな名前の武器があるの?」


「私もよく知らないけどね。冒険者になったばかりの頃にギルドで聞いた気がする」


 向こうで立てかけられているのはロングスピアかな?


「あっちのスピアだとランスの代わりにはならないよね?」


「そうだね」


 アルマが片手でひょいとスピアを拾い上げる。


 スピアの柄や刃を品定めしている姿から武人らしさが感じられる。


「長さは申し分ないけど、細さが気になるかな。もうちょっと太くないと、すぐに折れちゃいそうだし」


「ランスと比べたら細いからね。同じ長柄ながえ武器でも使い方は微妙に違うでしょ」


「そうだね。ロングソードや戦斧と比べたら、使い方はランスにかなり近いと思うけど」


 武器を選ぶのは簡単ではないか。


「いらっしゃい。槍をお探しかい?」


 店主の男性がカウンターから出てきた。


「はい。ランスを探してます」


「ランスか。悪いが、うちではつくってないな。スピアとか斧ならあるんだが」


「彼女はランスにこだわりがあるので、スピアや斧じゃダメなんですよ」


 ターバンのような白い布を頭に巻いた店主が目を丸くした。


「そこのお嬢さんがランスを使うのかい!? きみじゃなくて?」


「ええ。私は魔法使いですし。ただの付き添いです」


「ほえぇー。女が武器を振うのは今じゃ珍しくないが、それでもランスを使う女の来店は初めてだな」


 アルマがスピアを元の場所に戻した。


「すみません。勝手に触ってしまって」


「はは。別にかまわんさ。あんたみたいなべっぴんさんに触ってもらったら、槍も喜ぶってもんさ」


「わたしが触ると槍が喜ぶんですか?」


 アルマが大きな目を瞬いている。


「すみませんが、ランスを売っているお店を知りませんか?」


「ランスをつくってる店はこの近くにはないんじゃねえかな。頼めばつくってくれるやつはいるかもしれないが」


「そうですか。教えていただいて、ありがとうございます」


「はは。ご武運を祈ってるぜ!」


 少しいかつい顔だったけど、優しい店主だった。


「いい人だったね」


「そうだね。昨日の露天商とは大違いだ。ユミス様って悪い商人を引き寄せる力でも秘めてるのかね」


「そんな力、あったら嫌だな」


 あの人……じゃなくて神様は金銭感覚が狂ってるから、即行でカモにされて放っておけば無一文にされるな……


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